179 / 227
第四章 パラレルワールド
第10話 旅の支度
しおりを挟む
その後、3人は出かける準備をするためそれぞれ一度家に帰った。
マーティスによれば、すべて向こうで買い揃えられるし資金は用意されているから、何も持っていく必要はないということだった。しかし、クリスはミラコルンを取りに帰りたかった。それに紗奈も優里もとりあえずの着替えなどはやはり持っていきたいということで、家に帰ることになった。
3人は11時にまたクリスの家で待ち合わせることにした。
クリスが帰宅したとき、家には誰もいなかった。
クリスは早速、マーティスから受け取った“ピューネス”という黒いつなぎに着替えた。
綿のようなしっかりとした生地だが、身に着けていないのかと思えるほどとても軽い素材だった。今にも飛び立てそうな感覚がある。
先に着せたベベは、背に羽はついてなくともピューラと同じように宙を飛んでいた。
マーティスの話では、ピューラよりも飛翔能力をアップしてあるということだった。
試しに、クリスはその場でジャンプしてみた。
「いたっ」
ドンと、大きな音を立ててリビングの天井に頭をぶつけてしまった。
軽く飛んだつもりだったのに、予想以上の跳躍力だった。
『飛ぼうとするんじゃなくって、浮き上がるようにするんだよ』
頭をさするクリスに、ベベがアドバイスをした。
『浮き上がる?』と聞き返したクリスは、以前お城で緑色の髪の少年と空を飛んだときのことを思い出した。
そして、マーティスから渡されたブーツを履いて家を飛び出した。
クリスは目を閉じ、優しく頬を撫でるようにそよぐ風を感じた。
『風と自分とを隔てるその思いを捨てて』
突然、あの少年の声が聞こえたような気がした。そして、ふわっと体が浮き上がる感覚があった。
クリスは目を開けた。徐々に、徐々に体が宙に浮かんでいく────
「やったー!」
宙に浮き上がって、クリスはガッツポーズをした。
2階の窓から、父親の書斎がのぞき込める。
『そうそう。その調子だよ』
そう言いながら、ベベはクリスの周りを悠々と飛び回った。
クリスも真似て両手を前に突き出し、飛びたい方向へ進んだ。
慣れてしまえば、コントロールするのはそう難しいことではなかった。
それから、クリスとベベは追いかけっこするように家の周りを飛び回った。
そんなことをしている内にも、待ち合わせの時間はあっという間にやってきた。
クリスは、慌てて部屋に戻って仕度をした。リュックサックにTシャツや下着、それにお土産用のお小遣いも持った。ミラコルンを腕に巻き付け、部屋を出たところでインターホンが鳴った。
紗奈も優里も、ピューネスに着替えていた。紗奈は髪をポニーテールにして、両耳にピアスをつけていた。
三連のチェーンに、それぞれ小さな星がついた黒いピアスだった。優里は、おさげにした髪をゆるく三つ編みに結っていた。
「あれ?自転車は?」
ふたりの自転車がないことに気づき、クリスが尋ねた。
「エンダに乗ってきたの。紗奈も乗せて」と、優里が答えた。
「どうせ今から別の世界に行くし、見られてもいいかなって思って」
優里は、そう言っていたずらっぽく笑った。
「でも、たぶん誰にも見られていないと思うけど」
同意するように、紗奈も笑顔でうなずいた、
「そっか。そうしたら、ふたりともお城までまたエンダに乗っていきなよ。ぼくとベベは飛んでいくから」
クリスがそう言うと、ふたりとも不思議そうな顔をした。
クリスが思っていたとおり、ふたりはまだピューネスで空を飛べることに気づいていないようだ。クリスは得意になって、その場で飛んでみせた。
「え、すごーい!」と優里が感嘆の声を上げると、その隣で紗奈が「えーずるい・・・」と悔しそうな顔をした。
クリスは笑いながら、ベベと一緒にお城まで飛んでいった。
お城の裏の空き地に停められたヘリコプターは、すでにエンジンがかけられていた。
サングラスをかけたマーティスが、お城の上で爆風に吹かれながら佇んでいる。クリスとベベがお城の上に着地すると、マーティスは軽く頭を下げた。
それから間もなくして、紗奈と優里を乗せたエンダが裏の空き地に降り立った。
ふたりがエンダの背から降り立つと、マーティスは早速ヘリコプターに案内した。操縦席には、髭を蓄えた外国人男性がひとり座っていた。ヘッドホンを装着し、色の濃いティアドロップをかけている。
3人が機内に乗り込むと、「ハーイ」とその操縦士が笑顔で握手を求めた。雰囲気からして、銀河連邦の人間ではなさそうだ。大きな手を握り返して「ハーイ」と、3人も挨拶をした。
横一列に3つ並んだシートの奥からクリス、紗奈、優里という順で座った。ベベはクリスの膝に乗り、エンダは小さく姿を変えて優里の手の上に乗った。荷物はそれぞれうしろのシートに置いた。
最後に乗り込んだマーティスは、ドアを閉めるとパイロットの隣に座った。それから『どうぞ、こちらのヘッドセットをお付けください』と言って、マイク付のヘッドホンをそれぞれに配った。
3人は言われた通りそれをセットし、それから指示された通りにシートベルトを装着した。
すると機体が浮き上がった。ヘリは方向転換しながら空高く上がり、空港へと針路をとった。
クリスが眼下に移り過ぎていく景色を眺めていると、紗奈が袖を引っ張った。そして『あとでピューネスの飛び方教えてよね』と、すねるように言った。
その後間もなくして、クリスは急激な眠気に襲われた。ズーンと頭が重くなる、例のアレ・・だった。
風光都市以来、久しぶりにその症状に見舞われた。クリスはたまらず目を閉じて、シートに頭を預けた。
マーティスによれば、すべて向こうで買い揃えられるし資金は用意されているから、何も持っていく必要はないということだった。しかし、クリスはミラコルンを取りに帰りたかった。それに紗奈も優里もとりあえずの着替えなどはやはり持っていきたいということで、家に帰ることになった。
3人は11時にまたクリスの家で待ち合わせることにした。
クリスが帰宅したとき、家には誰もいなかった。
クリスは早速、マーティスから受け取った“ピューネス”という黒いつなぎに着替えた。
綿のようなしっかりとした生地だが、身に着けていないのかと思えるほどとても軽い素材だった。今にも飛び立てそうな感覚がある。
先に着せたベベは、背に羽はついてなくともピューラと同じように宙を飛んでいた。
マーティスの話では、ピューラよりも飛翔能力をアップしてあるということだった。
試しに、クリスはその場でジャンプしてみた。
「いたっ」
ドンと、大きな音を立ててリビングの天井に頭をぶつけてしまった。
軽く飛んだつもりだったのに、予想以上の跳躍力だった。
『飛ぼうとするんじゃなくって、浮き上がるようにするんだよ』
頭をさするクリスに、ベベがアドバイスをした。
『浮き上がる?』と聞き返したクリスは、以前お城で緑色の髪の少年と空を飛んだときのことを思い出した。
そして、マーティスから渡されたブーツを履いて家を飛び出した。
クリスは目を閉じ、優しく頬を撫でるようにそよぐ風を感じた。
『風と自分とを隔てるその思いを捨てて』
突然、あの少年の声が聞こえたような気がした。そして、ふわっと体が浮き上がる感覚があった。
クリスは目を開けた。徐々に、徐々に体が宙に浮かんでいく────
「やったー!」
宙に浮き上がって、クリスはガッツポーズをした。
2階の窓から、父親の書斎がのぞき込める。
『そうそう。その調子だよ』
そう言いながら、ベベはクリスの周りを悠々と飛び回った。
クリスも真似て両手を前に突き出し、飛びたい方向へ進んだ。
慣れてしまえば、コントロールするのはそう難しいことではなかった。
それから、クリスとベベは追いかけっこするように家の周りを飛び回った。
そんなことをしている内にも、待ち合わせの時間はあっという間にやってきた。
クリスは、慌てて部屋に戻って仕度をした。リュックサックにTシャツや下着、それにお土産用のお小遣いも持った。ミラコルンを腕に巻き付け、部屋を出たところでインターホンが鳴った。
紗奈も優里も、ピューネスに着替えていた。紗奈は髪をポニーテールにして、両耳にピアスをつけていた。
三連のチェーンに、それぞれ小さな星がついた黒いピアスだった。優里は、おさげにした髪をゆるく三つ編みに結っていた。
「あれ?自転車は?」
ふたりの自転車がないことに気づき、クリスが尋ねた。
「エンダに乗ってきたの。紗奈も乗せて」と、優里が答えた。
「どうせ今から別の世界に行くし、見られてもいいかなって思って」
優里は、そう言っていたずらっぽく笑った。
「でも、たぶん誰にも見られていないと思うけど」
同意するように、紗奈も笑顔でうなずいた、
「そっか。そうしたら、ふたりともお城までまたエンダに乗っていきなよ。ぼくとベベは飛んでいくから」
クリスがそう言うと、ふたりとも不思議そうな顔をした。
クリスが思っていたとおり、ふたりはまだピューネスで空を飛べることに気づいていないようだ。クリスは得意になって、その場で飛んでみせた。
「え、すごーい!」と優里が感嘆の声を上げると、その隣で紗奈が「えーずるい・・・」と悔しそうな顔をした。
クリスは笑いながら、ベベと一緒にお城まで飛んでいった。
お城の裏の空き地に停められたヘリコプターは、すでにエンジンがかけられていた。
サングラスをかけたマーティスが、お城の上で爆風に吹かれながら佇んでいる。クリスとベベがお城の上に着地すると、マーティスは軽く頭を下げた。
それから間もなくして、紗奈と優里を乗せたエンダが裏の空き地に降り立った。
ふたりがエンダの背から降り立つと、マーティスは早速ヘリコプターに案内した。操縦席には、髭を蓄えた外国人男性がひとり座っていた。ヘッドホンを装着し、色の濃いティアドロップをかけている。
3人が機内に乗り込むと、「ハーイ」とその操縦士が笑顔で握手を求めた。雰囲気からして、銀河連邦の人間ではなさそうだ。大きな手を握り返して「ハーイ」と、3人も挨拶をした。
横一列に3つ並んだシートの奥からクリス、紗奈、優里という順で座った。ベベはクリスの膝に乗り、エンダは小さく姿を変えて優里の手の上に乗った。荷物はそれぞれうしろのシートに置いた。
最後に乗り込んだマーティスは、ドアを閉めるとパイロットの隣に座った。それから『どうぞ、こちらのヘッドセットをお付けください』と言って、マイク付のヘッドホンをそれぞれに配った。
3人は言われた通りそれをセットし、それから指示された通りにシートベルトを装着した。
すると機体が浮き上がった。ヘリは方向転換しながら空高く上がり、空港へと針路をとった。
クリスが眼下に移り過ぎていく景色を眺めていると、紗奈が袖を引っ張った。そして『あとでピューネスの飛び方教えてよね』と、すねるように言った。
その後間もなくして、クリスは急激な眠気に襲われた。ズーンと頭が重くなる、例のアレ・・だった。
風光都市以来、久しぶりにその症状に見舞われた。クリスはたまらず目を閉じて、シートに頭を預けた。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
プロミネンス~~獣人だらけの世界にいるけどやっぱり炎が最強です~~
笹原うずら
ファンタジー
獣人ばかりの世界の主人公は、炎を使う人間の姿をした少年だった。
鳥人族の国、スカイルの孤児の施設で育てられた主人公、サン。彼は陽天流という剣術の師範であるハヤブサの獣人ファルに預けられ、剣術の修行に明け暮れていた。しかしある日、ライバルであるツバメの獣人スアロと手合わせをした際、獣の力を持たないサンは、敗北してしまう。
自信の才能のなさに落ち込みながらも、様々な人の励ましを経て、立ち直るサン。しかしそんなサンが施設に戻ったとき、獣人の獣の部位を売買するパーツ商人に、サンは施設の仲間を奪われてしまう。さらに、サンの事を待ち構えていたパーツ商人の一人、ハイエナのイエナに死にかけの重傷を負わされる。
傷だらけの身体を抱えながらも、みんなを守るために立ち上がり、母の形見のペンダントを握り締めるサン。するとその時、死んだはずの母がサンの前に現れ、彼の炎の力を呼び覚ますのだった。
炎の力で獣人だらけの世界を切り開く、痛快大長編異世界ファンタジーが、今ここに開幕する!!!
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
家族と移住した先で隠しキャラ拾いました
狭山ひびき@バカふり160万部突破
恋愛
「はい、ちゅーもーっく! 本日わたしは、とうとう王太子殿下から婚約破棄をされました! これがその証拠です!」
ヴィルヘルミーネ・フェルゼンシュタインは、そう言って家族に王太子から届いた手紙を見せた。
「「「やっぱりかー」」」
すぐさま合いの手を入れる家族は、前世から家族である。
日本で死んで、この世界――前世でヴィルヘルミーネがはまっていた乙女ゲームの世界に転生したのだ。
しかも、ヴィルヘルミーネは悪役令嬢、そして家族は当然悪役令嬢の家族として。
ゆえに、王太子から婚約破棄を突きつけられることもわかっていた。
前世の記憶を取り戻した一年前から準備に準備を重ね、婚約破棄後の身の振り方を決めていたヴィルヘルミーネたちは慌てず、こう宣言した。
「船に乗ってシュティリエ国へ逃亡するぞー!」「「「おー!」」」
前世も今も、実に能天気な家族たちは、こうして断罪される前にそそくさと海を挟んだ隣国シュティリエ国へ逃亡したのである。
そして、シュティリエ国へ逃亡し、新しい生活をはじめた矢先、ヴィルヘルミーネは庭先で真っ黒い兎を見つけて保護をする。
まさかこの兎が、乙女ゲームのラスボスであるとは気づかづに――
悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。
二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。
けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。
ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。
だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。
グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。
そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!
ペトラ
恋愛
ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。
戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。
前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。
悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。
他サイトに連載中の話の改訂版になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる