クリスの物語

daichoro

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第三章 悪魔の儀式

第50話 未知なる孤島

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「きゃっ」

  紗奈の叫び声とともに、カラカラっと石が落下した。



 一行が転移した先は、切り立つ崖の上だった。

 足場は狭く、一歩踏み間違えたら崖下へ真っ逆さまだ。



 周囲は岩壁に囲まれ、上方からかすかに光が差し込んでいるだけであたりは薄暗かった。

 そんな中で田川先生とクリスのルーベラピスが放つ光がより輝きを増し、照明代わりとなった。



「なるほどね」と田川先生がつぶやいた。



「ここは、エンソルゾーソより更に南下したところに位置しているわ。普段は決して姿を現さない孤島ね。その中央に位置する名もなき山の内部よ。

 銀河連邦の情報にもないくらいだもの。なかなか見つからないわけだわ。恐らく、先ほどの隠し転移装置と連動して出現するようになっているのね」



 独り言のようにそう話すと、先生は振り返って剣を抜いた。そして照明を掲げるようにルーベラピスで周囲を照らした。

 それにならって、クリスも短剣を抜いて明かりをかざした。



 山の内部だというその空間は、そこそこの広さがあった。円形に広がる空間に、人がひとりやっと通れるくらいの幅の狭い道が壁に沿ってぐるりとらせんを描くように下へと続いている。



「足もとに気をつけて」



 先生は片手にルーベラピスを掲げ、壁をつたいながら細く足場の悪い道を下り始めた。一行は、一列になってその後に続いた。

 下へ下りるにつれて、先生とクリスどちらのルーベラピスも発する光が増大した。

 最深部に到達する頃には手に掲げておく必要がないほど、その光は十分な明るさを放っていた。



 最深部には、ステージのように円形に広がるスペースがあった。そのステージの周りは、水の流れるお堀で囲われている。



 最深部に到達した一行は、ステージへ架けられた橋を渡った。

 ステージの中央には台座が設えられ、そしてその上に黒く輝く丸い大きな玉が載せられていた。

 それは、風のクリスタルエレメント“ウェントゥス”に間違いなかった。



 少し緑がかった黒い石の玉を前に、クリスは安堵感と共にいくらかあっけなさを感じた。

 アクアの時と違って、ルーベラピスを発動させることもしていない。



「なんか、意外とあっけなかったですね」

 隣に立つ田川先生を見上げて、クリスは思ったことを口にした。



「そうかしら?」と、先生は意外そうな顔をした。

「はい。なんていうか、もっと見つけにくい場所に隠されているのかと思いました。しかも、ルーベラピスを発動させることさえしなかったし」

 先生はふふっと笑った。



「そう?でもわたしがこうして案内してあげたから、あの隠し転移装置だって分かったのであって、本来であればあの転移装置だって見つけられなかったんじゃないかしら?」

「それはもちろんそうですけど・・・。でも、先生は転移装置の在りかを知っていたわけですよね?それなら、なんか他にも知られていてもおかしくないような気がするんですけど・・・」



「他にもって?」

「たとえば、風光都市の人たちとか、闇の勢力の人たちとか」

 先生は、肩をすくめた。



「わたしが見つけられたのは、本当に運が良かったのよ。現に、これまでこうして誰にも見つからずに眠っていた訳だしね。恐らく、他のクリスタルエレメントが発見されたことで銀河連邦も場所の見当がつけられやすくなったのだと思うわ」

「そうなんですか」と返事をしながらも、クリスは首を傾げた。



 たしかに、田川先生に案内してもらわなければ隠し転移装置を見つけ出すことはできなかった。それにソエンゾ山まで歩くという発想すら湧かなかったかもしれない。

 しかし、風光都市のネットワークへ侵入して都市を制圧した闇の勢力が未だ探し出せていないというのに、それを出し抜いてこうもあっさりと見つけられるものだろうか。



 しかし、ウェントゥスは闇の勢力に奪われることなく実際にこうして目の前にある。だからここへ導かれたのはラッキーなだけで、そうでなければ発見するのはやはり困難なのだろう。



「それじゃあ上村君、いい?」

 クリスがひとり納得していると、先生が頭を傾けてウェントゥスを目で示した。



「ぼくがやるんですか?」

「そうね。わたしは今回サポートするように命じられただけであって、入手するように言い渡されているわけではないから、ここは上村君にお願いするわ」

 ゆっくりとうなずいて、先生は言った。



 すると、『おっと、先客がいたか』という声がどこからか響いた。

 その場にいた全員が、上方を振り向いた。





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