クリスの物語

daichoro

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第三章 悪魔の儀式

第46話 田川先生と守護ドラゴン

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 剣を携え、騎士の格好をしたその女性は田川先生だった。



 なぜこんなところに田川先生がいるのか、クリスには理解できなかった。

 先生は闇の勢力の人間だったはずだ。だからこうしてこの場に現れ、ぼくたちの邪魔をしにきたということか。

 いや、でもたった今先生は闇の勢力の男たちを倒していた。一体、どういうことだろう?一瞬にして様々な思いがクリスの脳内を駆け巡った。



 クリスは紗奈と顔を見合わせた。紗奈も眉根を寄せて、不信感を露わにしている。

 そんな紗奈に向かって、「松木さんも無事でよかった」と田川先生は言った。



「びっくりした?」

 先生は笑顔でクリスに問いかけた。クリスは、ただうなずき返すことしかできなかった。



「なんで田川先生がここにいるんですか?」

 あからさまに不満をぶつけるように、紗奈が問い詰めた。

 微笑みを浮かべたまま、先生は紗奈を見た。



「だって、わたしの生徒は担任であるわたしが守らないといけないでしょう?」

 そう答える田川先生を、紗奈はきっとにらみつけた。



「茶化さないでください」

「茶化してなんかいないわ。本当に守ってあげようと思って来たし、現にこうして助けてあげたでしょう?」



 周りで倒れる黒マントの男たちを見渡して、先生は言った。

 そこへ、向かいの通りからパオリーナとエランドラが姿を現した。二人とも無事だったようだ。



『みんな無事だったのね』

 パオリーナは皆が無事であることを確認して、ほっと胸を撫で下ろした。



『この方たちは?』

 田川先生と、男の騎士を見てパオリーナが尋ねた。



『えっと・・・』と言って、クリスは紗奈の方を見た。

 紗奈はふてくされるようにそっぽを向いていた。

 なんと説明すべきかクリスも分からなかったが、ひとまず事実を述べることにした。



『こちらの方はぼくの学校の先生です。学校ってその、地表世界の学校なんですけど』

 そこでクリスは、悪魔召喚事件の件で先生のことをエランドラに話していたのを思い出した。



『あ、エランドラ。この人が田川先生っていう人だよ。前にぼくが話した』

 エランドラは、分かっているというようにうなずいた。



『エイリーンです。それとこちらがスタン。わたしの守護ドラゴンよ』



 田川先生は自分の名前を名乗った後、隣に立つひょろっと背の高い騎士を紹介した。

 黒い髪は肩まで垂れ、うつろな瞳は空虚な灰色をしていた。



「先生にも守護ドラゴンがいるんですか?」

 聞き捨てならずに、クリスは思わず聞いた。



「ええ」と、先生はうなずいた。

 守護ドラゴンがいるということは、先生は闇の勢力の人間ではないのだろうか?

 闇の勢力の人間は、ドラゴンと契約できないとソレーテやトルメイが言っていた。



『ここにいるっていうことは、あなたも選ばれし者なのですか?』

 パオリーナが田川先生に質問した。先生は黙ってうなずいた。



「え、どういうこと?」

 納得がいかないという表情で、紗奈が聞き返した。



「話せば長くなるわ」

 真面目な顔で紗奈に返すと、先生は一同を見回した。



『とにかく、まずはここを出ましょう。その内また追手がやってくるでしょうから』

『そうですね』と、パオリーナもうなずいた。

『あなた方は、ここまでどうやって来たのですか?』

『転移装置を使って来たわ』

 質問したパオリーナに、先生は当然というように答えた。



『意図してきたのですか?』

『ええ、そうよ』

『でも・・・』

 言いかけたパオリーナに、先生はうなずいた。



『ええ、今転移装置がランダムになっているわね。でもその都度オーメンをチェックすれば、行きたいところへ行けるわ』

 パオリーナは驚くように先生を見た。



『一つひとつオーメンを覚えているのですか?』

『まさか』と、先生は苦笑しながらかぶりを振った。

『さすがにそれは無理よ』

 そう言って、先生は顔の前に右手を掲げた。

 そこには、キラキラ輝くひし形の大きなダイヤモンドの指輪がはめられていた。



『ギャラクシアルスよ。それよりは性能がいいようね』

 パオリーナがはめたオーラムルスを指差して、先生は言った。



『そうしたらひとまず地上へ出ましょう。みなさん、こちらへ来てください』

 ひとつの転移装置の前に立って、先生が言った。



『まず、先にみなさんに向かってもらいます。向かう先は、地上のシャーラアシムです』

 地名を聞いて、ピンときたようにパオリーナがうなずいた。



『わたしが合図をしますから、そうしたら転移装置に乗り込んでください。後からわたしたち二人も同じところへ向かいます』

 先生は確認するように、一人ひとりの顔を見回した。

 すると『でも』と、紗奈が意見した。



『わたしたちだけ先に行って、そこが安全な場所だっていう保証はないでしょう?仮にそのシャーラアシムっていう地区が安全だとしても、そこに本当に行けるのかどうかも分からないし』

 紗奈の顔を見つめて、先生はふっと笑った。



『つまり、わたしが松木さんたちを罠にはめるかもしれない、ということね?』

 先生に見つめられて、紗奈はおずおずとうなずいた。



『それは信じてとしか言いようがないわね。この転移装置だと7人全員は一度に乗れないしね』

 腰に手を当てて、先生はため息をついた。



『それなら、スタンさんとわたしが交代すればいいんじゃない?』と、事もなげに優里が提案した。

『それでわたしと田川先生が後から行くよ。それなら問題ないんじゃない?』



 スタンを人質に取るということか。たしかに、それなら少しは安心かもしれない。



『それなら、わたしも後から行くわ』と、エランドラが言った。

 エランドラが優里と来てくれるなら、尚のこと安心だ。紗奈は、分かったというようにうなずいた。

「ごめんね優里」と紗奈が謝ると、優里は「ううん。全然」と言って微笑んだ。



「では、いいかしら?」

 田川先生が紗奈の顔をのぞき込むと、紗奈はうつむいたままうなずいた。



『それじゃあ先に行く4名の方、転移装置の周りに並んでください』



 先生の指示に従ってベベを抱っこしたクリス、紗奈、パオリーナそしてスタンの4人が転移装置の周りを取り囲んだ。



 転移装置のオーメンは一定の間隔を置いて切り替わった。

 全員が変わりゆくオーメンを見つめていると、『そろそろです』と田川先生が言った。クリスはゴクリと唾を飲み込んだ。



『はい。では乗ってください』

 そのかけ声とともに、4人は一斉に転移装置に乗り込んだ。




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