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第三章 悪魔の儀式
第45話 救世主
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ベベが言っていた通り、中央広場へたどり着くまで闇の勢力に出くわすことはなかった。
中央広場は、広場と言えど直径30mほどの円形をしたちょっとしたスペースだった。広場へ通じる道は、ちょうど広場で直角に交わるように全部で4本ある。
広場の中央には大きな噴水があり、その噴水の周りを取り囲むように4つの転移装置が設置されている。転移装置はやはりオーメンがランダムに切り替わっているが、機能していそうではあった。
しかし先ほどの個人宅の転移装置同様、乗ってみないことには分からない。
パオリーナとエランドラを待つ間、一同は広場に隣接する住宅の物置の陰に隠れた。
「エランドラやパオリーナさんたち、大丈夫かな?」
広場の様子をうかがっていると、紗奈が心配そうに言った。
「あの二人のことだから、きっと大丈夫だと思うよ。相当強いし」
「うん。そうね」
クリスが元気づけると、紗奈はため息交じりにうなずいた。
紗奈は、少し気が滅入っているようだ。多少の危険を覚悟していたとはいえ、まさかここまで命の危険にさらされるとは思っていなかっただろうから無理もない。
当然それはクリスも一緒だった。しかし、クリスは海底世界で何度か危険な局面を乗り越えていたから、こういった状況に対する耐性があった。
優里に関しては、そもそも恐怖心というものがあまりないようだ。むしろ、この状況を楽しんでいるようでさえある。
「それにしても、桜井さんすごかったね」
少しでも雰囲気を明るくしようと、クリスが話題を変えた。
「ありがとう。無我夢中だったけど、うまくいってよかった」
「うん。優里本当にすごかった」
紗奈はそう言ってから「なんかでも、わたしだけ何もできなくて足手まといみたい」と、またため息をついた。
「そんなことないよ。ぼくだって何もできないし」
クリスがそう言って慰めると、紗奈は首を振った。
「クリスは、だって選ばれし者でしょう?それにクリスは強いじゃない。アニムス養成校で特訓しているの、わたし見てたもん。ロズウェル先生からも褒められていたじゃない」
「それはそうかもしれないけど・・・でもまだ全然役に立ててないし、今はただ逃げ回っているだけだよ」
「でも、やろうと思えばできることが分かっているじゃない。わたしなんて何の役に立てるのかも分からないのよ?」
「そんなの分からないのは仕方ないし、気にすることなんてないよ」
「シーッ」
ふたりの話を遮って、優里が静かにするよう注意した。それから『あそこ』と言って、一本の通りを指差した。
その通りには、闇の勢力の男たちが三人広場へ向かってやって来ていた。
『こっちからも来る』
自分たちがやってきた通りを覗いて紗奈が言った。
紗奈が視線で示す通りからは、二人の男が広場に向かってきていた。クリスはベベを腕に抱き、息を殺して様子をうかがった。
『え?こっちも、向こうからも来る』
残り二つの通りを指差して優里が言った。どちらからも三人の男が広場を目指してやってきている。
『やばい!目が合った』
優里がそう言って、頭を引っ込めた。
『本当?』
『たぶん。目が合ったと思う。こっちに気づいてるみたい。どうしよう』
『パオリーナさんとエランドラはやられちゃったのかな?』
不安そうな表情を浮かべて、紗奈がクリスの顔を見た。
『どうだろう?まさか、そんなことはないと思うけど』と、紗奈から視線を外してクリスはうつむいた。
黒マントの男は全部で11人いる。その数を相手にするというのは、どう考えても厳しい。
優里が魔法で風をおこしたとしても、一度にこの数を相手にするのはさすがに無理だろう。噴水には水があるが、やはりこの数を相手に戦うとなったらかなり厳しい。
とにかく、転移装置を使ってなんとかこの場から逃げる他ないだろう。エランドラたちと合流することは、逃げた後で考えるしかない。
しかし、転移装置が作動しないということもあり得る。転移装置自体がすべてストップされてしまっていてもおかしくはない。しかし、この状況を脱するには賭けに出るほか選択肢はない。
『ぼくが合図するから、そしたら一番手前の転移装置にダッシュで乗ろう』
ふたりの顔を交互に見て、クリスが言った。
『ぼくがあの男たちの目をくらますから、合図したら一斉に走って』
ふたりは驚くようにクリスを見てから、覚悟を決めたようにうなずいた。
『紗奈ちゃん、ベベをお願い』
紗奈はうなずき、ベベを受け取るとぎゅっと抱きしめた。
クリスは胸の前で両手の平を合わせ、左右の中指と薬指を交差させた。それから神経を集中した。
クリスの両手が光を発し始めた。イメージが完全に出来上がったところで、クリスは物置の陰から飛び出した。
「アクアサルギータ」
中央の噴水に向かって両手をかざすと、クリスは広場に足を踏み入れた大男たちの顔面めがけて無数の鋭い水の矢を飛ばした。
猛スピードで発射された矢は、次々に男たちの顔面にヒットした。男たちが一斉に顔を押さえた。
致命傷には至らないが、目をくらますには十分だ。
『今だ!走って!』
クリスのかけ声とともに紗奈と優里が物置の陰から飛び出し、転移装置へ向けて走った。
「紗奈!右!」と、優里が叫んだ。
走りながら、紗奈は優里の指差す方を振り向いた。そこには、紗奈に向かって杖を構えるひとりの男がいた。
どうやら、その男にはクリスの放った水の矢がクリーンヒットしなかったようだ。クリスは紗奈の元へ走って、とっさにかばうように紗奈を抱きしめた。
男の構える杖の先に光が灯り、ふたりめがけて光線が放たれた。
「うぐっ」といううめき声がした後、ドサッと人の倒れる音がした。
クリスと紗奈は、恐る恐る目を開けた。
小さく身を屈めたふたりの前に、盾を手にした男性がひとり立っていた。肩まで届くほどの長い髪をしたその男性は、黒い騎士のような甲冑を身にまとっていた。
その向こうにはひとりの大男が倒れ、その傍らに杖が転がっていた。
「ラニグラムルグール」
どこからか女性の声が聞こえた。
そしてバリバリバリッと空を切り裂くような音と共に、紫色の稲光が走った。そして、その稲光が黒マントの男たちの脳天に次々と直撃した。
男たちはひとり残らずその場に倒れ込んだ。焼け焦げた頭からは煙が出ていた。
倒れた男たちのうしろには、握った剣を頭上に構える女性の騎士がひとり立っていた。
女性の手にした剣は細長く、刃には細かい彫刻があしらわれ、その模様が光を発していた。
騎士の格好をした長髪の男性が、クリスと紗奈を振り返った。色白でひょろっとしていて、彫が深く頬はこけている。
決して健康的とは言えない風貌だ。セテオス中央部から応援に駆けつけてくれたのだろうか。
クリスと紗奈は、戸惑いながらも頭を下げた。
「あれ、あの人・・・」
優里が、ぎょっとした表情で近づいてくる女性を指差した。
「やっぱり、上村君だったのね」
噴水のそばへやってくると、女性が言った。
「田川先生・・・?」
中央広場は、広場と言えど直径30mほどの円形をしたちょっとしたスペースだった。広場へ通じる道は、ちょうど広場で直角に交わるように全部で4本ある。
広場の中央には大きな噴水があり、その噴水の周りを取り囲むように4つの転移装置が設置されている。転移装置はやはりオーメンがランダムに切り替わっているが、機能していそうではあった。
しかし先ほどの個人宅の転移装置同様、乗ってみないことには分からない。
パオリーナとエランドラを待つ間、一同は広場に隣接する住宅の物置の陰に隠れた。
「エランドラやパオリーナさんたち、大丈夫かな?」
広場の様子をうかがっていると、紗奈が心配そうに言った。
「あの二人のことだから、きっと大丈夫だと思うよ。相当強いし」
「うん。そうね」
クリスが元気づけると、紗奈はため息交じりにうなずいた。
紗奈は、少し気が滅入っているようだ。多少の危険を覚悟していたとはいえ、まさかここまで命の危険にさらされるとは思っていなかっただろうから無理もない。
当然それはクリスも一緒だった。しかし、クリスは海底世界で何度か危険な局面を乗り越えていたから、こういった状況に対する耐性があった。
優里に関しては、そもそも恐怖心というものがあまりないようだ。むしろ、この状況を楽しんでいるようでさえある。
「それにしても、桜井さんすごかったね」
少しでも雰囲気を明るくしようと、クリスが話題を変えた。
「ありがとう。無我夢中だったけど、うまくいってよかった」
「うん。優里本当にすごかった」
紗奈はそう言ってから「なんかでも、わたしだけ何もできなくて足手まといみたい」と、またため息をついた。
「そんなことないよ。ぼくだって何もできないし」
クリスがそう言って慰めると、紗奈は首を振った。
「クリスは、だって選ばれし者でしょう?それにクリスは強いじゃない。アニムス養成校で特訓しているの、わたし見てたもん。ロズウェル先生からも褒められていたじゃない」
「それはそうかもしれないけど・・・でもまだ全然役に立ててないし、今はただ逃げ回っているだけだよ」
「でも、やろうと思えばできることが分かっているじゃない。わたしなんて何の役に立てるのかも分からないのよ?」
「そんなの分からないのは仕方ないし、気にすることなんてないよ」
「シーッ」
ふたりの話を遮って、優里が静かにするよう注意した。それから『あそこ』と言って、一本の通りを指差した。
その通りには、闇の勢力の男たちが三人広場へ向かってやって来ていた。
『こっちからも来る』
自分たちがやってきた通りを覗いて紗奈が言った。
紗奈が視線で示す通りからは、二人の男が広場に向かってきていた。クリスはベベを腕に抱き、息を殺して様子をうかがった。
『え?こっちも、向こうからも来る』
残り二つの通りを指差して優里が言った。どちらからも三人の男が広場を目指してやってきている。
『やばい!目が合った』
優里がそう言って、頭を引っ込めた。
『本当?』
『たぶん。目が合ったと思う。こっちに気づいてるみたい。どうしよう』
『パオリーナさんとエランドラはやられちゃったのかな?』
不安そうな表情を浮かべて、紗奈がクリスの顔を見た。
『どうだろう?まさか、そんなことはないと思うけど』と、紗奈から視線を外してクリスはうつむいた。
黒マントの男は全部で11人いる。その数を相手にするというのは、どう考えても厳しい。
優里が魔法で風をおこしたとしても、一度にこの数を相手にするのはさすがに無理だろう。噴水には水があるが、やはりこの数を相手に戦うとなったらかなり厳しい。
とにかく、転移装置を使ってなんとかこの場から逃げる他ないだろう。エランドラたちと合流することは、逃げた後で考えるしかない。
しかし、転移装置が作動しないということもあり得る。転移装置自体がすべてストップされてしまっていてもおかしくはない。しかし、この状況を脱するには賭けに出るほか選択肢はない。
『ぼくが合図するから、そしたら一番手前の転移装置にダッシュで乗ろう』
ふたりの顔を交互に見て、クリスが言った。
『ぼくがあの男たちの目をくらますから、合図したら一斉に走って』
ふたりは驚くようにクリスを見てから、覚悟を決めたようにうなずいた。
『紗奈ちゃん、ベベをお願い』
紗奈はうなずき、ベベを受け取るとぎゅっと抱きしめた。
クリスは胸の前で両手の平を合わせ、左右の中指と薬指を交差させた。それから神経を集中した。
クリスの両手が光を発し始めた。イメージが完全に出来上がったところで、クリスは物置の陰から飛び出した。
「アクアサルギータ」
中央の噴水に向かって両手をかざすと、クリスは広場に足を踏み入れた大男たちの顔面めがけて無数の鋭い水の矢を飛ばした。
猛スピードで発射された矢は、次々に男たちの顔面にヒットした。男たちが一斉に顔を押さえた。
致命傷には至らないが、目をくらますには十分だ。
『今だ!走って!』
クリスのかけ声とともに紗奈と優里が物置の陰から飛び出し、転移装置へ向けて走った。
「紗奈!右!」と、優里が叫んだ。
走りながら、紗奈は優里の指差す方を振り向いた。そこには、紗奈に向かって杖を構えるひとりの男がいた。
どうやら、その男にはクリスの放った水の矢がクリーンヒットしなかったようだ。クリスは紗奈の元へ走って、とっさにかばうように紗奈を抱きしめた。
男の構える杖の先に光が灯り、ふたりめがけて光線が放たれた。
「うぐっ」といううめき声がした後、ドサッと人の倒れる音がした。
クリスと紗奈は、恐る恐る目を開けた。
小さく身を屈めたふたりの前に、盾を手にした男性がひとり立っていた。肩まで届くほどの長い髪をしたその男性は、黒い騎士のような甲冑を身にまとっていた。
その向こうにはひとりの大男が倒れ、その傍らに杖が転がっていた。
「ラニグラムルグール」
どこからか女性の声が聞こえた。
そしてバリバリバリッと空を切り裂くような音と共に、紫色の稲光が走った。そして、その稲光が黒マントの男たちの脳天に次々と直撃した。
男たちはひとり残らずその場に倒れ込んだ。焼け焦げた頭からは煙が出ていた。
倒れた男たちのうしろには、握った剣を頭上に構える女性の騎士がひとり立っていた。
女性の手にした剣は細長く、刃には細かい彫刻があしらわれ、その模様が光を発していた。
騎士の格好をした長髪の男性が、クリスと紗奈を振り返った。色白でひょろっとしていて、彫が深く頬はこけている。
決して健康的とは言えない風貌だ。セテオス中央部から応援に駆けつけてくれたのだろうか。
クリスと紗奈は、戸惑いながらも頭を下げた。
「あれ、あの人・・・」
優里が、ぎょっとした表情で近づいてくる女性を指差した。
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