クリスの物語

daichoro

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第三章 悪魔の儀式

第44話 撃退

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 外へ出ると、もくもくと煙が漂っていた。先ほどエランドラが火を放った家から、流れてくる煙だった。

 家は勢いよく燃えていた。そしてその家のさらに向こう側から、のっそりとやってくる黒マントの男の姿がある。



『こっちよ』

 反対側へ向かってパオリーナが走り出した。全員が走って後を追った。ベベはクリスの言いつけに従って、クリスのすぐ横を飛んでいる。



『そこを右へ曲がるわよ』

 先のブロックをパオリーナが指差した。



 ところが、角を曲がったところでパオリーナが立ち止まった。すぐ目の前にまた別の男たちがふたり立っていた。

 ひとりは木の杖を手に構えている。



『逃げて!』

 その声が聞こえたときには、杖を持つ男の手をパオリーナが蹴り上げていた。振り返ったクリスにうなずくと、エランドラもパオリーナに加勢した。



「行こう!」

 とにかく、ここは二人に任せた方がいいだろう。クリスは、紗奈と優里に声をかけた。



『ベベもこっちだよ!』

 クリスはベベを呼ぶと先頭に立って通りを引き返した。それから、角を右へ曲がった。



 次また闇の勢力が現れたら、戦うしかない。クリスは覚悟を決めていた。

 地底都市のアニムス養成学校での特訓や、旧校舎裏倉庫での魔物退治のことを思い出した。

 きっと大丈夫だ。でも考えれば考えるほど不安が押し寄せ、体の力が抜けてしまいそうになった。



 突き当りをまた右へ曲がったところで、三人は立ち止まった。ベベもクリスの横に留まった。

 前方には、ひとりの大男が立ちはだかっていた。考えるよりも先に、体が動いた。

 クリスはミラコルンをはめた右手に拳を作り、姿勢を構えた。



「オンドーヴァルナーシム」



 カンターメルを唱えて拳を繰り出すと、光の龍が大男めがけて突進した。

 ところが、ミラコルンから放たれた光の龍は大男をすり抜けてそのまま飛んでいってしまった。



「え?」

 一体、どういうことだろうか?クリスはミラコルンを見つめた。

 ミラコルンは幻獣封じのために作られた魔道具だとクレアが言っていた。霊魂や怨念を消滅させるのに絶大な効果を発揮する。

 ひょっとしたら、とクリスは先ほどのパオリーナの話を思い出した。



 闇の勢力のこの大男には命がない。魂もなければ感情もない。だからミラコルンは効かないのかもしれない。

 クリスがそんなことを考えている間にも、男はのっそりと近寄って来た。

 男に向かって吠え立てるベベを、紗奈がしっかりと抱き寄せた。



 水辺があればなんとか戦える。しかし、水なんてどこにもない。

 クリスがあたふたしていると、突然男が衝撃を受けたようにうしろに吹っ飛んだ。そして地面の上でぐるぐるっと回転し、竜巻に飲み込まれたように勢いよく宙に浮かび上がるとそのままどこかへ飛んで行ってしまった。



 呆気にとられるクリスと紗奈のうしろで、両手を上に掲げる優里の姿があった。

 振り向いたふたりの視線を受けると、優里は満面の笑みを浮かべた。



「優里すごいじゃん!」「すごいよ桜井さん!」

 クリスと紗奈が同時に歓喜の声を上げた。



「うん。自分でもびっくりした」

 優里は嬉しそうにはにかんでから、きっと顔を引き締めて「とにかく先を急ごう」と言った。



「そうね。パオリーナは中央広場って言ってたよね」

「うん」

「とりあえず、中央広場のありそうなところへ向かってみよう」

 紗奈の言葉に、クリスと優里がうなずいた。

 うしろを振り返って追手が来ていないことを確認してから、一行は中央広場を目指した。



『ちょっとぼく、中央広場がどっちにあるか見てみる』と言って空高く上がっていくベベに『見つからないように気を付けて』と、クリスが声をかけた。



『このまま真っすぐ進んで3ブロック先を右に曲がって更に真っすぐ行けば、たぶん中央広場だよ』

 少しして戻ってくるなり、ベベが言った。

『分かった。ありがとう。闇の勢力には見つからなかった?』とクリスが聞くと、『うん、たぶんね。どこにも見当たらなかったし』とベベが答えた。





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