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第三章 悪魔の儀式
第29話 風のクリスタルエレメント
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クリスたち一行はエルカテオスへ移動し、アダマスカルが保管された地下倉庫へと案内された。
『ご無沙汰しております』
均整のとれた顔に微笑みをたたえたソレーテが、三人の従者と共にアダマスカルの下でクリスたちを出迎えた。
『こちらは、今回皆さんを風光都市へご案内するトルメイです』
そう言って、ソレーテが三人の従者のなかのひとりを紹介した。
ソレーテや他の二人と比べて背が低い。エランドラと変わらないくらいの身長だった。170㎝前後といったところだ。
さらさらの金髪に青い瞳をしたトルメイは、ソレーテに紹介されると一歩前へ出てお辞儀をした。
その後、エランドラが今回新たに加わった優里を紹介した。
もちろん、ソレーテたち中央部の人間は優里のことをすでに調べているはずだし、オーラムルスでもプロフィールは分かる。エランドラが優里を紹介したのは、あくまで形式に則ったものだった。
それから、一行はアダマスカル内へと案内された。
『この度も急な申し出にも関わらず快くお引き受けくださり、ありがとうございます』
アダマスカルの最上階に用意された応接スペースへ通されると、ソレーテ一同深々と頭を下げた。
『またしても皆さんのお力をお借りすることになり大変恐縮ですが、これほど心強いことはありません』
ソレーテはそう言って真剣な眼差しで一同を見回すと、感謝の意を表すように目を伏せた。それから、クリスたちが座るクテイラの傍らに立って説明を始めた。
『さて、今回はまず、風光都市最古の都市“ネブラリウム”へ向かっていただきます。風光都市は他の4大都市、すなわち地底都市、海底都市、火山都市、空中都市に比べて数は非常に少なく、全部合わせても10都市程度。多いときでも30都市ほどしか存在しません』
多いときでも30都市とは一体どういう意味だろうか?首をひねるクリスの疑問に答えるように、ソレーテは説明を続けた。
『風光都市は別名、幻影の都市と呼ばれています。海に浮かぶ都市ですが、その姿は光と霧に包まれ、地表人の肉眼で捉えられることはめったにありません。時として目に触れることがあっても、地上では“蜃気楼”だとして片付けられてしまいます。そして、風光都市は統合と分裂を繰り返しながら、無作為に姿形や場所を変えています。
何万年も前、闇の勢力の侵略を逃れるために、かつての神官たちが都市をそのようにプログラミングしたのです。ネブラリウムをはじめ、主要な10都市は、地形や場所を変えることがあっても消えることはありません。しかし残りの20都市ほどは、出現したり消失したりを繰り返しているのです』
『それで、ウェントゥスはなかなか見つけられないのね』
納得するように、クレアがうんうんとうなずいた。
『それもありますが、風光都市については、我々の得られる情報が非常に少ないということも原因としてありました』
『どういうこと?』
『ご存じないかもしれませんが、風光都市はかねてよりとても閉鎖的な都市なのです。そのため、クリスタルの情報ネットワークから遮断するよう設定されている場所も数多く存在します。ですから、詳細の分からない地域については一から手探りで情報を仕入れる必要がありました。
そういった事情もあって、他都市と比べても手間取ってしまったと言えます。今回は銀河連邦からの通達があるため、外部からの訪問を受け入れてはいますが、そうでもなければ入国の許可を得ることすら難しいでしょう。そしてそのような都市ですから、クリスタルエレメントの捜索に対してもあまり協力的ではないのです』
『ふーん。風光都市の人たちってプライドが高いって聞いたことあるけど、そんなに排他的だったなんて知らなかった。今まであまり興味もなかったけど』
クレアの言葉に、ソレーテは顎を引いて小さくうなずいた。
『ところで、わたしたち以外にもすでに向かっている人たちがいると聞きましたけど、その人たちとはどう連携を取ったらいいのですか?』
クテイラから少し身を乗り出して、紗奈が質問した。その質問に対して、ソレーテは『はい』と満足そうにうなずいた。
『まず、ウェントゥスを手に入れるため、風光都市へはフィオナという方とそのご一行が派遣されております。フィオナ様たち一行は、風の超竜“ギラミルマン”の残された情報を頼りに、捜索を開始しました。しかし一向に見つからず、結局主要都市10都市すべて探索するに至りました。
しかしそれでも発見できないため、フィオナ様が選ばれし者でない可能性も浮上しました。そこで、すでにクリスタルエレメントを獲得できた選ばれし者をお呼びすることとなったのです。今回、こうして皆様にお越しいただくことになったのはそのためです』
『すでに闇の勢力に奪われてしまっているってことはないですよね?』
クリスの質問に、ソレーテは首を振った。
『いえ。その心配はありません。クリスタルエレメントが入手されたなら、それぞれのクリスタルエレメントに応じたエレメントに大きなエネルギーのひずみが生じるためすぐに分かります。そして風のエレメントについては、そのような変化はまだ確認されておりません』
クリスがうなずき返すと、ソレーテは続けた。
『そこで原点回帰し、フィオナ様方の捜索によって得られた情報を基に、再度精査し直したところ、ネブラリウムを含めた3都市にまで候補が絞られました。その3都市をどのように手分けしていただくかについては、選ばれし者である他の方々とも協議の上、お決めいただきたいと思います。今回皆様の他には、イグニスを手に入れたユーゲン様と、カエルムを手に入れたラーナミル様にも依頼し、すでにネブラリウムへ向かっていただいております』
ソレーテはそこまで話すと、再び恐縮するように頭を下げた。
『何かご質問はございますでしょうか?』
ソレーテは頭を上げて一同を見回した。
『そういえば、地のクリスタルエレメント“テラ”を手に入れたチームは?なんで招集してないの?』と、クレアが質問した。
『テラを入手されたのは、銀河連邦が直に編成した特別チームで、私たちとは別行動をとっています。メンバーの詳細については、我々も存じ上げません』
『へえ、そんな人たちもいるのね』
クレアが納得すると、ソレーテはうなずき返した。
『他に、ご質問はありますか?』
紗奈が、胸の辺りで小さく手を上げた。
『ウェントゥスの在りかがすでに3都市まで絞られているのであれば、選ばれし者をそんなに集める必要はないのではないですか?フィオナさんが選ばれし者でないにしても、すでに他に2人も手配されているのであれば、それで十分じゃないでしょうか?』
いかにも、とソレーテはうなずいた。
『たしかにおっしゃる通りです。ウェントゥスは3都市のいずれかにあるとみて、ほぼ間違いないでしょう。そしてそこまで絞られていれば、探し出すのもそう難しいことではないかもしれません。しかし、今回得られた情報を精査するにあたって、各方面で多数の人間が動きました。そのため、闇の勢力にもその情報が洩れている可能性があります。
情報の扱いには、細心の注意を払っていますが、どこから情報が洩れ出るか分かりません。そして、万一洩れてしまっていた場合、いち早くウェントゥスを入手する必要があります。
クリスタルエレメントがひとつでも闇の勢力に奪われてしまうようなことは、絶対に避けたい事態なのです。ですので、万全を期して、こうして皆様のご助力を仰いだ次第です』
ソレーテは申し訳なさそうに頭を下げた。
『いえ。そういうことであれば別にいいんです』と言って、紗奈は首を振った。
『あ、あともうひとつ気になったんですけど、風光都市の人たちはクリスタルエレメントの捜索にあまり協力的ではないということですけど、なんでなんですか?地球や人類がどうなろうと、あまり気にしてないのですか?』
紗奈がまた質問すると、ソレーテは少し考えるように視線を落とした。
『いえ。地球や人類のことを考えていないということはないでしょうが、風光都市の人々はこれまで闇の勢力の影響をほとんど受けず、また外部の他の文明から影響を受けることなく独自に進化を遂げてきた都市です。そのため、あまり危機感も感じていないのかもしれません』
『そうですか。でも、他の都市の人たちと敵対しているというわけではないんですよね?』
『もちろんです』
ソレーテは大きくうなずいた。
『分かりました。ありがとうございます』
紗奈はそう言って、小さく頭を下げた。
『よろしいでしょうか?』
ソレーテは、ゆっくりと全員を見回した。
『では、我々はこちらで失礼いたします。ここから先は、トルメイが責任持って皆様をご案内いたします。それでは、お気をつけて』
深々と頭を下げ、ソレーテは従者と共にアダマスカルを後にした。
『ご無沙汰しております』
均整のとれた顔に微笑みをたたえたソレーテが、三人の従者と共にアダマスカルの下でクリスたちを出迎えた。
『こちらは、今回皆さんを風光都市へご案内するトルメイです』
そう言って、ソレーテが三人の従者のなかのひとりを紹介した。
ソレーテや他の二人と比べて背が低い。エランドラと変わらないくらいの身長だった。170㎝前後といったところだ。
さらさらの金髪に青い瞳をしたトルメイは、ソレーテに紹介されると一歩前へ出てお辞儀をした。
その後、エランドラが今回新たに加わった優里を紹介した。
もちろん、ソレーテたち中央部の人間は優里のことをすでに調べているはずだし、オーラムルスでもプロフィールは分かる。エランドラが優里を紹介したのは、あくまで形式に則ったものだった。
それから、一行はアダマスカル内へと案内された。
『この度も急な申し出にも関わらず快くお引き受けくださり、ありがとうございます』
アダマスカルの最上階に用意された応接スペースへ通されると、ソレーテ一同深々と頭を下げた。
『またしても皆さんのお力をお借りすることになり大変恐縮ですが、これほど心強いことはありません』
ソレーテはそう言って真剣な眼差しで一同を見回すと、感謝の意を表すように目を伏せた。それから、クリスたちが座るクテイラの傍らに立って説明を始めた。
『さて、今回はまず、風光都市最古の都市“ネブラリウム”へ向かっていただきます。風光都市は他の4大都市、すなわち地底都市、海底都市、火山都市、空中都市に比べて数は非常に少なく、全部合わせても10都市程度。多いときでも30都市ほどしか存在しません』
多いときでも30都市とは一体どういう意味だろうか?首をひねるクリスの疑問に答えるように、ソレーテは説明を続けた。
『風光都市は別名、幻影の都市と呼ばれています。海に浮かぶ都市ですが、その姿は光と霧に包まれ、地表人の肉眼で捉えられることはめったにありません。時として目に触れることがあっても、地上では“蜃気楼”だとして片付けられてしまいます。そして、風光都市は統合と分裂を繰り返しながら、無作為に姿形や場所を変えています。
何万年も前、闇の勢力の侵略を逃れるために、かつての神官たちが都市をそのようにプログラミングしたのです。ネブラリウムをはじめ、主要な10都市は、地形や場所を変えることがあっても消えることはありません。しかし残りの20都市ほどは、出現したり消失したりを繰り返しているのです』
『それで、ウェントゥスはなかなか見つけられないのね』
納得するように、クレアがうんうんとうなずいた。
『それもありますが、風光都市については、我々の得られる情報が非常に少ないということも原因としてありました』
『どういうこと?』
『ご存じないかもしれませんが、風光都市はかねてよりとても閉鎖的な都市なのです。そのため、クリスタルの情報ネットワークから遮断するよう設定されている場所も数多く存在します。ですから、詳細の分からない地域については一から手探りで情報を仕入れる必要がありました。
そういった事情もあって、他都市と比べても手間取ってしまったと言えます。今回は銀河連邦からの通達があるため、外部からの訪問を受け入れてはいますが、そうでもなければ入国の許可を得ることすら難しいでしょう。そしてそのような都市ですから、クリスタルエレメントの捜索に対してもあまり協力的ではないのです』
『ふーん。風光都市の人たちってプライドが高いって聞いたことあるけど、そんなに排他的だったなんて知らなかった。今まであまり興味もなかったけど』
クレアの言葉に、ソレーテは顎を引いて小さくうなずいた。
『ところで、わたしたち以外にもすでに向かっている人たちがいると聞きましたけど、その人たちとはどう連携を取ったらいいのですか?』
クテイラから少し身を乗り出して、紗奈が質問した。その質問に対して、ソレーテは『はい』と満足そうにうなずいた。
『まず、ウェントゥスを手に入れるため、風光都市へはフィオナという方とそのご一行が派遣されております。フィオナ様たち一行は、風の超竜“ギラミルマン”の残された情報を頼りに、捜索を開始しました。しかし一向に見つからず、結局主要都市10都市すべて探索するに至りました。
しかしそれでも発見できないため、フィオナ様が選ばれし者でない可能性も浮上しました。そこで、すでにクリスタルエレメントを獲得できた選ばれし者をお呼びすることとなったのです。今回、こうして皆様にお越しいただくことになったのはそのためです』
『すでに闇の勢力に奪われてしまっているってことはないですよね?』
クリスの質問に、ソレーテは首を振った。
『いえ。その心配はありません。クリスタルエレメントが入手されたなら、それぞれのクリスタルエレメントに応じたエレメントに大きなエネルギーのひずみが生じるためすぐに分かります。そして風のエレメントについては、そのような変化はまだ確認されておりません』
クリスがうなずき返すと、ソレーテは続けた。
『そこで原点回帰し、フィオナ様方の捜索によって得られた情報を基に、再度精査し直したところ、ネブラリウムを含めた3都市にまで候補が絞られました。その3都市をどのように手分けしていただくかについては、選ばれし者である他の方々とも協議の上、お決めいただきたいと思います。今回皆様の他には、イグニスを手に入れたユーゲン様と、カエルムを手に入れたラーナミル様にも依頼し、すでにネブラリウムへ向かっていただいております』
ソレーテはそこまで話すと、再び恐縮するように頭を下げた。
『何かご質問はございますでしょうか?』
ソレーテは頭を上げて一同を見回した。
『そういえば、地のクリスタルエレメント“テラ”を手に入れたチームは?なんで招集してないの?』と、クレアが質問した。
『テラを入手されたのは、銀河連邦が直に編成した特別チームで、私たちとは別行動をとっています。メンバーの詳細については、我々も存じ上げません』
『へえ、そんな人たちもいるのね』
クレアが納得すると、ソレーテはうなずき返した。
『他に、ご質問はありますか?』
紗奈が、胸の辺りで小さく手を上げた。
『ウェントゥスの在りかがすでに3都市まで絞られているのであれば、選ばれし者をそんなに集める必要はないのではないですか?フィオナさんが選ばれし者でないにしても、すでに他に2人も手配されているのであれば、それで十分じゃないでしょうか?』
いかにも、とソレーテはうなずいた。
『たしかにおっしゃる通りです。ウェントゥスは3都市のいずれかにあるとみて、ほぼ間違いないでしょう。そしてそこまで絞られていれば、探し出すのもそう難しいことではないかもしれません。しかし、今回得られた情報を精査するにあたって、各方面で多数の人間が動きました。そのため、闇の勢力にもその情報が洩れている可能性があります。
情報の扱いには、細心の注意を払っていますが、どこから情報が洩れ出るか分かりません。そして、万一洩れてしまっていた場合、いち早くウェントゥスを入手する必要があります。
クリスタルエレメントがひとつでも闇の勢力に奪われてしまうようなことは、絶対に避けたい事態なのです。ですので、万全を期して、こうして皆様のご助力を仰いだ次第です』
ソレーテは申し訳なさそうに頭を下げた。
『いえ。そういうことであれば別にいいんです』と言って、紗奈は首を振った。
『あ、あともうひとつ気になったんですけど、風光都市の人たちはクリスタルエレメントの捜索にあまり協力的ではないということですけど、なんでなんですか?地球や人類がどうなろうと、あまり気にしてないのですか?』
紗奈がまた質問すると、ソレーテは少し考えるように視線を落とした。
『いえ。地球や人類のことを考えていないということはないでしょうが、風光都市の人々はこれまで闇の勢力の影響をほとんど受けず、また外部の他の文明から影響を受けることなく独自に進化を遂げてきた都市です。そのため、あまり危機感も感じていないのかもしれません』
『そうですか。でも、他の都市の人たちと敵対しているというわけではないんですよね?』
『もちろんです』
ソレーテは大きくうなずいた。
『分かりました。ありがとうございます』
紗奈はそう言って、小さく頭を下げた。
『よろしいでしょうか?』
ソレーテは、ゆっくりと全員を見回した。
『では、我々はこちらで失礼いたします。ここから先は、トルメイが責任持って皆様をご案内いたします。それでは、お気をつけて』
深々と頭を下げ、ソレーテは従者と共にアダマスカルを後にした。
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