クリスの物語

daichoro

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第二章 クリスタルエレメント

第59話 光と闇

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 グレンはユージリスから松明用の棒を奪い取ると、その先端をクリスの顔に突きつけた。棒はいつの間にか、槍のように先の尖った武器になっていた。



『アルメイオンのことは知りませんね。アトライオスへ戻ったのではありませんか?そんなことより、どうするつもりですか?そんなに兵隊を連れてきたところで、選ばれし者がいなければアクアを手に入れることなんてできませんよ?』



 グレンの言葉を聞いて、ガイオンは怒りを露わにした。

『貴様、最初から利用する目的で娘をそそのかしたんだな』

『さあ?お互いさまじゃないですか。そもそも、彼女の方から近づいてきたわけですし』



 グレンの絞める力が強まり、クリスは苦しさに顔を歪めた。ボラルクはショックのあまり、傍らで呆然と立ち尽くしていた。



『お前は、それを手に入れてどうするつもりだ?』

 クリスタルエレメントを顎で示して、ガイオンが聞いた。

『海の支配者にでもなるつもりか?』

 グレンは、あざけるように笑った。

『そんな小さなことに興味はありませんよ』



 少しの間をおいてから、グレンは続けた。

『いいでしょう。どうせ最後だから教えてあげましょう。私は、闇の勢力ザルナバンとともにこの地球を去ることが決まっています。それに伴い、地球は消滅させる。それこそが、私がクリスタルエレメントを手に入れる目的です』

『なんだと?』

 ガイオンが絶句した。



『どうしてですか?』

 横からボラルクが叫んだ。



『地球を良い星にしていこうって、そのために全力を尽くすからついて来てくれって、そう言ってたじゃないですか!それなのに、この地球を滅ぼすだなんて本気で言ってるんですか?信じてた俺らはどうしたらいいんですか!』

 拳を握りしめ、声を上げてボラルクが訴えた。それに対してグレンはふっと鼻で笑ってから、静かに答えた。



『それは君たちの勝手だろう。私は私の信念に基づいて行動しているだけだ。光の勢力も闇を駆逐しようとしている。地球がアセンションすることで、闇の同胞たちが消滅させられてしまうのだ。

 どっちが善でどっちが悪かなんていうのは、価値観の問題だ。闇の勢力の思想が私の信念に合っているから、私はそっちを選択したまでだ。

 どうだ?ボラルク。君も私と一緒に来ないか?こんな小さな星の限定された世界で生きるのではなく、宇宙を舞台に自分の全存在を躍動させてみたいとは思わないか?』



 拳を震わせてボラルクがグレンを睨みつけると、グレンは『まあ、いい』と言ってクリスを引きずったままアクアの転がるところまで移動した。



『それで、どうするんだ?』

 アクアの手前で立ち止まったグレンに、ガイオンが聞いた。ガイオンは冷静さを取り戻していた。

『その小僧がいなければ、貴様だってアクアの封印を解けないだろう。つまり人質に取ったところで、貴様がその小僧を殺すことはないということだ』



『本当にそう思うか?』

 そう言って、グレンは手に持つ武器の先端をクリスのこめかみに突き立てた。



『場所さえ特定できれば、封印を解くことは造作のないことだ。ドラゴンと契りを交わした者であればな。こいつを殺したところで、別の者を手配すればいいだけの話だ』

『そうか。それはいいことを聞いた』

にやりとガイオンは笑った。



『それならば、我々もその小僧を殺されたところで痛くもかゆくもない。好きにするがいい。そしてこの数を見ろ。明らかに有利なのはこっちだ』

 ガイオンは両手を挙げて、周りを取り囲む兵隊を示した。それから一歩うしろに退くと、兵士たちが武器を構えて前に進み出た。



『やってしまえ!』

 ガイオンのかけ声とともに、兵士たちが声を上げながら四方から襲いかかった。襲い掛かる兵士に向かって、グレンはクリスを突き飛ばした。



『クリス!』

 倒れそうになったクリスを、ボラルクが抱きとめた。そのうしろには剣を振りかざした兵士がいた。



「あぶない!」

 クリスが叫んだときにはもう遅かった。兵士の剣が一閃した。



 ボラルクの顔が痛みに歪んだ。倒れ込むボラルクを、今度はクリスが抱きかかえた。クリスの腕の中でボラルクは痙攣していた。



「ボラルク!」

 クリスはボラルクを抱き寄せ、力の限り叫んだ。

『クリス。俺、王子にあこがれ・・てたのに・・・バカみたい・・・だな』

 最後にボラルクはふっと笑った。



 クリスはボラルクを腕に抱いたまま、名前を叫び続けた。涙がとめどなく流れ出した。すると突然、後頭部に衝撃が走った。ボラルクを抱えたまま、クリスは地面に崩れ落ちた。

 地面には、青い液体が広がっていた。ボラルクの血だった。海底人の血は青いのか。薄れていく意識の中、クリスはぼんやりとそんなことを考えた。







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