クリスの物語

daichoro

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第二章 クリスタルエレメント

第51話 目的

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 クリスの話を聞き、ダルミアは2,3度うなずいた。

『たしかにそうですよね。お心遣いをありがとうございます』と言って、ダルミアは頭を下げた。



『でも、ボラルクさんにはお話して問題ないでしょう。ここまでクリスさんを導いてくださったのですから』

 怪訝な表情でふたりのやり取りを聞いていたボラルクが『どういうことだ?』と、問い質した。



 クリスが伺うようにダルミアに視線を向けると、ダルミアはうなずき返した。

『実は、ぼくがオケアノースに来た目的はアクアを手に入れるためなんだ。黙っていてごめん』

 クリスが謝ると、ボラルクは怒りと驚きの混じったような険しい表情を見せた。



『それは本当か?だって、お前クリスタルエレメントのことは知らないって言ってたじゃないか』

『うん、ごめん。ぼくの存在はあまり知られない方がいいとグレンさんに言われていたんだ。だから・・・』



 クリスがそう言ってうつむくと、ダルミアがフォローした。

『クリスさんは、選ばれし者のひとりだと考えられているのです』

 それを聞いて、ボラルクは目を丸くした。



『まさか、お前みたいなガキが・・・』

 そう呟いて、ボラルクはクリスをまじまじと見つめた。



『それで、お前はアクアを手に入れてどうするんだ?まさか、それを使って海を支配しようってんじゃないだろうな?』

 クリスは苦笑いして首を振った。



『ボラルクは少し勘違いしているみたいだけど、クリスタルエレメントにはそんな力はないんだよ。クリスタルエレメントは、一つひとつ単体で持っていてもあまり効果はなくて、5つ集まって初めて絶大なパワーを発揮するんだ。地底世界の中央部の人はそう言っていたよ。そうですよね?』

 クリスの意見に同意するように、ダルミアは黙ってうなずいた。



『クリスタルエレメントが5つ揃うと、地球を次元上昇させることもできれば、消滅させることも・・・』

 クリスが説明していると、ボラルクが手で制した。



『5つ揃った時、地球が次元上昇するという話は俺も知っている。負のパワーを用いれば、消滅させられることもな。でも、アクア単体でも海を支配できるほどのパワーがあるのは、間違いないはずだ。こっちじゃ、昔からそう言い伝えられているんだからな』

 ボラルクの意見に、ダルミアが口を挟んだ。



『たしかに、こちらではそのような言い伝えがあります。しかし、それらは単なる迷信でしかありません。恐らく、闇の勢力が人々を使ってクリスタルエレメントを探させるために、かつて流した噂話でしょう』



 柔和な笑みを浮かべながらも毅然とした態度で話すダルミアに、ボラルクは言い返すことなくうなずいた。

 それから下を向いて『マジかよ』とつぶやいた。



『それじゃあ、お前はそれを手に入れて次元上昇させようっていうのか?』

 顔を上げ、ボラルクはクリスに尋ねた。



『今、地球はアセンションの時期が来ているらしいんだ。でも、それを阻止して地球を消滅させてしまおうと、闇の勢力が躍起になってる。だから、闇の勢力に奪われてしまう前に、クリスタルエレメントを手に入れる必要があるんだよ』



『ふーん。だから王子も、こそこそ行動しているというわけか』

 ボラルクは顎に手を当て、納得するようにうなずいた。それからふと疑問に思ったことを口にした。



『でも、それならなんで王子は、海底にお前をひとり置いていくようなことをしたんだ?選ばれし者だっていうのに、モンロリーゴに食われちまったらどうするつもりだったんだろうな?』



 それはクリスが疑問に、そして不満に思っていたことだった。

 ボラルクに出会えたから良かったものの、そうでなかったら怪物の餌食となり今頃は海の藻屑となっていたかもしれないのだ。



『グレン王子があなたを海底に残して、フォーヌス広場へ来るように指示したのは、実はクリスさん、あなたを試すためでもあったのです』

 二人の疑問に答えるように、ダルミアが説明した。



『当然、危険に晒してしまうことは、王子も承知の上でした。しかしクリスさんが選ばれし者であることを信じていたからこそ、王子はあえてひとり残していったのです。選ばれし者であれば必ず導かれる、と。

 そしてその導き手となったボラルクさんは、運命共同体であるということです。ですから私も王子から、もしお連れの方がいるようであれば一緒にご案内するようにと仰せつかっておりました』



 なるほどとうなずきながらも、いささかの横暴さをクリスは感じていた。

 実際こうして導かれたわけだからグレンの考えは正しかったとも言える。でももし読みが違っていた場合、ひとりの人間の命が犠牲になっていたかもしれないのだ。



 しかし、そもそも海底人や地底人とはあらゆる面において感覚がだいぶ違う。だからきっと悪気はないのだろうと、クリスはあまり考えないようにした。



『それでは、王子が待っています。先へ行きましょう』

 アメジストの紫の明かりに仄かに照らされた通路を示して、ダルミアが言った。








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