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第二章 クリスタルエレメント
第36話 実行計画
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作戦実行のタイミングについて、ローワンが説明した。
『現在、このアトライオスには地表世界からの訪問者が多数やって来ています。その間、地表人によるハナビがアシナヴィスで定期的に開催されるのです。
そしてハナビが催される間は、アトライオス全域のソルーメンが一時的に遮断されます。つまり、空が暗くなるのです。その時を見計らってルーベラピスを発動させれば、気づかれずに済むでしょう』
『ハナビって何ですか?』とクリスが尋ねると、ローワンは意外そうに首を傾げた。
『ハナビって地表世界にあるでしょう?火の玉を空で爆発させて、空に大きく花を咲かせる催しです』
ローワンのその説明を聞いて、紗奈が「花火のことじゃない?」とクリスに囁いた。
なるほど、とクリスはうなずいた。飛んでくる思念のアクセントがおかしかったので分からなかった。
『それで、花火はいつあるのですか?』と、紗奈が質問した。
『もうじきあるはずです。放送が流れますから、それを待ちましょう。放送が流れてからそれぞれ持ち場に向かっても十分間に合います』
こんなときでも相変わらず呑気だな、とクリスは思った。時間の感覚のない世界の人たちはいつもそうなのだろうか。
それから、それぞれの持ち場を決めることになった。マーティスとローワンがポセイドーンに。クレアがアシナヴィスのもうひとつのポイントである西のはずれの広場に。
エランドラは北西の街トドゥーロ。ラマルは南西の街レグイアへ。そして、クリスと紗奈とベベが北東の街カンナンへ向かうことになった。
ルーベラピスを発動させるのにあまり人に見られないところがいいというローワンの見解により、クリスたちはひと気の少ない街へ行くことが決まった。
ローワンはオーラムルスを持っていないため、マーティスと共に行動する。
アシナヴィスを出て他の街へ行くためには、オエノボスが乗せてくれたような空を飛行する船でなければ行けないということだった。
『それについては心配いりません』と、ローワンが言った。
『アリューシャの伝手で船は手配してあります。地底都市から客人が来ていて、観光させてあげたいと伝えたら快諾してくれたそうです』
それから皆それぞれオーラムルスで街並みを表示させ、目的地まで辿るシミュレーションをした。
クリスたちの持ち場である“カンナン”は、波止場から目的地までそれほど離れていなかった。道も単純だったため、問題なく辿り着けそうだとクリスも紗奈も安心した。
オーラムルスで全員が同時につながる“オーネクト”という機能も試し、準備を整えた。
『では、放送があるまではゆっくりとくつろいでください』と言って、ローワンはさらに下の階のゲストルームへと一行を案内した。
ゲストルームにはラプーモやポルタール、マルゲリウムにキッチンなどすべてが完備されていた。
『これらはすべてセテオス中央部から提供されたものです。私が海底人に帰化したときにも、餞別にといって残してくれました』
当時を懐しむように、ローワンは宙を見つめた。
そこへ、アリューシャとラメクが飲み物と軽食を盆に載せてやってきた。テーブルの上にそれらを置くと、ローワンはふたりに礼を言った。
『では、ごゆっくり』
そう言い残して、ローワンはアリューシャとラメクを連れてゲストルームを後にした。
『クリスさん、ちょっとよろしいでしょうか?』と、ベベを抱いてクテイラに座るクリスにマーティスが声をかけた。
『ルーベラピスを発動させるカンターメルと、停止させるカンターメルを覚えていただきたいのですが』
クリスはうなずき、ベベを置いて立ち上がった。
『今からお伝えするカンターメルは、唱えないようにしてください。今唱えてしまえば発動してしまいますから』
部屋の隅へ移動してから、マーティスが言った。
『分かりました』と、クリスは真剣な表情でうなずいた。
『まず、発動させるカンターメルは、“アデュシーレ・エイ・アクア”です。いいですか?“アデュシーレ・エイ・アクア”です』
マーティスは、呪文のような言葉“カンターメル”をはっきりと聞き取れるようにゆっくりと発音した。
『続いて、停止するカンターメルは“フーガ”です。もう一度言います。“フーガ”』
停止のカンターメルもゆっくりと繰り返すと、『よろしいですか?』とマーティスが確認した。
クリスはどちらのカンターメルも頭の中で復唱した。
『もしも忘れてしまったらオーラムルスでも調べられます。それにオーネクトで繋がっていますから、その場で聞いていただいても結構です』
クリスはそれを聞いて安心した。重大な任務だけに、いざというときにカンターメルを忘れてしまったら大変だ。
クリスがクテイラに戻ると、紗奈が「大丈夫?」と聞いた。
「うん。たぶん」
クリスのその返事を聞いて、クレアがきっと鋭い視線を向けた。
『ちょっとしっかりしてよね。クリスにかかっているんだからね』
たしかにそうだと、クリスは気を引き締めた。自分たちだけじゃなく、人類や地球の運命が懸っているのかもしれないのだ。
『まあでも責任は重大だけど、それが選ばれし者の運命だからね。それにわたしたちもいるし、大丈夫だよ』
思いつめるクリスに、今度は励ますようにクレアが微笑んだ。
『現在、このアトライオスには地表世界からの訪問者が多数やって来ています。その間、地表人によるハナビがアシナヴィスで定期的に開催されるのです。
そしてハナビが催される間は、アトライオス全域のソルーメンが一時的に遮断されます。つまり、空が暗くなるのです。その時を見計らってルーベラピスを発動させれば、気づかれずに済むでしょう』
『ハナビって何ですか?』とクリスが尋ねると、ローワンは意外そうに首を傾げた。
『ハナビって地表世界にあるでしょう?火の玉を空で爆発させて、空に大きく花を咲かせる催しです』
ローワンのその説明を聞いて、紗奈が「花火のことじゃない?」とクリスに囁いた。
なるほど、とクリスはうなずいた。飛んでくる思念のアクセントがおかしかったので分からなかった。
『それで、花火はいつあるのですか?』と、紗奈が質問した。
『もうじきあるはずです。放送が流れますから、それを待ちましょう。放送が流れてからそれぞれ持ち場に向かっても十分間に合います』
こんなときでも相変わらず呑気だな、とクリスは思った。時間の感覚のない世界の人たちはいつもそうなのだろうか。
それから、それぞれの持ち場を決めることになった。マーティスとローワンがポセイドーンに。クレアがアシナヴィスのもうひとつのポイントである西のはずれの広場に。
エランドラは北西の街トドゥーロ。ラマルは南西の街レグイアへ。そして、クリスと紗奈とベベが北東の街カンナンへ向かうことになった。
ルーベラピスを発動させるのにあまり人に見られないところがいいというローワンの見解により、クリスたちはひと気の少ない街へ行くことが決まった。
ローワンはオーラムルスを持っていないため、マーティスと共に行動する。
アシナヴィスを出て他の街へ行くためには、オエノボスが乗せてくれたような空を飛行する船でなければ行けないということだった。
『それについては心配いりません』と、ローワンが言った。
『アリューシャの伝手で船は手配してあります。地底都市から客人が来ていて、観光させてあげたいと伝えたら快諾してくれたそうです』
それから皆それぞれオーラムルスで街並みを表示させ、目的地まで辿るシミュレーションをした。
クリスたちの持ち場である“カンナン”は、波止場から目的地までそれほど離れていなかった。道も単純だったため、問題なく辿り着けそうだとクリスも紗奈も安心した。
オーラムルスで全員が同時につながる“オーネクト”という機能も試し、準備を整えた。
『では、放送があるまではゆっくりとくつろいでください』と言って、ローワンはさらに下の階のゲストルームへと一行を案内した。
ゲストルームにはラプーモやポルタール、マルゲリウムにキッチンなどすべてが完備されていた。
『これらはすべてセテオス中央部から提供されたものです。私が海底人に帰化したときにも、餞別にといって残してくれました』
当時を懐しむように、ローワンは宙を見つめた。
そこへ、アリューシャとラメクが飲み物と軽食を盆に載せてやってきた。テーブルの上にそれらを置くと、ローワンはふたりに礼を言った。
『では、ごゆっくり』
そう言い残して、ローワンはアリューシャとラメクを連れてゲストルームを後にした。
『クリスさん、ちょっとよろしいでしょうか?』と、ベベを抱いてクテイラに座るクリスにマーティスが声をかけた。
『ルーベラピスを発動させるカンターメルと、停止させるカンターメルを覚えていただきたいのですが』
クリスはうなずき、ベベを置いて立ち上がった。
『今からお伝えするカンターメルは、唱えないようにしてください。今唱えてしまえば発動してしまいますから』
部屋の隅へ移動してから、マーティスが言った。
『分かりました』と、クリスは真剣な表情でうなずいた。
『まず、発動させるカンターメルは、“アデュシーレ・エイ・アクア”です。いいですか?“アデュシーレ・エイ・アクア”です』
マーティスは、呪文のような言葉“カンターメル”をはっきりと聞き取れるようにゆっくりと発音した。
『続いて、停止するカンターメルは“フーガ”です。もう一度言います。“フーガ”』
停止のカンターメルもゆっくりと繰り返すと、『よろしいですか?』とマーティスが確認した。
クリスはどちらのカンターメルも頭の中で復唱した。
『もしも忘れてしまったらオーラムルスでも調べられます。それにオーネクトで繋がっていますから、その場で聞いていただいても結構です』
クリスはそれを聞いて安心した。重大な任務だけに、いざというときにカンターメルを忘れてしまったら大変だ。
クリスがクテイラに戻ると、紗奈が「大丈夫?」と聞いた。
「うん。たぶん」
クリスのその返事を聞いて、クレアがきっと鋭い視線を向けた。
『ちょっとしっかりしてよね。クリスにかかっているんだからね』
たしかにそうだと、クリスは気を引き締めた。自分たちだけじゃなく、人類や地球の運命が懸っているのかもしれないのだ。
『まあでも責任は重大だけど、それが選ばれし者の運命だからね。それにわたしたちもいるし、大丈夫だよ』
思いつめるクリスに、今度は励ますようにクレアが微笑んだ。
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