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第二章 クリスタルエレメント
第30話 アトライオスの王ガイオン
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到着した先は、全体的に仄かな青い光で照らされた薄暗い空間だった。ひんやりとした空気に包まれ、クリスは思わず首をすぼめた。
天井は高く、まるでコンサートホールのようにかなりの広さがある。中央のステージには大きなテーブルが置かれ、椅子が並べられている。ステージの周りには水が流れ、エレベーターを降りた場所からそこまでは橋が渡されていた。さらに奥には滝が流れ、その下の泉で泳ぐ何人かの人影があった。
「人魚だ」
その人影を見て、興奮気味に紗奈が言った。たしかに紗奈の言う通り、泉で泳ぐ人たちには大きな尾びれがついている。男の人魚が一人だけいて、あとは全員女性だった。
一行は中央のテーブルに通され、オエノボスに促されるまま椅子に座った。
それからオエノボスが泉の方へ向かって一礼すると、男の人魚が泉の方から泳いできた。その人魚についた尾びれは、クジラのように大きなものだった。
中央のステージまでやってきて大きく飛び跳ねると、人魚は瞬時に人間へと姿を変えた。
体が濡れた様子はなく、服とその上には赤いマントさえ身につけていた。大柄な体格で、緑色の肌にはごつごつとしたイボがたくさんある。
男は、クリスたちの向かいのひとつだけ豪華な椅子に座った。熊でも座れそうなほどの大きな玉座も、男が座るとただの小さな椅子に見えた。
『皆さん、こちらがアトライオスの王であり、海底都市評議会の会長でもあるガイオン様です』
脇に控えたオエノボスが、玉座に座る男を恐縮しながら紹介した。
『地底世界からはるばるようこそ』と、低いダミ声が響いた。
『マーティスはこっちへ来るのはこれで何回目だ?駐在を終えてからもしょっちゅう来てるよな?』
肘掛に身を預けて、ガイオンがマーティスを見た。
『はい。これで9,255回を数えます』
『ふうん。まあ、ご苦労なこった。それで、誰が選ばれし者なんだ?』
傍らでかしこまるオエノボスに、ガイオンが確認した。
『えーとですね・・・』
面食らったような顔をして、オエノボスがマーティスに助け舟を求めた。
『こちらの者です』と言って、マーティスが隣に座るクリスの肩に手を置いた。すると、ガイオンがギロリとクリスをにらんだ。
クリスは思わず姿勢を正して自己紹介をした。
『はじめまして。クリスといいます。よろしくお願いします』
矢のような鋭い眼差しに耐え切れずに視線を逸らすと、奥の泉で岩に腰かける一人の人魚と目が合った。白く長い髪をした女性の人魚だった。視線が合うと、人魚はにっこり微笑んだ。
『ふうん。君は、地底人なの?』
『いえ。あ、はい。そうです』
ガイオンから不意に質問されて、クリスはしどろもどろに答えた。
『どっちなんだ?』
クリスの返答にガイオンは吹き出した。
『まあ何でも良いが。なんだって、地底人はそんなに心配しているのかねぇ。こっちを信用できんのかどうか知らんが。君も大変だな』
『あ、いえ』と首を振るクリスを、ガイオンは値踏みするように見つめた。
『そりゃあ、こっちでも銀河連邦から言われて、アクアはずっと探しているんだけどね。これだけ出てこないってことは、まだきっと時期じゃないんだと思うけどねぇ。人選ミスというのもあるかもしれないけどな』と言うと、ガイオンは顎を撫でながらしばらく黙り込んだ。その間ずっと、オエノボスは隣でかしこまっていた。
『まあ、いいや』
ふと、ガイオンが言葉を発した。
『とりあえず、好きなようにやってよ。こっちの人間に邪魔はしないように言っとくからさ。別に協力もしないけど。それでいいか?』
そう言って、ガイオンはギロリとクリスをにらんだ。鋭い眼光にいすくめられながら、クリスはマーティスに視線を向けて判断を仰いだ。
『はい。ありがとうございます』
マーティスは礼を述べると、深々と頭を下げた。それにならって、クリスもお辞儀をした。
『なんかあったら言ってよ。それじゃ』
そう言い残すと、ガイオンはすぐさま人魚の姿にシェイプシフトして泉へと戻っていった。
『ガイオンって人、なんであんなに偉そうなの?』
帰りのエレベーターの中でクレアが言った。
『セテオスの中央部の人たちと比べたら、なんか下品だし。あんな人が海底都市評議会の会長だなんて信じられない』
『お嬢さん。それは、言いっこなしでお願いしますよ。アトライオスの王様なんですから。それに、怒らせたらすごく怖いんすよ』
オエノボスがそう言ってなだめると、クレアはそっぽを向いた。
『そんな人がトップだなんて、アトライオスのレベルも知れてるわね』
『へへへ』
クレアの嫌味に、オエノボスは笑いながらペコペコと頭を下げた。
『それで、どうするんです?』
エレベーターを降りてから、オエノボスが尋ねた。
『ここから先は、我々だけで行動する。ここで結構』
オエノボスに冷たく言い放つと、マーティスはクリスたちに『行きましょう』と声をかけた。
『いや。お供しますって』
ついてこようとするオエノボスにマーティスは『その必要はない。ご苦労だった』と告げた。
オエノボスをその場に残し、マーティスに従って一行はエレベーターを乗り換えた。
天井は高く、まるでコンサートホールのようにかなりの広さがある。中央のステージには大きなテーブルが置かれ、椅子が並べられている。ステージの周りには水が流れ、エレベーターを降りた場所からそこまでは橋が渡されていた。さらに奥には滝が流れ、その下の泉で泳ぐ何人かの人影があった。
「人魚だ」
その人影を見て、興奮気味に紗奈が言った。たしかに紗奈の言う通り、泉で泳ぐ人たちには大きな尾びれがついている。男の人魚が一人だけいて、あとは全員女性だった。
一行は中央のテーブルに通され、オエノボスに促されるまま椅子に座った。
それからオエノボスが泉の方へ向かって一礼すると、男の人魚が泉の方から泳いできた。その人魚についた尾びれは、クジラのように大きなものだった。
中央のステージまでやってきて大きく飛び跳ねると、人魚は瞬時に人間へと姿を変えた。
体が濡れた様子はなく、服とその上には赤いマントさえ身につけていた。大柄な体格で、緑色の肌にはごつごつとしたイボがたくさんある。
男は、クリスたちの向かいのひとつだけ豪華な椅子に座った。熊でも座れそうなほどの大きな玉座も、男が座るとただの小さな椅子に見えた。
『皆さん、こちらがアトライオスの王であり、海底都市評議会の会長でもあるガイオン様です』
脇に控えたオエノボスが、玉座に座る男を恐縮しながら紹介した。
『地底世界からはるばるようこそ』と、低いダミ声が響いた。
『マーティスはこっちへ来るのはこれで何回目だ?駐在を終えてからもしょっちゅう来てるよな?』
肘掛に身を預けて、ガイオンがマーティスを見た。
『はい。これで9,255回を数えます』
『ふうん。まあ、ご苦労なこった。それで、誰が選ばれし者なんだ?』
傍らでかしこまるオエノボスに、ガイオンが確認した。
『えーとですね・・・』
面食らったような顔をして、オエノボスがマーティスに助け舟を求めた。
『こちらの者です』と言って、マーティスが隣に座るクリスの肩に手を置いた。すると、ガイオンがギロリとクリスをにらんだ。
クリスは思わず姿勢を正して自己紹介をした。
『はじめまして。クリスといいます。よろしくお願いします』
矢のような鋭い眼差しに耐え切れずに視線を逸らすと、奥の泉で岩に腰かける一人の人魚と目が合った。白く長い髪をした女性の人魚だった。視線が合うと、人魚はにっこり微笑んだ。
『ふうん。君は、地底人なの?』
『いえ。あ、はい。そうです』
ガイオンから不意に質問されて、クリスはしどろもどろに答えた。
『どっちなんだ?』
クリスの返答にガイオンは吹き出した。
『まあ何でも良いが。なんだって、地底人はそんなに心配しているのかねぇ。こっちを信用できんのかどうか知らんが。君も大変だな』
『あ、いえ』と首を振るクリスを、ガイオンは値踏みするように見つめた。
『そりゃあ、こっちでも銀河連邦から言われて、アクアはずっと探しているんだけどね。これだけ出てこないってことは、まだきっと時期じゃないんだと思うけどねぇ。人選ミスというのもあるかもしれないけどな』と言うと、ガイオンは顎を撫でながらしばらく黙り込んだ。その間ずっと、オエノボスは隣でかしこまっていた。
『まあ、いいや』
ふと、ガイオンが言葉を発した。
『とりあえず、好きなようにやってよ。こっちの人間に邪魔はしないように言っとくからさ。別に協力もしないけど。それでいいか?』
そう言って、ガイオンはギロリとクリスをにらんだ。鋭い眼光にいすくめられながら、クリスはマーティスに視線を向けて判断を仰いだ。
『はい。ありがとうございます』
マーティスは礼を述べると、深々と頭を下げた。それにならって、クリスもお辞儀をした。
『なんかあったら言ってよ。それじゃ』
そう言い残すと、ガイオンはすぐさま人魚の姿にシェイプシフトして泉へと戻っていった。
『ガイオンって人、なんであんなに偉そうなの?』
帰りのエレベーターの中でクレアが言った。
『セテオスの中央部の人たちと比べたら、なんか下品だし。あんな人が海底都市評議会の会長だなんて信じられない』
『お嬢さん。それは、言いっこなしでお願いしますよ。アトライオスの王様なんですから。それに、怒らせたらすごく怖いんすよ』
オエノボスがそう言ってなだめると、クレアはそっぽを向いた。
『そんな人がトップだなんて、アトライオスのレベルも知れてるわね』
『へへへ』
クレアの嫌味に、オエノボスは笑いながらペコペコと頭を下げた。
『それで、どうするんです?』
エレベーターを降りてから、オエノボスが尋ねた。
『ここから先は、我々だけで行動する。ここで結構』
オエノボスに冷たく言い放つと、マーティスはクリスたちに『行きましょう』と声をかけた。
『いや。お供しますって』
ついてこようとするオエノボスにマーティスは『その必要はない。ご苦労だった』と告げた。
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