クリスの物語

daichoro

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第二章 クリスタルエレメント

第14話 魔法の呪文

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 部屋は、10帖くらいの広さがあった。右奥には、さらに下へ下りるらせん階段がある。正面の壁は上と同じように一面ガラス張りで、その向こうには湖の世界が広がっていた。

 部屋の中央には宙に浮かんだテーブルと、それを挟んで向かい合うようにソファが2脚宙に浮かんでいる。


『まず、マウルの閉め方だけど』

 部屋に入ると、クレアが説明を始めた。

『そのリンクしたテステクで、マウルに向かって“ヴェヌル”と言ってみて』

『ヴェヌル?』

 クリスは聞き返した。なんだかまるで魔法の呪文みたいだ。クレアがうなずくと、クリスは言われた通り入り口に向かって「ヴェヌル」と声に出して言った。すると、瞬時に壁が現れて“マウル”が閉じられた。


「すごーい。魔法の杖みたい!」

 クリスの隣で紗奈が感嘆の声を上げた。

『マウルが閉じられている状態を“ヴェヌル”といって、マウルが開いている状態を“ヴァノール”っていうの。だから、逆にマウルを開けるときは“ヴァノール”と言えば開くよ』

 クリスは試しにマウルに向かって「ヴァノール」と言ってみた。すると今度は壁が一瞬で消えて、入り口が現れた。クリスは再び「ヴェヌル」と言ってマウルを閉めた。


『テステクに指示を出すときには、特定の言葉“カンターメル”が必要になるから、もし知らないなら必要なカンターメルはまず覚えるようにね。地底世界では親や学校から必ず教わるけど・・・』

 そう言って視線を向けるクレアに、クリスは首を振った。地上ではそんなものを教わることなどない、というように。そんなクリスにクレアはうなずき返した。


『そしたら、このクリスタルの壁。これに向かって“ムルシニオ”と言ってみて』

 今度は、ガラス張りの窓をクレアが指し示した。クリスは言われた通り、「ムルシニオ」と言ってガラスの窓にテステクの先端を向けた。すると、窓は白いただの壁に変わってしまった。


『こうして透けていない状態が“ムルシニオ”。それで、透けている状態が“ムルスペリオ”だよ』

 クレアの説明を聞き、クリスは「ムルスペリオ」と言ってテステクを振った。するとまた、壁一面が窓ガラスに変わった。

「すごーい!なんかクリス、魔法使いになったみたい!他にもあるの?」

 紗奈が興奮気味に言った。


『そうしたら、クリス。まずムルシニオと言って』

 クリスは言われた通り、「ムルシニオ」と言って窓を壁に変えた。

『それから、天井に向かって“ルーメノクトゥルナ”と言ってみて』

『え?何?』と聞き返すと、クレアはゆっくりと発音した。

『ルーメ・ノ・ク・トゥルナ』


「ルーメノクトゥルナ」

 クリスはテステクを天井に向けて、クレアの言ったカンターメルをそのまま繰り返した。すると、部屋の中が真っ暗闇になった。

『うわぁ、びっくりした』

 どこかからベベの声が響いた。


『この闇の状態が“ルーメノクトゥルナ”だよ。それで、明るくするには“ルーメクララウス”ね』

 暗闇の中クレアが言った。クリスは「ルーメクララウス」と唱えてテステクを振った。すると、部屋はまた一瞬で明るくなった。


『まぁ、こんな感じかな』

 腕を組んですまし顔でクレアが言った。

『ねぇ、さっきのって魔法なの?わたしもこれでできるの?』

 手に持ったテステクを掲げて、紗奈が聞いた。

『マホウ?』

『うん』

『マホウって何?』

『え?魔法を知らないの?』

 逆に聞き返されて、紗奈は戸惑うようにクリスを見た。


『魔法といえば・・・魔法使いとか魔術師が呪文を唱えて人をカエルに変身させたり、ホウキに乗って空を飛んだりするやつだよ』

『ああ、わかった。マージアね』

 クリスの説明を聞いて、クレアは人差し指を立てた。クリスの説明で分かったというよりは、クリスのイメージを読んでクレアは理解したようだ。


『マージア・・・魔法ではないかな。テステクがリンクしたことによってクリスタルが呼応し合って、こっちの意図するカンターメルをテステクが変換して表出させるだけだから、魔法とは少し違うかも。

 マージアを使う場合も基本的にはカンターメルが必要になるけど、その場合使えるカンターメルは使い手の能力によるからね。でもこれは部屋とテステクがリンクしていて正しいカンターメルさえ唱えられれば、誰にでもできることだよ』

 クレアはそう言って肩をすくめると、『そしたら、下に行こう』と言って階段へ向かった。クリスはベベを抱き上げ、クレアの後に続いた。



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