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第二章 クリスタルエレメント
第5話 見えない存在
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クリスの話を聞き終えた紗奈は、その時のエメルアの感情を思い出して胸が熱くなった。それから、クリスと前世で婚約者だったことを思い出して頬を赤く染めた。クリスがその話を黙っていたのも分かった気がした。
しかし、だからといって地底人のクレアがなぜ今こうしてこの世界にやってきたのか、理解ができない。
「それで、その子は二千年も時を越えてまでしてわざわざクリスに会いに来たっていうの?」
クリスは首を傾げた。それは、クリスも疑問に思っていたことだ。
『そういえば、なんで今回クレアたちはこの地上へやってきたの?』
紗奈の質問を受けて、今度はクリスがクレアに聞いた。
すると、下方から車のエンジン音が聞こえてきた。お城の上から下を覗くと、くねくねとした一本道を1台の軽トラックが上がってくるのが見えた。
やばい。クリスは、とっさに身をかがめた。
クレアやドラゴンのラマルが、人に見られたりでもしたら大変なことになる。紗奈もクリスに倣ってその場にしゃがんだ。
『クレア、ラマルと一緒に隠れて!』
突っ立ったまま慌てる様子のないクレアに向かって、クリスが叫んだ。しかし、大型トラックのように巨大なラマルは身の隠しようがない。今からどこかへ飛んでいってもらうわけにもいかない。その方が余計に目立つ。
『ラマル!』
人間の姿に変身してもらえばいいんだ。そう思って、クリスが思念で呼びかけた。すると、ラマルはクリスに向かってパチクリと大きく瞬きをした。
『大丈夫だよ』と、クレアが言った。
『それに、ラマルにとって地上で人間の姿にシェイプシフトするのは、少しきついことなの。空気も汚れているし、太陽の光も強いから』
そうは言っても、やはりそのままの姿を見られるわけにはいかない。しかし、もはや手遅れだった。軽トラックはもう目と鼻の先までやって来ていた。
クリスは立ち上がり、どうやってごまかそうかと考えながら軽トラックに視線を注いだ。隣で紗奈も立ち上がった。
軽トラックには、中年の男がひとり乗っていた。クリスが散歩のときにたまに会う近所のおじさんだ。
お城の脇を通り過ぎるときに、軽トラックはスピードを緩めた。
何も言わずに通り過ぎてくれますように、というクリスの願いも虚しく、男は車を停めた。それから手を上げてクリスに笑いかけた。クリスは作り笑いを浮かべて、軽く会釈した。冷や汗が背中をつたった。
男は窓を下げると「やあ、こんにちは」と、挨拶をした。
「お散歩かい?今日はまた、ずいぶんとかわいいお嬢さんを連れているじゃないか。もしかして、ガールフレンドかな?」
にこやかな笑顔で男が視線を向けると、紗奈は小さく頭を下げた。話を長引かせたくなかったクリスは、特に弁解することなく黙っていた。
「そういえば、今日は卒業式だったんだろう?」
「あ、はい」
クリスがぺこっと頭を下げると、男は満足そうな笑みを浮かべて「青春だね」と言い、ひとり豪快に笑った。
「それじゃあ、よろしくやってくれ」
それだけ言い残すと、男は車を走らせ去っていった。
クリスは紗奈と顔を見合わせた。それからクレアの方を振り返ると、ほらね、というように目をつむって肩をすくめた。
でも、一体どうして・・・?
『わたしたちは、見える人にしか見えないの』
クリスの疑問に答えるように、クレアが言った。
『それには、いろんな要素があるのだけど、ひと言でいえば波長が合うか合わないかの違いね。先入観がない分、子供の方が波長が合いやすいのはたしかだけどね』
『ふーん』
しかしそうは言っても、これほど大きなラマルの姿に気づかない人がいるだなんて、とてもじゃないけどクリスには信じられなかった。クリスのそんな思いを読み取ったのか、クレアは首を振った。
『わたしたちみたいな存在は、いつだって地表世界のあらゆるところにいるんだよ。でも、クリスも今まで気づかなかったでしょう?』
クレアがそう言った矢先、“ティンカーベル”のような小さな妖精がきらきらと光を放ってクリスたちの目の前を通り過ぎた。ひらひらと蝶のように舞っていた妖精は、クリスたちの視線に気づくと猛スピードでどこかへ飛んでいってしまった。
クリスが紗奈に視線を向けると、紗奈はぽかんと口を開けたままゆっくりと首を振った。紗奈の言わんとすることはクリスにも分かった。これが現実だとは、到底受け入れられない。
ふたりのそんな思いを知ってか知らずか『そんなことより』と、クレアが言った。
『わたしたちが今回こうしてクリスに会いに来た理由だけど・・・』
そうだった。それを聞こうとしていたところで、軽トラックがやってきたのだった。クリスはクレアに向き直った。
『クリスがやっとわたしたちのことを思い出して、こうして知覚できるようになったからっていうのも理由のひとつではあるんだけど。でも、それは決して偶然じゃないと思ってるの』
『えっと・・・どういうこと?』
クレアの言わんとすることが分からず、クリスは聞き返した。
『つまり、時機が来たっていうことだよ』
『時機?時機って何の時機?』
『この地球が次元上昇を迎える時機。それを阻止しようと、いよいよ闇の勢力も本格的に動き出しているの』
次元上昇という言葉をクリスは聞いた記憶があった。地底世界の図書館で、中央部から来たソレーテがそんなことを言っていた。地球が光のエネルギーへ立ち還るために、次の多次元へと移行するとかどうとかっていう話だった。
でも、それと前世の記憶を取り戻したこととが一体どう関係するのだろうか?
クリスの疑問を察したように『詳しいことはまたあとで話すけど』と、クレアは言った。それから横目で紗奈をちらっと見ると、思い切ったように言った。
『実はわたしたちの今回こうして会いにきた目的は、クリスを連れて帰ることなの』
え?
クリスは耳を疑った。
しかし、だからといって地底人のクレアがなぜ今こうしてこの世界にやってきたのか、理解ができない。
「それで、その子は二千年も時を越えてまでしてわざわざクリスに会いに来たっていうの?」
クリスは首を傾げた。それは、クリスも疑問に思っていたことだ。
『そういえば、なんで今回クレアたちはこの地上へやってきたの?』
紗奈の質問を受けて、今度はクリスがクレアに聞いた。
すると、下方から車のエンジン音が聞こえてきた。お城の上から下を覗くと、くねくねとした一本道を1台の軽トラックが上がってくるのが見えた。
やばい。クリスは、とっさに身をかがめた。
クレアやドラゴンのラマルが、人に見られたりでもしたら大変なことになる。紗奈もクリスに倣ってその場にしゃがんだ。
『クレア、ラマルと一緒に隠れて!』
突っ立ったまま慌てる様子のないクレアに向かって、クリスが叫んだ。しかし、大型トラックのように巨大なラマルは身の隠しようがない。今からどこかへ飛んでいってもらうわけにもいかない。その方が余計に目立つ。
『ラマル!』
人間の姿に変身してもらえばいいんだ。そう思って、クリスが思念で呼びかけた。すると、ラマルはクリスに向かってパチクリと大きく瞬きをした。
『大丈夫だよ』と、クレアが言った。
『それに、ラマルにとって地上で人間の姿にシェイプシフトするのは、少しきついことなの。空気も汚れているし、太陽の光も強いから』
そうは言っても、やはりそのままの姿を見られるわけにはいかない。しかし、もはや手遅れだった。軽トラックはもう目と鼻の先までやって来ていた。
クリスは立ち上がり、どうやってごまかそうかと考えながら軽トラックに視線を注いだ。隣で紗奈も立ち上がった。
軽トラックには、中年の男がひとり乗っていた。クリスが散歩のときにたまに会う近所のおじさんだ。
お城の脇を通り過ぎるときに、軽トラックはスピードを緩めた。
何も言わずに通り過ぎてくれますように、というクリスの願いも虚しく、男は車を停めた。それから手を上げてクリスに笑いかけた。クリスは作り笑いを浮かべて、軽く会釈した。冷や汗が背中をつたった。
男は窓を下げると「やあ、こんにちは」と、挨拶をした。
「お散歩かい?今日はまた、ずいぶんとかわいいお嬢さんを連れているじゃないか。もしかして、ガールフレンドかな?」
にこやかな笑顔で男が視線を向けると、紗奈は小さく頭を下げた。話を長引かせたくなかったクリスは、特に弁解することなく黙っていた。
「そういえば、今日は卒業式だったんだろう?」
「あ、はい」
クリスがぺこっと頭を下げると、男は満足そうな笑みを浮かべて「青春だね」と言い、ひとり豪快に笑った。
「それじゃあ、よろしくやってくれ」
それだけ言い残すと、男は車を走らせ去っていった。
クリスは紗奈と顔を見合わせた。それからクレアの方を振り返ると、ほらね、というように目をつむって肩をすくめた。
でも、一体どうして・・・?
『わたしたちは、見える人にしか見えないの』
クリスの疑問に答えるように、クレアが言った。
『それには、いろんな要素があるのだけど、ひと言でいえば波長が合うか合わないかの違いね。先入観がない分、子供の方が波長が合いやすいのはたしかだけどね』
『ふーん』
しかしそうは言っても、これほど大きなラマルの姿に気づかない人がいるだなんて、とてもじゃないけどクリスには信じられなかった。クリスのそんな思いを読み取ったのか、クレアは首を振った。
『わたしたちみたいな存在は、いつだって地表世界のあらゆるところにいるんだよ。でも、クリスも今まで気づかなかったでしょう?』
クレアがそう言った矢先、“ティンカーベル”のような小さな妖精がきらきらと光を放ってクリスたちの目の前を通り過ぎた。ひらひらと蝶のように舞っていた妖精は、クリスたちの視線に気づくと猛スピードでどこかへ飛んでいってしまった。
クリスが紗奈に視線を向けると、紗奈はぽかんと口を開けたままゆっくりと首を振った。紗奈の言わんとすることはクリスにも分かった。これが現実だとは、到底受け入れられない。
ふたりのそんな思いを知ってか知らずか『そんなことより』と、クレアが言った。
『わたしたちが今回こうしてクリスに会いに来た理由だけど・・・』
そうだった。それを聞こうとしていたところで、軽トラックがやってきたのだった。クリスはクレアに向き直った。
『クリスがやっとわたしたちのことを思い出して、こうして知覚できるようになったからっていうのも理由のひとつではあるんだけど。でも、それは決して偶然じゃないと思ってるの』
『えっと・・・どういうこと?』
クレアの言わんとすることが分からず、クリスは聞き返した。
『つまり、時機が来たっていうことだよ』
『時機?時機って何の時機?』
『この地球が次元上昇を迎える時機。それを阻止しようと、いよいよ闇の勢力も本格的に動き出しているの』
次元上昇という言葉をクリスは聞いた記憶があった。地底世界の図書館で、中央部から来たソレーテがそんなことを言っていた。地球が光のエネルギーへ立ち還るために、次の多次元へと移行するとかどうとかっていう話だった。
でも、それと前世の記憶を取り戻したこととが一体どう関係するのだろうか?
クリスの疑問を察したように『詳しいことはまたあとで話すけど』と、クレアは言った。それから横目で紗奈をちらっと見ると、思い切ったように言った。
『実はわたしたちの今回こうして会いにきた目的は、クリスを連れて帰ることなの』
え?
クリスは耳を疑った。
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