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第一章 過去世の記憶
第18話 兆し
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クレアとラマルは1階で料理を注文すると、3階に上がって窓際の席を陣取った。そこからだと前の通りを隈なく見渡せるからだ。
『きっとあの人たちこっちへ来るよ。わたしには分かるの』
早速運ばれてきた桃色の飲料をストローで飲みながら、独り言のようにクレアが言った。
その隣でラマルはうんうんと、うなずいた。
広場で見た男の正体などは、ラマルにとってはあまり興味がなかった。それよりも、運ばれてきた料理に夢中だった。
しかし、話を聞いてあげなければクレアの機嫌を損ねてしまう。だから聞いているふりだけでもしなければいけない。
そんなラマルをちらっと横目で見てから、クレアは頬杖をついて窓の外を眺めた。
『やっぱり地球人なんだから、地表世界は実際に見に行って見たいよね~。パパに連れてってもらって宇宙のいろんな星には行ったことがあるのに、地球は空中都市や海底都市はおろか地表世界にも行ったことがないなんて悲しすぎる。
ラマルもそう思うでしょう?ドラゴン族なのに、火山都市も見たことなくって地底で生まれて地底世界のことしか知らないなんて悲しくない?』
急に話を振られたラマルは、料理を口に運びながらも『うん、悲しいかもしれない』と、返事をした。
ところがその返事では、クレアは満足しなかったようだ。
『何それ?』と言って、ラマルをにらみつけた。
『わたしの話ちゃんと聞いてるの?食べ物にばっかり夢中になって。真面目な話をしてるんだから、もっとちゃんと聞いてよ』
『聞いてるよ』とラマルが答えると、だったらもっと感情を込めて返事をして、とクレアは注文をつけた。
『うん、ごめん』と、ラマルは素直に謝った。いつものことだから、ラマルも特に気に留めなかった。
そんなことより、料理を堪能したかったのだ。ところが突然クレアに背中を叩かれて、ラマルはむせてしまった。
『ほら、やっぱりこっちへ来た!』
クレアの指差す先には、先ほど広場にいた男とドラゴン族の女性の姿があった。
一列に並んでコルタニアのある方へと向かってきている。
男の方は、確かに地底人ではなさそうだった。通りを走る“ジェカル”が脇を通り抜ける度に怯えた様子だった。
喉に詰まった料理を水で流し込みながら、ラマルは近づいてくる二人を眺めた。
************************************************
宙に浮かんで通りを走る“ジェカル”という小舟が高速で脇を走り抜ける度に、ファロスは身をすくめた。
エランドラいわく、ジェカルには感知する装置というものが付いていてぶつかることは決してないということだった。
それでも風切り音を立てて高速で脇を走り抜けていくジェカルには慣れなかった。ファロスはエランドラの後ろに付き従って、なるべく通りの端を歩いた。
しばらく進んで円形の大きな建物の前に差し掛かると、ファロスの頭に『こんにちは』という声が響いた。
あどけない少女の声だった。
見上げると、3階の窓際の席に座った少女がファロスの方をじっと見ていた。少女の後ろには、透き通った翼が見える。
広場でお辞儀をしてきた少女だ。少女の隣では、青い髪の少年がファロスの方に顔を向けながら無心に何かを食べている。
ドラゴンから変身した少年だった。
ファロスが気づくと、少女は笑顔で手を振った。
『あなた、地上から来たのでしょう?』
どうやら、声の主はその少女のようだ。言葉を発しない言葉はこの距離で、しかも壁を通してでも伝わるらしい。
「ああ、そうだ」
少女に焦点を合わせて、ファロスは返事をした。
『ほうら、やっぱりー』
そういって、少女は隣に座る少年の背中を叩いた。
食事中に背中を叩かれた少年は、むせてしまっていた。
『見た感じこっちの人みたいに見えるけど、でも雰囲気がなんかね、ちょっと違うと思ったんだ。ねぇこっちへ上がってきて。お話しよう?』
顔の前で手を組んで、少女は言った。
それを見ていたエランドラが『寄ってみましょう』と、提案した。エランドラの方を振り返ると、ファロスはもう一度少女の方を見上げた。
それからまたエランドラの方を振り返って「さっき言っていた兆しというのは、このことか?」と聞いた。
エランドラは否定もせずに肩をすくめた。
『きっとあの人たちこっちへ来るよ。わたしには分かるの』
早速運ばれてきた桃色の飲料をストローで飲みながら、独り言のようにクレアが言った。
その隣でラマルはうんうんと、うなずいた。
広場で見た男の正体などは、ラマルにとってはあまり興味がなかった。それよりも、運ばれてきた料理に夢中だった。
しかし、話を聞いてあげなければクレアの機嫌を損ねてしまう。だから聞いているふりだけでもしなければいけない。
そんなラマルをちらっと横目で見てから、クレアは頬杖をついて窓の外を眺めた。
『やっぱり地球人なんだから、地表世界は実際に見に行って見たいよね~。パパに連れてってもらって宇宙のいろんな星には行ったことがあるのに、地球は空中都市や海底都市はおろか地表世界にも行ったことがないなんて悲しすぎる。
ラマルもそう思うでしょう?ドラゴン族なのに、火山都市も見たことなくって地底で生まれて地底世界のことしか知らないなんて悲しくない?』
急に話を振られたラマルは、料理を口に運びながらも『うん、悲しいかもしれない』と、返事をした。
ところがその返事では、クレアは満足しなかったようだ。
『何それ?』と言って、ラマルをにらみつけた。
『わたしの話ちゃんと聞いてるの?食べ物にばっかり夢中になって。真面目な話をしてるんだから、もっとちゃんと聞いてよ』
『聞いてるよ』とラマルが答えると、だったらもっと感情を込めて返事をして、とクレアは注文をつけた。
『うん、ごめん』と、ラマルは素直に謝った。いつものことだから、ラマルも特に気に留めなかった。
そんなことより、料理を堪能したかったのだ。ところが突然クレアに背中を叩かれて、ラマルはむせてしまった。
『ほら、やっぱりこっちへ来た!』
クレアの指差す先には、先ほど広場にいた男とドラゴン族の女性の姿があった。
一列に並んでコルタニアのある方へと向かってきている。
男の方は、確かに地底人ではなさそうだった。通りを走る“ジェカル”が脇を通り抜ける度に怯えた様子だった。
喉に詰まった料理を水で流し込みながら、ラマルは近づいてくる二人を眺めた。
************************************************
宙に浮かんで通りを走る“ジェカル”という小舟が高速で脇を走り抜ける度に、ファロスは身をすくめた。
エランドラいわく、ジェカルには感知する装置というものが付いていてぶつかることは決してないということだった。
それでも風切り音を立てて高速で脇を走り抜けていくジェカルには慣れなかった。ファロスはエランドラの後ろに付き従って、なるべく通りの端を歩いた。
しばらく進んで円形の大きな建物の前に差し掛かると、ファロスの頭に『こんにちは』という声が響いた。
あどけない少女の声だった。
見上げると、3階の窓際の席に座った少女がファロスの方をじっと見ていた。少女の後ろには、透き通った翼が見える。
広場でお辞儀をしてきた少女だ。少女の隣では、青い髪の少年がファロスの方に顔を向けながら無心に何かを食べている。
ドラゴンから変身した少年だった。
ファロスが気づくと、少女は笑顔で手を振った。
『あなた、地上から来たのでしょう?』
どうやら、声の主はその少女のようだ。言葉を発しない言葉はこの距離で、しかも壁を通してでも伝わるらしい。
「ああ、そうだ」
少女に焦点を合わせて、ファロスは返事をした。
『ほうら、やっぱりー』
そういって、少女は隣に座る少年の背中を叩いた。
食事中に背中を叩かれた少年は、むせてしまっていた。
『見た感じこっちの人みたいに見えるけど、でも雰囲気がなんかね、ちょっと違うと思ったんだ。ねぇこっちへ上がってきて。お話しよう?』
顔の前で手を組んで、少女は言った。
それを見ていたエランドラが『寄ってみましょう』と、提案した。エランドラの方を振り返ると、ファロスはもう一度少女の方を見上げた。
それからまたエランドラの方を振り返って「さっき言っていた兆しというのは、このことか?」と聞いた。
エランドラは否定もせずに肩をすくめた。
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