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第一章 過去世の記憶
第16話 地底都市セテオス
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街の一角で広場を見つけると、エランドラは下降を始めた。周囲を水で囲われた、アーモンド形の大きな広場だった。広場には一面大理石が敷かれ、中央の池からは噴水が上がっている。
『さあ、降りて』
広場に降り立つと、エランドラは体をかがめた。人々は特に珍しくないのか、ドラゴンが広場に降り立ってもこれといって気にする様子はなかった。
ファロスがエランドラの背から飛び降りるや否や、エランドラは瞬時に人間の姿へと戻った。
高貴な雰囲気の漂う美しい姿からは、先ほどまでのいかめしいドラゴンは想像もできないなと、改めてファロスは思った。
『あちらへ座りましょう』
人の姿に変身したエランドラが、噴水の前に浮かぶ変わった物体を指差して言った。
それは平べったい透明なフライパンとでも言えばいいのか、クリスタルを円く切削して中心に向けてなだらかに窪ませたような代物だった。
それが膝丈の高さで一列になっていくつも並んでいた。
『これはクテアというのよ』
ファロスが珍しそうにその物体を眺めていると、エランドラが言った。
見えない糸などで吊り下げられているのではないかと、ファロスはそのクテアという椅子の上下や前後左右を手で仰いだ。しかし、それは何かに吊り下げられているということはなく、一つひとつが単独で宙に浮かんでいた。
少し白みを帯びて透き通ったクテアがいくつも並んだ様子は、まるでクラゲが逆さまになって空中に漂っているようだった。
腕組みをするファロスの横で、エランドラがそのひとつに腰かけた。
少し沈んだクテアは、すぐにまた元の高さに戻ってエランドラを乗せたまま宙に浮いていた。
それに倣ってファロスもその隣に腰かけた。ふわりと、まるで水に浮かぶ浮袋にでも腰かけたような座り心地だった。
足を地面から離して尻を上下左右に振ってみると、クテアも同時に上下左右に振れた。
今度は足を地面につけて、クテアに乗ったまま地面を後ろに蹴ってみた。しかし、わずかに前方に移動しただけで、クテアはまた元の位置に戻ってしまった。何度試してみても同じだった。
それにしても・・・と、クテアに座り直してファロスは思った。
この都市は、何と高度な技術を持ち合わせているのだろう。周囲には天高くそびえる巨大な建物が乱立し、その間を縫ように透明なクリスタルの道が上にも下にも、まるで血管のように幾重にも張り巡らされ、その上を宙に浮かぶ舟が走っている。
このクテアにしてもそうだが、これまで見てきたどの国にもこれほどの技術を持ち合わせた都市などなかった。それでいて、とても静かだ。
どの都市でも見受けられるような喧噪とはまるで無縁だった。人々は皆頭で会話をしているため、話し声が聞こえてこない。聞こえてくるものといったら、どこからか響き渡ってくる鳥のさえずりくらいで、この静寂の中において、竪琴を奏でるようなその鳴き声は耳にとても心地いい。
それに気候も穏やかだった。寒くもなく、暑くもない。空気がまるで不純物をろ過したのではないかというほど澄んでいる。
時折、ゆったりとした微風が木々や花々の甘い香りを運んできた。
最初にこの都市を目にしたときの印象とは相反してゆったりとしていて、まるで時の流れもゆっくりしているように感じられる。そこでふと、ファロスは思った。
老婆の元からこちらへやって来てから、一体どれくらいの時が経っているのだろうか?
太陽の位置を見定めようと空を見上げて、愕然とした。太陽が青白かったのだ。それにとても明るいがまぶしくはなく、直視することができた。
ファロスは立ち上がって、上空のあちこちを見回した。しかし、水色の空にはその青白い太陽以外に星は何もなかった。
怪訝そうな顔を向けるファロスに、エランドラが言った。
『セントラルサンよ。あれがこの世界での太陽なの』
「そういえば、ここは地底都市だとさっき言っていたが、まさかここは我々の住む世界の真下にあるとでも言うのか?」
再びクテアに腰掛け、ファロスは聞いた。
エランドラは黙ってうなずいた。
「つまり、地下にあると?」
エランドラはまたうなずいた。
老婆はどこまでも深く潜れといっていた。しかしまさか自分たちの住む世界の下にこのような世界が広がっているとは、露ほども想像していなかった。
『このような都市はここだけでなく他にもたくさんあるのよ。あなた方の世界ではあまり知られていないのだけど』
いろんな国へ訪れたことのあるファロスだったが、それを聞いていかに自分の見識は狭いものだったかを思い知らされた。
地上でこの事実を知る人間は他にもいるのだろうかと、ファロスは考え込んだ。
『さあ、降りて』
広場に降り立つと、エランドラは体をかがめた。人々は特に珍しくないのか、ドラゴンが広場に降り立ってもこれといって気にする様子はなかった。
ファロスがエランドラの背から飛び降りるや否や、エランドラは瞬時に人間の姿へと戻った。
高貴な雰囲気の漂う美しい姿からは、先ほどまでのいかめしいドラゴンは想像もできないなと、改めてファロスは思った。
『あちらへ座りましょう』
人の姿に変身したエランドラが、噴水の前に浮かぶ変わった物体を指差して言った。
それは平べったい透明なフライパンとでも言えばいいのか、クリスタルを円く切削して中心に向けてなだらかに窪ませたような代物だった。
それが膝丈の高さで一列になっていくつも並んでいた。
『これはクテアというのよ』
ファロスが珍しそうにその物体を眺めていると、エランドラが言った。
見えない糸などで吊り下げられているのではないかと、ファロスはそのクテアという椅子の上下や前後左右を手で仰いだ。しかし、それは何かに吊り下げられているということはなく、一つひとつが単独で宙に浮かんでいた。
少し白みを帯びて透き通ったクテアがいくつも並んだ様子は、まるでクラゲが逆さまになって空中に漂っているようだった。
腕組みをするファロスの横で、エランドラがそのひとつに腰かけた。
少し沈んだクテアは、すぐにまた元の高さに戻ってエランドラを乗せたまま宙に浮いていた。
それに倣ってファロスもその隣に腰かけた。ふわりと、まるで水に浮かぶ浮袋にでも腰かけたような座り心地だった。
足を地面から離して尻を上下左右に振ってみると、クテアも同時に上下左右に振れた。
今度は足を地面につけて、クテアに乗ったまま地面を後ろに蹴ってみた。しかし、わずかに前方に移動しただけで、クテアはまた元の位置に戻ってしまった。何度試してみても同じだった。
それにしても・・・と、クテアに座り直してファロスは思った。
この都市は、何と高度な技術を持ち合わせているのだろう。周囲には天高くそびえる巨大な建物が乱立し、その間を縫ように透明なクリスタルの道が上にも下にも、まるで血管のように幾重にも張り巡らされ、その上を宙に浮かぶ舟が走っている。
このクテアにしてもそうだが、これまで見てきたどの国にもこれほどの技術を持ち合わせた都市などなかった。それでいて、とても静かだ。
どの都市でも見受けられるような喧噪とはまるで無縁だった。人々は皆頭で会話をしているため、話し声が聞こえてこない。聞こえてくるものといったら、どこからか響き渡ってくる鳥のさえずりくらいで、この静寂の中において、竪琴を奏でるようなその鳴き声は耳にとても心地いい。
それに気候も穏やかだった。寒くもなく、暑くもない。空気がまるで不純物をろ過したのではないかというほど澄んでいる。
時折、ゆったりとした微風が木々や花々の甘い香りを運んできた。
最初にこの都市を目にしたときの印象とは相反してゆったりとしていて、まるで時の流れもゆっくりしているように感じられる。そこでふと、ファロスは思った。
老婆の元からこちらへやって来てから、一体どれくらいの時が経っているのだろうか?
太陽の位置を見定めようと空を見上げて、愕然とした。太陽が青白かったのだ。それにとても明るいがまぶしくはなく、直視することができた。
ファロスは立ち上がって、上空のあちこちを見回した。しかし、水色の空にはその青白い太陽以外に星は何もなかった。
怪訝そうな顔を向けるファロスに、エランドラが言った。
『セントラルサンよ。あれがこの世界での太陽なの』
「そういえば、ここは地底都市だとさっき言っていたが、まさかここは我々の住む世界の真下にあるとでも言うのか?」
再びクテアに腰掛け、ファロスは聞いた。
エランドラは黙ってうなずいた。
「つまり、地下にあると?」
エランドラはまたうなずいた。
老婆はどこまでも深く潜れといっていた。しかしまさか自分たちの住む世界の下にこのような世界が広がっているとは、露ほども想像していなかった。
『このような都市はここだけでなく他にもたくさんあるのよ。あなた方の世界ではあまり知られていないのだけど』
いろんな国へ訪れたことのあるファロスだったが、それを聞いていかに自分の見識は狭いものだったかを思い知らされた。
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