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第一章 過去世の記憶
第7話 決心
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「エメルア、ちょっと手伝ってもらおうかね」
キッチンへやってきたエメルアにカルナンナが声をかけた。
「この実を潰してもらえるかい?」
カルナンナはそう言って、木の実の入ったすり鉢と木製の棒をテーブルに置いた。
半地下の部屋は、日暮れ前といえど明かり取りのない街路側のキッチンは顔色がうかがえないほど薄暗い。
灯りをともすための油は高価なため、スープを煮るための薪の火が灯り代わりになっていた。
カルナンナの申し出にうなずき椅子に座ろうとしたエメルアだったが、突然激しくせき込んだ。エメルアの口から床に吐き出された液体が、炎に照らされ黒々と光っている。
エメルアは膝から崩れ落ち、地面に倒れこんだ。
************************************************
「なんとも言えんよな」
市場からの帰宅途中にオルゴスが言った。
「あの婆さんの話を全部鵜呑みにするわけにもいかんからな。第一に、王に仕える予言者が本当にお告げをしたのかどうかも分からんし、もし仮にそうだったとしても、エメルアのかかっている病がその者にかけられた呪いなのかどうかも分からんわけだしな。呪いなんて証明のしようがない」
「まぁ、たしかにな」と、ファロスはうなずいた。
それから、先ほどの老婆とのやり取りを思い出した。
「その予言者を殺せば、本当にエメルアは助かるのか?」
「ヒッヒッヒッ。そうだよ。やつを殺せば、その娘だけじゃなくお前さんや国の民みんなが助かるのだよ」
「でも仮にそうだったとしても、一体どうやってその予言者を殺すことができるというんだ?そんなこと不可能だろう。
だって、その予言者は未来の全てを見通すことができるのだろう?そうだとしたら、自分が殺されることなんて簡単に避けられるじゃないか。逆に、自分を殺そうとする者を呪い殺すんじゃないか?
婆さん、あんたもその魔術が使えるのだろう?だったら、婆さんがその魔術で予言者を殺すことはできないのか?」
嘲るような笑みを浮かべて、老婆は言った。
「実はね・・・アタシは随分前に、そう、その予言者アルタシアにこの目を潰されたときから力を失ってしまったんだ。
悔しいけどね。今は、アタシの能力ではあの女に太刀打ちできないのだよ。
その能力を取り戻すためにも、何としてでもあやつを殺す必要があるのさ。
なぁに、方法はあるんだ。ただ、そのためにはお前さんたちにも協力してもらわなきゃならない・・・」
結局、ファロスとオルゴスは「考えさせてくれ」と言ってその場を立ち去った。
去り際に、老婆はこうも言っていた。
「娘の命は、あとひと月もつかどうかわからないよ。お前さんたちを待っているからね。気が向いたらいつでもおいでよ」
************************************************
ファロスたちの住居は、街の西のはずれに位置する集合住宅だった。
石で造られた3階建ての古い建物で、寄せ集められた貧しい民の何十世帯もの家族がそこに住んでいた。
ファロスとオルゴスが階段を降り、半地下になった1階の玄関扉の前にやってくると、中から勢いよく戸が開けられた。
驚く二人の腕をカルナンナが掴んだ。
「オルゴス、ファロス、エメルアが・・・」
事態を察した二人は、寝室へと駆け込んだ。
中庭側に採光の取られた寝室はうっすらと明るく、藁の敷き詰められたベッドに横たわるエメルアの白い体は青ざめているように見えた。
エメルアは意識を失っていたが、死んではいなかった。胸に耳を当て鼓動を確認すると、ファロスはほっと胸を撫で下ろした。
エメルアの身にまとった着衣は、胸元が茶色く変色していた。
隣にやってきたカルナンナが、少し前に血を吐いて倒れてしまったことを説明し、いつ死ぬか分からないと涙ながらに訴えた。
ファロスは老婆の話を思い出し、言いようもない怒りが込み上げてくるのを感じた。
目の前の愛する女性が王の仕掛けた呪いによってこのような状態にされてしまったかと思うと、許せなかった。
愛する妹に対するその思いは、オルゴスも同じだった。
二人は視線を交わすと、どちらからともなく身支度を始めた。
キッチンへやってきたエメルアにカルナンナが声をかけた。
「この実を潰してもらえるかい?」
カルナンナはそう言って、木の実の入ったすり鉢と木製の棒をテーブルに置いた。
半地下の部屋は、日暮れ前といえど明かり取りのない街路側のキッチンは顔色がうかがえないほど薄暗い。
灯りをともすための油は高価なため、スープを煮るための薪の火が灯り代わりになっていた。
カルナンナの申し出にうなずき椅子に座ろうとしたエメルアだったが、突然激しくせき込んだ。エメルアの口から床に吐き出された液体が、炎に照らされ黒々と光っている。
エメルアは膝から崩れ落ち、地面に倒れこんだ。
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「なんとも言えんよな」
市場からの帰宅途中にオルゴスが言った。
「あの婆さんの話を全部鵜呑みにするわけにもいかんからな。第一に、王に仕える予言者が本当にお告げをしたのかどうかも分からんし、もし仮にそうだったとしても、エメルアのかかっている病がその者にかけられた呪いなのかどうかも分からんわけだしな。呪いなんて証明のしようがない」
「まぁ、たしかにな」と、ファロスはうなずいた。
それから、先ほどの老婆とのやり取りを思い出した。
「その予言者を殺せば、本当にエメルアは助かるのか?」
「ヒッヒッヒッ。そうだよ。やつを殺せば、その娘だけじゃなくお前さんや国の民みんなが助かるのだよ」
「でも仮にそうだったとしても、一体どうやってその予言者を殺すことができるというんだ?そんなこと不可能だろう。
だって、その予言者は未来の全てを見通すことができるのだろう?そうだとしたら、自分が殺されることなんて簡単に避けられるじゃないか。逆に、自分を殺そうとする者を呪い殺すんじゃないか?
婆さん、あんたもその魔術が使えるのだろう?だったら、婆さんがその魔術で予言者を殺すことはできないのか?」
嘲るような笑みを浮かべて、老婆は言った。
「実はね・・・アタシは随分前に、そう、その予言者アルタシアにこの目を潰されたときから力を失ってしまったんだ。
悔しいけどね。今は、アタシの能力ではあの女に太刀打ちできないのだよ。
その能力を取り戻すためにも、何としてでもあやつを殺す必要があるのさ。
なぁに、方法はあるんだ。ただ、そのためにはお前さんたちにも協力してもらわなきゃならない・・・」
結局、ファロスとオルゴスは「考えさせてくれ」と言ってその場を立ち去った。
去り際に、老婆はこうも言っていた。
「娘の命は、あとひと月もつかどうかわからないよ。お前さんたちを待っているからね。気が向いたらいつでもおいでよ」
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ファロスたちの住居は、街の西のはずれに位置する集合住宅だった。
石で造られた3階建ての古い建物で、寄せ集められた貧しい民の何十世帯もの家族がそこに住んでいた。
ファロスとオルゴスが階段を降り、半地下になった1階の玄関扉の前にやってくると、中から勢いよく戸が開けられた。
驚く二人の腕をカルナンナが掴んだ。
「オルゴス、ファロス、エメルアが・・・」
事態を察した二人は、寝室へと駆け込んだ。
中庭側に採光の取られた寝室はうっすらと明るく、藁の敷き詰められたベッドに横たわるエメルアの白い体は青ざめているように見えた。
エメルアは意識を失っていたが、死んではいなかった。胸に耳を当て鼓動を確認すると、ファロスはほっと胸を撫で下ろした。
エメルアの身にまとった着衣は、胸元が茶色く変色していた。
隣にやってきたカルナンナが、少し前に血を吐いて倒れてしまったことを説明し、いつ死ぬか分からないと涙ながらに訴えた。
ファロスは老婆の話を思い出し、言いようもない怒りが込み上げてくるのを感じた。
目の前の愛する女性が王の仕掛けた呪いによってこのような状態にされてしまったかと思うと、許せなかった。
愛する妹に対するその思いは、オルゴスも同じだった。
二人は視線を交わすと、どちらからともなく身支度を始めた。
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