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沈まない太陽はございません。明けない夜がないように。
どうやらわたくしも沈み続けるだけではなかったようです。

「ありがとう、ラケル。実は、二日前、ベルンハルドと繋がったの。」
「おめでとうございます。」
「前は、そうなったら子種を注いでもらわなければと思ったでしょうけど、二日前は違ったわ。わたくしで気持ち良くなってもらうことが嬉しかったの。だから、端ない言葉も沢山使ってお互いの気持ちを高めたわ。それにね、ベルンハルドも同じだと分かったの。わたくしを悦ばせたいんですって。快楽へ誘いたいからって色々と…。わたくし言葉以上に体で理解したわ。子作りをする為に体を重ねるのではなく、愛し合った結果として子を成すこともあると。」

わたくしの相談係というお役目は終わりを迎えたようです。良かったわ、色々な意味で。




………………。
数ヶ月前には、終わりを迎えたと思った相談係。ですが、わたくしはあれからも王宮に定期的にやって来ております。しかも王太子妃様の計らいで、王宮内に小さな執務室という名の控室までいただいてしまいました。
困りました。現在進行形で王太子妃様の相談係です。しかも、会議室での催し物も定期的に開いております。半没落状態だったオルソン伯爵家の娘だったのに。

「ラケル、あなたには逸早く伝えたかったの。どうやら妊娠したようよ。」
「おめでとうございます。」
「会議室での妊娠中の過ごし方と出産、そしてその後の体調管理の集いにわたくしも招待してちょうだい。」
「…」
「いいわね?わたくしも妊娠中や出産に纏わる悩みを他の方と共有したいわ。あなた言ってたわよね、それはとても良いことだと。」
「はい。」

王太子妃様のご要望は、わたくし一人ではどうにもなりません。早速、敷地内にいるヘンリカ様を訪ねました。そう、事の発端はヘンリカ様です。ここは、丸投げさせていただきましょう。

それから数日、ヘンリカ様はエドガーにはもったいない素晴らしい方だと分かりました。
エークルンド侯爵家と騎士本部の会議室で行われた集いにお越しになっていたのは、皆、近衛騎士の奥様です。騎士の中でも王族に近い方々の奥様。ということで、会の主催者はわたくしのまま、総裁に王太子妃様を据えてはどうかと提案してくれたのです。総裁である王太子妃様ならば、集いに参加されることも意見を述べることも可能なのだからと。

わたくしはその意見に乗りました。変に目立ち過ぎて、どこかの夫人から横槍を入れられたり変な噂を流されたらたまりませんもの。わたくし、別に王宮内で盤石な立場を形成したいなどという野望はございませんわ。ただ、エドガーの将来の為に始めたことですもの。




さて、あれから月日は流れわたくしは陰でお若いご令嬢から『愛を司るエークルンド夫人』と呼ばれるようになったようです。面と向かって言われたことはありませんから、本当のところは分かりませんけどね。初めはただ、エドガーが出世しても誰からも妬まれないようにしたかっただけだというのに。

でも、こんな異名で呼ばれる程わたくしは頑張ったと思います。それなのに、肝心なエドガーは何故か第二王子の侍従長となってしまいました。護衛も剣の指導も出来る侍従長に。

ヘンリカ様は、第二王子の侍従長なんて驚くべき出世だと言います。ですが、それではわたくしの努力は何だったのでしょうか。でも、エドガーがお仕えする第二王子の誕生にわたくしもそれなりに携わったのだから、努力は報われたと考えるべきなのかもしれません。それに出世ということなら、第二王子の腹心の侍従長ですものね、いいのよね、きっとそれで。
そしてヘンリカ様はなんとわたくしに負けず劣らず五人もの子供を産みました。エドガーはどうやら夜のやり手だったようですわね。あら、ではわたくしの旦那様もね。ううん、旦那様は昼もやり手だわ。

そうそう、わたくしが王太子妃様の話し相手として王宮へ上がったことでとんでも無いことが色々起こってしまいました。一つ目はスティナ。なんと十五歳の時にヴィルヘルム第一王子の婚約者となってしまったのです。本人は望んでいなかったのに、大好きな叔父二人といつでも会えるようになると第一王子様に唆されたそうです。可哀想に。

第一王子様は唆すという禁じ手を使うくらいスティナを好きになってくれたということですもの、良かったのかしらとその時は思ったのですが…。こういうことにも使えるのでしょうか、血は争えないと?何とスティナは三年後には婚約を解消されてしまいました。

ヨハンネスはスティナがまだ第一王子の婚約者という時に受けた隣国からの招待に姉を守る騎士として付いていきました。小さいときから姉と妹を守るとトシュテンと劍の稽古に励んでいましたからね。
しかし隣国では剣ではなく愛想を振りまいていたようで、何と隣国の第二王女様に見初められたのです。
家族の親愛に深い子だと思っていましたが、あっさり隣国へ旅立っていきましたわ。

まあ子供が沢山いる我が家は、このように話が尽きませんわ。
これも子供達以外は、わたくしにしか直接触れられない旦那様のお陰ですわね。


<終わり>
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感想 1

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みんなの感想(1件)

akoako
2023.10.20 akoako

ラケル✖️トビアス編と共にとても面白く拝読しました。
子どもたち主題の続編も読みたいです。
ぜひぜひ。お待ちしております(〃ω〃)♡︎♪︎

五十嵐
2023.10.20 五十嵐

ありがとうございます。
五人もいるので、いつかはと思っております。もっと書いてしまうと、二番目のヨハンネスが一番書きやすいかなぁとずっと思っておりまして。それにはスティナがとても重要で…、なんて頭の中では構想を練り続けております。

解除

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