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為政者という方々は根回しも、行動もとても上手く素早くなさるようです。
「ラケル、聞いたよ。王太子妃殿下の育児相談相手に選ばれたんだってね。既に王太子妃殿下が支度金の申請もお済ませだ。」
王太子妃様は直ぐに手を回されたのでした。王宮からお帰りになった旦那様に相談する前に、確定事項として、しかも支度金の予算が付いたとまで言われてしまうとは。でも、一度くらいは抵抗を試みて良いでしょうか。

「はい。ですが、わたくしのような者で務まるでしょうか。」
「わたしはラケルほど適任者はいないと思うよ。四人も出産して、しっかり育てているんだから。」
旦那様には応援されてしまいました。育児相談という体ですものね、確かにわたくしは現在四人の子供達と日々格闘中です。子供達の世話係を雇ってはいますが、旦那様の事情もあり多くの人は雇えません。なので、わたくし、当然の如く主体となって頑張っております。

でも、王太子妃様が本当に相談したい育児の対象は王太子妃様がお産みになった王子様のことではなく、王太子様の王子様なのですが…。
もやもやしていても仕方がありません。わたくしは王太子妃様からの次回があるまで、旦那様のご子息の刺激に対する反応の仕方を夜な夜な観察し、その時に備えました。


結局、前回から一週間後わたくしは王太子妃様の元へ伺うこととなりました。上の二人を連れて。その間、なんとシーラ様からも妊娠のご報告がありました。単独で我が家へやって来たヘンリカ様からは、今後は妊娠中の過ごし方や体力の付け方の話の要望があるのでそれもお願いしたいというお話もありました。
わたくし、エドガーの為だけでなくオルソン家の為にもこのお話はしっかりお受けしたのです。芽キャベツクリームスープを広めることで、オルソン領の恵を皆様に購入していただくのが狙いです。結果的にエークルンドが手がける牛乳も勿論売り込めますね。

王宮へ向かう馬車の中で今後のオルソン領のことを考えていると、水を差すようにスティナとヨハンネスが楽しそうに二人で歌い始めました。大人には見えない妖精達へ歌ってあげているのかしら。それとも親切な妖精が二人を歌わせて、わたくしを現実に戻そうと仕向けたのでしょうか。
現実…どうなったのか聞くのが恐ろしいです。
もしも、お二人の関係が悪い方へ向かってしまっていたら…、国にとっては大変なことになってしまいます。ついでにわたくしの首も。でも、今日は幼子が一緒ですもの、その場でどうにかされることはないかもしれませんね、そう信じましょう。


堅固で厳かな様の東正門から入り、重い気持ちそのままにわたくしは受付へ向かいました。スティナとヨハンネスは世話係とわたくしの侍女と共に後ろから付いてきます。子供の歩幅に合わせるから歩みが遅いのか、気が重いからなのか。それでも、確実に受付には到着してしまいました。
「エークルンド侯爵夫人、妻がいつもお世話になっております。本日の来訪者名簿に夫人の名前があったもので、どうしても挨拶したく、突然申し訳ございませんでした。」
「いいえ、こちらこそご丁寧にありがとうございます。失礼ですが貴方様の奥様は?」
「ベアトリスです。」
「まあ、ベアトリス様の旦那様なのね。とても素晴らしい奥様ですから、大切にして下さいね。」
「はい。夫人はこれから度々こちらへお越しになると伺っております。これからも顔を合わせる機会があるかと存じますが、妻同様宜しくお願い致します。」

これです、これ。当初の目的はこうしてエドガーの姉として近衛騎士の皆様から軽~く謝意を示していただくことでした。何となく恩を売り、エドガーが先頭に立つ時にわたくしの弟ということで受け入れられるように。
それがどうしてこんなことになってしまったのか。
わたくしは覚悟を決めて案内された部屋で王太子妃様をお待ちしました。楽しそうに二人で一生懸命お喋りをしているスティナとヨハンネスがわたくしの救いです。

少しすると案内係の方から王太子妃様がお見えになったことを告げられました。可愛らしいヴィルヘルム様とご一緒の姿はとても神々しくあります。
まずはわたくしが口上を述べ、深く礼を取ります。そして、二人の子供には小さな声で練習の成果を妖精達に見せましょうと囁きます。
はっきりハキハキ、二人は教えられたご挨拶を披露しました。これで、この子達は大丈夫。

「まあ、可愛らしいこと。二人とも、これからお母様が王宮へ来た時はこのヴィルヘルムと三人で遊んでね。」
二人がわたくしを見上げたので、微笑んで頷きました。
「「はい!」」
王太子妃様がヴィルヘルム様の世話係と護衛にわたくしが連れてきた世話係と侍女を引き合わせ様々な指示をお出しになりました。そして去っていきました。
ああ、これでわたくしの周りはこの王宮の人のみとなりました。
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