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見縊っていましたわ、他言無用を。貴族間で噂話が広がる速さを考えれば当然のことだというのに。
しかも、近衛騎士になるには貴族家の生まれでなければいけないのだから、こうなることを予想していなかったのはわたくしの落ち度です。

そう、今日も新たにお二人加わりました。ヴィオラ様とラケル様。なんとお一人はわたくしと同じ名前。
お二人は参加された経緯が今までと少し異なります。なんと、ドロテーア様の旦那様、ボリス様経由でいらっしゃったのです。厳密に言うとボリス様がドロテーア様にこのお二人の参加をわたくしに頼むよう依頼したのですが。
何故、男性からの紹介で女性がここに来てしまったのか不思議に思ったわたくしは率直に尋ねたのです。これ以上、他言無用が本来持つ意味を失ったお飾りの言葉に成り下がってはいけませんから。

「ラケルとわたくしは恋愛結婚ではありません。」
ヴィオラ様もラケル様も伯爵家の出身。とすれば、お家の都合ありきの結婚は当然のこと。でもそれが、ボリス様経由でこちらにいらしたことには繋がりません。
ですが、お話しを聞き進むうちに点と点が線で結ばれていきます。

まず、お二人の旦那様はそれぞれの班の班長。即ち、ちょっとだけ出世されている方々です。と言っても、隊長とか副隊長ではなく、班長。なんでも、上下間の連絡係だったり、班員の健康管理がお仕事に加わったものだとか。でも、何にも付いていないエドガーの謂わば敵になるのかもしれませんね、将来のことを考えると。
敵になるやもしれない方々の奥様もこの会に参加させなくてはならないのかしら。疑問だわ、って、わたくし案外心が狭いのね。
あら、でも、ちょっとばかり出世されている方々の奥様達にも恩を売っておくのは重要かもしれないわ。しかもお二人の旦那様のお家は代々立派な騎士を輩出しているようですし。

「では、ヴィオラの旦那様の班にボリス様がいらして、そこで何故最近そんなに訓練中の勢いが増したかという話になったのですわね。ついでに肌艶も良いと。」
「はい。それでアルフ様はボリス様に食事等を改善したのなら他の皆様にも伝えたいと尋ねたそうです。」
ヴィオラ様の旦那様はアルフ様といって、班長職務に忠実で良いことをみんなに伝えたいと思っていたのね。

「ボリス様の返事は食事も訓練メニューも何も変えた記憶がないというものでした。そこで、アルフ様はわたくしからドロテーア様に生活の中でボリス様の体調の為に取り入れたものはないか尋ねるよう言いました。例えば、ドロテーア様なら侯爵家の力で疲労回復に効果があるお茶を入手できるかもしれないと。」
「では、ヴィオラはアルフ様からのお願いでドロテーアに質問へ行ったのね。」
「はい。アルフ様には取り急ぎ尋ねるよう言われましたので、ドロテーア様のお時間をいただけるようすぐにお手紙を出しました。」

ヴィオラ様と話を進めて行くと嫌でも気付くことがあります。わたくしは、敢えてアルフ様からのお願いと言いましたが、本当は違います。アルフ様とヴィオラ様の関係は業務を連絡しあう上司と部下のようで、お願いではなく言い付けを守る、が正しいように思えてしまうのです。

まだ、お話しを全て伺った訳ではございませんが、ここに来たのもアルフ様の命に従った、といったところでしょうか…。だからボリス様経由なのでしょう。

ヴィオラ様はその後すぐにドロテーア様とお話しする機会を持ったそうですが、結局何の情報も得られなかったとアルフ様に報告したそうです。まさしく業務を遂行し、結果を上司に報告した部下です。

アルフ様はその報告に怪訝な表情を浮かべたそうです。
「その表情を見て、わたくし、なんだか、家同士の思惑で結婚したのに何の役にも立たない妻だと言われているような気持ちになりました。」
あら…。ヴィオラ様は常に上司からの評価を気にして生活をしているのかもしれませんね。今までの方々とは抱えるものは根本的に違いそうだわ。
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