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薫はこの世界に来た当初、煌びやかな光の中でいきなりアルフレッドから婚約破棄を言い渡された。それも、冷たい眼差しと酷い態度で。
元となった小説では恐らくあれが山場。悪役令嬢のスカーレットが闇に落とされ、読者がそれみたことかと思うスカッとする瞬間だ。光の明るさとアルフレッドの視線の冷たさという対照的なことも一役買う見せ場だったのだろう。
けれどそこにいきなり放り込まれた薫としては、最悪の舞台に上がってしまったとしか言いようがない。山場ではなく、谷に真っ逆さまに落ちた気分だ。まあ、今となっては前世の最後は階段の上から落ちたと知っているので、その延長のようなものかもしれないが。しかしいくら事前にイービル達から状況の説明を受けていたとはいえ、腹立たしいことこの上なかった。その後はその気持ちのまま、婚約破棄後の後片付けをしてファルコールまでやってきたのだが…。今はこのファルコールでの生活が充実しすぎているのか、あの時のささくれ立った気持ちが完全にどこかへ行ってしまったようだ。
だから、幼い頃のアルフレッドとの楽しかった日々を思い出すことが出来るようになった。
悪かったのは貴族学院での四年弱の期間だけ。
そしてどうしてそういう状況になったのか、薫は理由を知ってしまっている。けれど、スカーレットのように流されなかった人物がいたのも事実。だから筋書きは変わってしまった。
もしも優しいスカーレットが生を手放さなかったらどうしていたのだろう。スカーレットを引き継いだお節介体質の薫に出来ることは何か。その行き着いた先は一通の手紙。
勢いで書いてしまった手紙。書くと送るは全く別物。この世界では『ついうっかり送信ボタンを押してしまった』は起こりえない。
だから薫は意を決する必要がある。捨てるにしろ、出すにしろ。
「この手紙を検閲されることなく宛名の方に届くよう手配してもらえる?」
王宮で暮らすアルフレッドに中身を検められることなく、手紙を届ける方法は限られている。薫がケビンに依頼した手配とは、キャストール侯爵へ届けて欲しいということだ。そして、手紙を受け取ったケビンは宛名を見て、珍しく薫にも分かる程眉をひそめた。
「これは…」
「昨日の夜、勢いで書いてしまって…」
「キャ…、いいえ、スカーレットお嬢様、お尋ねしてもいいですか。あなたはこの方の婚約者にもう一度なりたいと思ったのですか」
ファルコールへやって来た当初ケビン達は、薫にアルフレッドの情報を必要以上には知らせなかった。けれど、デズモンドがファルコールへやって来た理由、そしてその先にいるキャリントン侯爵の思惑を考えれば知らない方が不利になる。だからケビン達は、ある時から王都やアルフレッドを含めた主要人物についての情報を薫と共有するようになった。
しかしそれが裏目に出て、幼い頃から王子妃となるよう育てられたスカーレットがアルフレッドの為に再び婚約者になろうとしているのではないかと心配したようだった。
口にしないだけで、ケビン達はいつも心配してくれている。けれどあからさまに心配してもらえることに薫はある種の喜びや照れくささのような不思議な感覚を覚えた。
この気持ちを与えてくれる大切な人達を安心させたい、だから薫は微笑みながら言った。『安心して、わたし、そんなに優しくないわ』と。
元となった小説では恐らくあれが山場。悪役令嬢のスカーレットが闇に落とされ、読者がそれみたことかと思うスカッとする瞬間だ。光の明るさとアルフレッドの視線の冷たさという対照的なことも一役買う見せ場だったのだろう。
けれどそこにいきなり放り込まれた薫としては、最悪の舞台に上がってしまったとしか言いようがない。山場ではなく、谷に真っ逆さまに落ちた気分だ。まあ、今となっては前世の最後は階段の上から落ちたと知っているので、その延長のようなものかもしれないが。しかしいくら事前にイービル達から状況の説明を受けていたとはいえ、腹立たしいことこの上なかった。その後はその気持ちのまま、婚約破棄後の後片付けをしてファルコールまでやってきたのだが…。今はこのファルコールでの生活が充実しすぎているのか、あの時のささくれ立った気持ちが完全にどこかへ行ってしまったようだ。
だから、幼い頃のアルフレッドとの楽しかった日々を思い出すことが出来るようになった。
悪かったのは貴族学院での四年弱の期間だけ。
そしてどうしてそういう状況になったのか、薫は理由を知ってしまっている。けれど、スカーレットのように流されなかった人物がいたのも事実。だから筋書きは変わってしまった。
もしも優しいスカーレットが生を手放さなかったらどうしていたのだろう。スカーレットを引き継いだお節介体質の薫に出来ることは何か。その行き着いた先は一通の手紙。
勢いで書いてしまった手紙。書くと送るは全く別物。この世界では『ついうっかり送信ボタンを押してしまった』は起こりえない。
だから薫は意を決する必要がある。捨てるにしろ、出すにしろ。
「この手紙を検閲されることなく宛名の方に届くよう手配してもらえる?」
王宮で暮らすアルフレッドに中身を検められることなく、手紙を届ける方法は限られている。薫がケビンに依頼した手配とは、キャストール侯爵へ届けて欲しいということだ。そして、手紙を受け取ったケビンは宛名を見て、珍しく薫にも分かる程眉をひそめた。
「これは…」
「昨日の夜、勢いで書いてしまって…」
「キャ…、いいえ、スカーレットお嬢様、お尋ねしてもいいですか。あなたはこの方の婚約者にもう一度なりたいと思ったのですか」
ファルコールへやって来た当初ケビン達は、薫にアルフレッドの情報を必要以上には知らせなかった。けれど、デズモンドがファルコールへやって来た理由、そしてその先にいるキャリントン侯爵の思惑を考えれば知らない方が不利になる。だからケビン達は、ある時から王都やアルフレッドを含めた主要人物についての情報を薫と共有するようになった。
しかしそれが裏目に出て、幼い頃から王子妃となるよう育てられたスカーレットがアルフレッドの為に再び婚約者になろうとしているのではないかと心配したようだった。
口にしないだけで、ケビン達はいつも心配してくれている。けれどあからさまに心配してもらえることに薫はある種の喜びや照れくささのような不思議な感覚を覚えた。
この気持ちを与えてくれる大切な人達を安心させたい、だから薫は微笑みながら言った。『安心して、わたし、そんなに優しくないわ』と。
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