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悲しみが滲む美しいアイスブルーの瞳。そんな美しい瞳のジョイスに握っていた手を解放された時、薫は寂しさを覚えた。それまでは何度も別れの言葉を口にしたというのに。気付けば、突き放そうとしていた薫こそがジョイスの手を離すまいと握り返していた。
あれは一体どういう感情から来る衝動だったのか。寂しさだけではなく、様々な感情があったことは間違いない。例えば、謝罪しやり直そうとしているジョイスに必要な言葉を掛けずこのまま王都へ帰していいのかという後ろめたさのような。でも離れていく手を掴むという強い動作には、もっと熱量を伴う感情が必要だった。
それは…、失いたくなかったのだ。スカーレットの幼い日の大切な思い出と、それを共に作ったジョイスを。だから薫は掴んだ。貴族学院での無表情を貫くジョイスではなく、ファルコールで微かに感情を見せるジョイと名乗るジョイスならば振り返った時に良かったと感じられる思い出を今度は薫が作れそうで。
あの日、実年齢はジョイスの倍くらいの薫はなんて捻くれた別れの挨拶をしてしまったのだろう。口では別れを何度も切り出しながら、行動は全く違うことをしていた。推理小説に登場するダイイングメッセージよりも分かり辛い行動だ。証拠となるモノが残るのではなく、心の中にしまい込んである目には見えない感情を動作から読み取らせようとするとは。
それなのにジョイスは気付いてくれたのだろうか。リプセット公爵家のジョイスがたまたまキャストール侯爵家の私兵に志願したとは考えにくい。それに、あの時ジョイスは私兵ではなく騎士になると言っていた。
ファルコールでの人間らしさを多少見せるジョイスに過去はどうであれ薫は好感を持ったのだ。そうでなければ、サブリナに恋をしようと思うと言った時にジョイスの名前は出さなかっただろう。
結局、弱っているときのジョイスの瞳に少なからずそういう感情が動いてしまったようだ。あれ程自分自身で弱っている時の男には気を付けなくてはいけないと過去の経験から警鐘を鳴らしておきながら。
美しいアイスブルーの瞳を持つジョイスのことを考えながら、様々な思いを巡らせる薫。この時はまだ王都の令嬢達が噂するようにジョイスはその瞳同様冷たいだけの人ではないのにと思っていた。しかしファルコールにやって来たジョイスが『これはあなたを守る為の目です』と差し出したアイスブルーダイヤネックレスに、つい理由を尋ねてしまったことで薫の考えは大きく変わる。クールな印象を与える見た目からは考えられない程重い男なのだと。一歩間違えなくても、ちょっとやばめなのではないかと思ってしまった。けれど理由を堂々と話すジョイスは、それこそ誰もが思う冷静なジョイスそのものだった。
あれは一体どういう感情から来る衝動だったのか。寂しさだけではなく、様々な感情があったことは間違いない。例えば、謝罪しやり直そうとしているジョイスに必要な言葉を掛けずこのまま王都へ帰していいのかという後ろめたさのような。でも離れていく手を掴むという強い動作には、もっと熱量を伴う感情が必要だった。
それは…、失いたくなかったのだ。スカーレットの幼い日の大切な思い出と、それを共に作ったジョイスを。だから薫は掴んだ。貴族学院での無表情を貫くジョイスではなく、ファルコールで微かに感情を見せるジョイと名乗るジョイスならば振り返った時に良かったと感じられる思い出を今度は薫が作れそうで。
あの日、実年齢はジョイスの倍くらいの薫はなんて捻くれた別れの挨拶をしてしまったのだろう。口では別れを何度も切り出しながら、行動は全く違うことをしていた。推理小説に登場するダイイングメッセージよりも分かり辛い行動だ。証拠となるモノが残るのではなく、心の中にしまい込んである目には見えない感情を動作から読み取らせようとするとは。
それなのにジョイスは気付いてくれたのだろうか。リプセット公爵家のジョイスがたまたまキャストール侯爵家の私兵に志願したとは考えにくい。それに、あの時ジョイスは私兵ではなく騎士になると言っていた。
ファルコールでの人間らしさを多少見せるジョイスに過去はどうであれ薫は好感を持ったのだ。そうでなければ、サブリナに恋をしようと思うと言った時にジョイスの名前は出さなかっただろう。
結局、弱っているときのジョイスの瞳に少なからずそういう感情が動いてしまったようだ。あれ程自分自身で弱っている時の男には気を付けなくてはいけないと過去の経験から警鐘を鳴らしておきながら。
美しいアイスブルーの瞳を持つジョイスのことを考えながら、様々な思いを巡らせる薫。この時はまだ王都の令嬢達が噂するようにジョイスはその瞳同様冷たいだけの人ではないのにと思っていた。しかしファルコールにやって来たジョイスが『これはあなたを守る為の目です』と差し出したアイスブルーダイヤネックレスに、つい理由を尋ねてしまったことで薫の考えは大きく変わる。クールな印象を与える見た目からは考えられない程重い男なのだと。一歩間違えなくても、ちょっとやばめなのではないかと思ってしまった。けれど理由を堂々と話すジョイスは、それこそ誰もが思う冷静なジョイスそのものだった。
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