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王都キャストール侯爵家25

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デズモンド・マーカムという男をどこまで信じていいのかは分からない。あのキャリントン侯爵に重用される男なだけに。キャストール侯爵は様々な報告書とスカーレットからの手紙の内容を総合的に判断したとしても、完全に信用するには何かが足りないと漠然と感じたのだった。

何か。
その正体が掴めれば、仮に最後の最後でデズモンドがスカーレットを裏切った時に切り返す切り札を持てるのだろうが。しかし、今はスカーレットが信用する相手を侯爵も信じてみるしかない。娘としてだけではなく、人として信用出来るスカーレットが信じた人物なのだから。

それにデズモンドは上手く使える。既に国王には『これ以上娘から王族によって愛情という感情を奪わないで欲しい』と伝えた。国王がどのようにキャリントン侯爵にデズモンドのことを伝えるかは分からない。しかし、これでキャリントン侯爵はデズモンドをファルコールから動かし辛くなったはずだ。
即ちキャリントン侯爵は、腹心のデズモンドを今までのように使えなくなったということ。なんと使える男だろうか、キャストール侯爵にとっては。

他にもデズモンドは有り難い副産物を生み出してくれた。あのデズモンドが短期感ですら王都に戻ることなくファルコールに居続けるのはスカーレットの為と誰もが思っている。侯爵にとっては業腹だが、キャリントン侯爵の目論見通りスカーレットもそれに対し少なからずデズモンドに心を開いていると王都の貴族ならば誰もが知るところだ。お陰で野心を持つ貴族家の次男三男がファルコールへ向かうことを避けられた。今のところ向かおうとしているのは野心ではなく、本気を持つジョイスくらいだろう。あの馬一筋のクロンデール家の息子は、スカーレットに命を救われたことに対する恩、それとも最終的にリプセット公爵家、将又やはり馬の為なのかは分からないが。

そして侯爵が最も有り難いと思うのはデズモンドがいることにより生まれるグレーゾーン。デズモンドの王都での浮名の数々で、スカーレットとの関係を勘繰る下種な噂が耐えないことだ。本来ならば歓迎されるものではないが、表には出ないその手の噂はスカーレットとアルフレッドの再婚約を阻んでくれる。
ただ最近実しやかに囁かれる噂話は、仮令スカーレットがグレーゾーンにいたとしても成り立つもの。ここはまずジョイスに知らせておくべきだろう。そうすれば自ずとアルフレッドの耳まで届く。

問題はデズモンド。
完全に信用するには足りないものの正体が侯爵の考えることならば…。情報として噂話をファルコールへ送ればいい。ケビンかノーマンにデズモンドの耳にも入れるようにと。その反応如何で、先が見えてくるに違いない。

しかし面白いものだと侯爵は思った。感情が顔に出ないジョイスと、常に令嬢受けする表情のデズモンド。その実、心の中を見通すのが楽なのは感情が出ない方だとは。
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