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王宮では44

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ジョイスへのあの質問から一週間後、アルフレッドはダニエルの訪問を受けていた。それが意味することは、ダニエルのファルコール訪問はほぼアルフレッド達が思い描いた計画通りということだ。国の将来の指導者としては、計算可能な移動計画は非常に有り難い。何が起こるか分からない街道では予定が組めないどころか、いつしかまともな者は利用しなくなり荒れ果てる。

そして計算が出来なかった方の要因も計画に貢献してくれたということだ。スカーレットがダニエルにいつ会うかは不確定要素だった。以前のキャストール侯爵姉弟は誰もが羨む仲の良さだったが、ダニエルが貴族学院に入学してからのスカーレットへの態度は酷いものだった。不思議なことにその中に居た時は、アルフレッドにもダニエルの態度は当然に思えていたのだが、その中から出た今ではあまりにも酷かったと分かる。

二重国籍証明書をダニエルに届けさせるのは賭けだった。確実な方法を取るならば、王宮の事務官のみでスカーレットを訪問し、決まりきった遣り取りをすれば良かったのだ。ただし、それではキャストール侯爵家の者が事務官を待たせスカーレットの受領署名だけを貰ってくる可能性が高かっただろうが。

更にもう一つの確かな方法は、確実だが悪手だった。キャストール侯爵その人に届けてもらうなどということは。二人は間違いなく直ぐに会っただろう。しかし、侯爵がファルコールへ向かうとなればダニエルの様に王宮の事務官や護衛等を付けることは出来なかった。
そして、アルフレッドがこんな風に報告の為の訪問を受けることもなかっただろう。


「ご苦労だった」
「こちらこそ、姉上に会う機会を与えていただいたことに感謝いたします」
「それで久し振りの再会はどうだった。業務報告は昨日の内に事務官から聞き及んでいる。だから今日は、業務ではなく俺の幼馴染のことを聞かせて欲しい。どうか、楽に話してくれ。スカーレットが何を話したのか、ダニエルとの間で交わした言葉のままに」
「はい。わたしの目には姉上は今の生活を楽しみ、穏やかに過ごしているように映りました。幸い姉上が滞在されているファルコールの館は人目につかないよう造られた建物です。姉上は誰の目を気にすることなくお過ごしのようでした。そこには、わたし達が幼い頃お世話になったリッジウェイ子爵令嬢や、プレストン子爵から国境検問所の仕事を引き継いだマーカム子爵もいらっしゃり、話し相手には事欠かないでしょうし」

アルフレッドの言葉に、ダニエルは先ずは自分の目で見た様子から話し始めた。そこに嘘偽りはない。本当に目にした光景を伝えたのだった。ただし、その光景は特別に作られたもの。あたかも事あるごとに、スカーレットに呼ばれたデズモンドが隣に座るという。だから、ダニエルは本人も知らない内にマーカム子爵という名を出したときに声のトーンが少しだけ低くなってしまっていた。
しかし、今のアルフレッドがその音の変化を聞き逃すことは無かった。勿論デズモンドを恋愛的要素で警戒しているジョイスも。
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