上 下
381 / 450

王都キャストール侯爵家21

しおりを挟む
進み始めた流れを止めるには大きな力が必要。誰もが同じようなことを考える。だからこそ人は権力を持つ者に近付きたいと思い、いっそのことその権力自体を持ちたいと願う。ジャスティンがサブリナとの離縁申請受理を知らされたならば、貴族院内で力を持つ者を探すことなど当然キャストール侯爵は予想していた。だからこそ全ての手続きを前リッジウェイ子爵側に引き受けてもらい、受理という結果だけがジャスティンに伝わるようにした。何故なら、侯爵にはジャスティンが小者特有の耳を持っているように思えたのだ。邸の中で普段とは違う動きがあればその理由を探り、自分への関係有無で事を運ぶという。

「閣下の予想通り過ぎて、面白くもありません。接触する相手まで読んでしまうとは」
「読んだというよりは、消去法だ。おまえ達が集めた情報を元に考えれば、あの男が接触を図るのは自分より爵位が下、年齢も下、更には同じ派閥で取り込みやすい者を狙うだろう。そうと見せかけて、実は全く違うのだったならまだ見どころはあったのかもしれんがな。まあ、今のサブリナの為には分かり易過ぎる男で良かったのかもしれない」

ジャスティンが接触したのは、貴族院内で力があるというよりは書類遂行を管理する者だった。婚姻等の貴族間で交わされる契約を精査し、それぞれを管理する長へ資料と共に提出し、結果をまとめる役割の。

立場上、口が堅く公平な目で物事を見ることが出来る者が選ばれるポジション。本来ならば、何を言っても結果が覆ることなどあり得ない。しかしジャスティンはその公平な目を突いてきたのだった。

ジャスティンがその事務官、子爵家の三男に話した内容はこうだ。自分が関与しないところで、妻との離縁申請がなされてしまった。心から愛する妻を失いたくはないので、一旦受理された書類を止める方法はないかというもの。

事務官の話すジャスティンの様子は、最初のうちは絶望に満ちた悲しそうな男、次第に協力してくれれば感謝の気持ち即ち金をちらつかせ、最後には自分はいずれ伯爵位を継ぐ者だ協力して損はないと圧を掛けてきたそうだ。

貴族院内で誰に接触すればいいか勘を働かせることが出来たジャスティン。そこは百歩譲って褒めてあげよう、しかしそのこと自体を読まれていることも、何故読まれているかも分からないとは不幸なことだと侯爵は思った。

子爵家出身のサブリナをなめていたからこうなるのだ。侯爵と前リッジウェイ子爵が古くからの友人で、そこには爵位、金、力など関係ない確かなものが存在することを知らないから。

サブリナがどうしてスカーレットの話し相手としてファルコールへ向かったのか。もっと『愛する大切なサブリナ』に感心を持っていれば、サブリナの過去、そしてリッジウェイ子爵家のことも知っていたはず。

「馬鹿な男だ。前リッジウェイ子爵、否、バルラトルの心からの友人が不誠実な男から婚約破棄を突き付けられた娘を持つわたしだと知らないなんて」

侯爵へ報告をしていた者はジャスティンにある種の憐れみを感じた。仮令政略結婚でも今は亡き夫人を心から愛し、その夫人の面影を持つスカーレットを慈しむ侯爵を敵に回すとは。侯爵にとりジャスティンの不誠実さは、アルフレッドがシシリア欲しさにスカーレットを排除しようとしたことに繋がる。だからこそ、侯爵はサブリナとの離縁がジャスティンに効果的にダメージを与えるようにするだろう、今のアルフレッドがそうであるように。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】身売りした妖精姫は氷血公爵に溺愛される

鈴木かなえ
恋愛
第17回恋愛小説大賞にエントリーしています。 レティシア・マークスは、『妖精姫』と呼ばれる社交界随一の美少女だが、実際は亡くなった前妻の子として家族からは虐げられていて、過去に起きたある出来事により男嫌いになってしまっていた。 社交界デビューしたレティシアは、家族から逃げるために条件にあう男を必死で探していた。 そんな時に目についたのが、女嫌いで有名な『氷血公爵』ことテオドール・エデルマン公爵だった。 レティシアは、自分自身と生まれた時から一緒にいるメイドと護衛を救うため、テオドールに決死の覚悟で取引をもちかける。 R18シーンがある場合、サブタイトルに※がつけてあります。 ムーンライトで公開してあるものを、少しずつ改稿しながら投稿していきます。

自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!

ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。 ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。 そしていつも去り際に一言。 「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」 ティアナは思う。 別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか… そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。

結婚してるのに、屋敷を出たら幸せでした。

恋愛系
恋愛
屋敷が大っ嫌いだったミア。 そして、屋敷から出ると決め 計画を実行したら 皮肉にも失敗しそうになっていた。 そんな時彼に出会い。 王国の陛下を捨てて、村で元気に暮らす!

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

一度の浮気でも絶対に許しません。後悔なら勝手にしてください。

Hibah
恋愛
ローラは婚約者のクリストフが裏庭の茂みで浮気している現場を見つける。 クリストフは浮気相手の女にも「結婚したい」と言っているようだ。 ローラは現場に乗り込んで、クリストフの無様な言い訳を聞くことになる……。

お飾り王妃の日常

桃井すもも
恋愛
お飾り王妃のブリジット。国王のロビンとは生まれながらの政略結婚。 お飾りなので今日も暇。 仕方が無いので王城サーチを。そう、お飾り王妃には特技があるのです。 リズム&ブルースならぬロビンとブリジットのR&B。 ❇相変わらずの100%妄想の産物です。 ❇妄想遠泳の果てに波打ち際に打ち上げられた妄想スイマーによる寝物語です。 疲れたお心とお身体を妄想で癒やして頂けますと泳ぎ甲斐があります。 ❇座右の銘は「知らないことは書けない」「嘘をつくなら最後まで」。 ❇例の如く、鬼の誤字脱字を修復すべく激しい微修正が入ります。 「間を置いて二度美味しい」とご笑覧下さい。

二人の公爵令嬢 どうやら愛されるのはひとりだけのようです

矢野りと
恋愛
ある日、マーコック公爵家の屋敷から一歳になったばかりの娘の姿が忽然と消えた。 それから十六年後、リディアは自分が公爵令嬢だと知る。 本当の家族と感動の再会を果たし、温かく迎え入れられたリディア。 しかし、公爵家には自分と同じ年齢、同じ髪の色、同じ瞳の子がすでにいた。その子はリディアの身代わりとして縁戚から引き取られた養女だった。 『シャロンと申します、お姉様』 彼女が口にしたのは、両親が生まれたばかりのリディアに贈ったはずの名だった。 家族の愛情も本当の名前も婚約者も、すでにその子のものだと気づくのに時間は掛からなかった。 自分の居場所を見つけられず、葛藤するリディア。 『……今更見つかるなんて……』 ある晩、母である公爵夫人の本音を聞いてしまい、リディアは家族と距離を置こうと決意する。  これ以上、傷つくのは嫌だから……。 けれども、公爵家を出たリディアを家族はそっとしておいてはくれず……。 ――どうして誘拐されたのか、誰にひとりだけ愛されるのか。それぞれの事情が絡み合っていく。 ◇家族との関係に悩みながらも、自分らしく生きようと奮闘するリディア。そんな彼女が自分の居場所を見つけるお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※作品の内容が合わない時は、そっと閉じていただければ幸いです(_ _) ※感想欄のネタバレ配慮はありません。 ※執筆中は余裕がないため、感想への返信はお礼のみになっておりますm(_ _;)m

【R18】溺愛される公爵令嬢は鈍すぎて王子の腹黒に気づかない

かぐや
恋愛
公爵令嬢シャルロットは、まだデビューしていないにも関わらず社交界で噂になる程美しいと評判の娘であった。それは子供の頃からで、本人にはその自覚は全く無いうえ、純真過ぎて幾度も簡単に拐われかけていた。幼少期からの婚約者である幼なじみのマリウス王子を始め、周りの者が シャルロットを護る為いろいろと奮闘する。そんなお話になる予定です。溺愛系えろラブコメです。 女性が少なく子を増やす為、性に寛容で一妻多夫など婚姻の形は多様。女性大事の世界で、体も中身もかなり早熟の為13歳でも16.7歳くらいの感じで、主人公以外の女子がイケイケです。全くもってえっちでけしからん世界です。 設定ゆるいです。 出来るだけ深く考えず気軽〜に読んで頂けたら助かります。コメディなんです。 ちょいR18には※を付けます。 本番R18には☆つけます。 ※直接的な表現や、ちょこっとお下品な時もあります。あとガッツリ近親相姦や、複数プレイがあります。この世界では家族でも親以外は結婚も何でもありなのです。ツッコミ禁止でお願いします。 苦手な方はお戻りください。 基本、溺愛えろコメディなので主人公が辛い事はしません。

処理中です...