371 / 450
209
しおりを挟む
ダニエルは特別と言った。オランデール伯爵家ではサブリナを大切と言い、嘗て薫は最高のパートナーと表現された。
真に特別、大切、最高のパートナーになれる女性も勿論存在する。けれど残念なことに、スカーレット、サブリナ、そして薫は違った。三人ともある時点で過去を振り返れば都合が良かっただけだ。
スカーレットに至っては金と力がある侯爵令嬢ということで、子爵令嬢シシリアとの対比用に物語上とても便利な存在だった。薫が読んだことのないその物語の中でスカーレットは性悪に描かれ、読み手から総スカンを食らうよう正しく悪役令嬢だったことだろう。
既にアルフレッドの婚約者ではなくなったスカーレットに対しダニエルが使った特別ではないという表現。しかし、創造主に決められていた役割を担っていたという点ではスカーレットは特別で、その存在理由は特別ではなく最悪だった。
ダニエルの質問内容は良く分かる。それにスカーレットの記憶の中でも一際ペリドットのエピソードは思い出されてならない。けれど、不思議なことにあのペリドットの首飾りがシシリアの胸元で光る様子を見た瞬間のスカーレットの気持ちや思いは深い湖の底に沈んだかのようにそこにあるのは分かるのに見え辛い。大まかな感情は分かるのに、細部まではスカーレットの記憶や体を受け継いだ薫ですら難しいのだ。
「その意味…」
「キャロル、そんなに辛そうな表情を浮かべないで欲しい。見ている俺まで辛くなるから。けれど、出来れば俺もその意味を知りたい。君をそんな表情にするペリドットのことを、君に涙を流させた理由を。話すことで君自身の気持ちを整理して、内容を共有した俺達と乗り越えていこう」
「乗り越える?」
「殿下が贈ったのには何か理由があるはずだ。乗り越えなければ君はまた同じようにそれに囚われる」
薫はデズモンドの言葉に、視線を正面のダニエルから隣に居る声の主に移した。その瞬間、デズモンドはいつもの色気が漏れる美しい笑みを見せてくれたのだが、不思議とそこには安心感もあった。
どうしてなのだろうか。デズモンドの笑みのどこに安心を覚える要素があるというのだろう。薫は不思議でならなかった。けれど、短い期間ではあるが知らず知らずの内にデズモンドという人物を理解したからこそ、笑みを通して心を見たのかもしれないと薫は考えた。
ファルコールで心穏やかにのんびり楽しく暮らす。その為にも不安要素は取り除かなければならない。薫は『二人の幸せな秘密』を、ただの過去に聞いただけの言葉にするならば今だと思った。秘密は守るもの。けれど、守られなかった秘密はただの言葉、しかも今のアルフレッドとスカーレットの関係ならば戯言に過ぎなくなる。
そう考え話をしようとした時だった、扉がノックされたのは。そしてホテル風スクランブルエッグを利用したエッグサンドをサブリナがノーマンと共に運んで来てくれたのだった。
頭の中を整理する為にも話すことは重要だと教えてくれたサブリナ。しかし何より薫にとりサブリナの姿を今目にすることは、クリスタルからの贈り物の意味を理解した上でお礼だけを手紙にすると言ったあの姿勢を思い出せてくれた。
乗り越えたのなら、その先のアクションも取れるはず。
「ダニエル、デズ、先に折角のエッグサンドを食べてみて。わたしの自信作なの?」
「姉上の自信作?」
「わたし、ここでは料理もしているの。お腹を満たしたら、さっきの質問に答えるわ。そして、お願い、その解答はわたし側から見たことだけ。出来れば男性のあなた達にそこに殿下は何を思っていたのか考えて欲しいの」
アルフレッドが意味もなく『特注品』を作ってもらうことなど考え難い。何かの布石であるのならば、考えられる可能性は知っておきたいと薫は思ったのだった。
真に特別、大切、最高のパートナーになれる女性も勿論存在する。けれど残念なことに、スカーレット、サブリナ、そして薫は違った。三人ともある時点で過去を振り返れば都合が良かっただけだ。
スカーレットに至っては金と力がある侯爵令嬢ということで、子爵令嬢シシリアとの対比用に物語上とても便利な存在だった。薫が読んだことのないその物語の中でスカーレットは性悪に描かれ、読み手から総スカンを食らうよう正しく悪役令嬢だったことだろう。
既にアルフレッドの婚約者ではなくなったスカーレットに対しダニエルが使った特別ではないという表現。しかし、創造主に決められていた役割を担っていたという点ではスカーレットは特別で、その存在理由は特別ではなく最悪だった。
ダニエルの質問内容は良く分かる。それにスカーレットの記憶の中でも一際ペリドットのエピソードは思い出されてならない。けれど、不思議なことにあのペリドットの首飾りがシシリアの胸元で光る様子を見た瞬間のスカーレットの気持ちや思いは深い湖の底に沈んだかのようにそこにあるのは分かるのに見え辛い。大まかな感情は分かるのに、細部まではスカーレットの記憶や体を受け継いだ薫ですら難しいのだ。
「その意味…」
「キャロル、そんなに辛そうな表情を浮かべないで欲しい。見ている俺まで辛くなるから。けれど、出来れば俺もその意味を知りたい。君をそんな表情にするペリドットのことを、君に涙を流させた理由を。話すことで君自身の気持ちを整理して、内容を共有した俺達と乗り越えていこう」
「乗り越える?」
「殿下が贈ったのには何か理由があるはずだ。乗り越えなければ君はまた同じようにそれに囚われる」
薫はデズモンドの言葉に、視線を正面のダニエルから隣に居る声の主に移した。その瞬間、デズモンドはいつもの色気が漏れる美しい笑みを見せてくれたのだが、不思議とそこには安心感もあった。
どうしてなのだろうか。デズモンドの笑みのどこに安心を覚える要素があるというのだろう。薫は不思議でならなかった。けれど、短い期間ではあるが知らず知らずの内にデズモンドという人物を理解したからこそ、笑みを通して心を見たのかもしれないと薫は考えた。
ファルコールで心穏やかにのんびり楽しく暮らす。その為にも不安要素は取り除かなければならない。薫は『二人の幸せな秘密』を、ただの過去に聞いただけの言葉にするならば今だと思った。秘密は守るもの。けれど、守られなかった秘密はただの言葉、しかも今のアルフレッドとスカーレットの関係ならば戯言に過ぎなくなる。
そう考え話をしようとした時だった、扉がノックされたのは。そしてホテル風スクランブルエッグを利用したエッグサンドをサブリナがノーマンと共に運んで来てくれたのだった。
頭の中を整理する為にも話すことは重要だと教えてくれたサブリナ。しかし何より薫にとりサブリナの姿を今目にすることは、クリスタルからの贈り物の意味を理解した上でお礼だけを手紙にすると言ったあの姿勢を思い出せてくれた。
乗り越えたのなら、その先のアクションも取れるはず。
「ダニエル、デズ、先に折角のエッグサンドを食べてみて。わたしの自信作なの?」
「姉上の自信作?」
「わたし、ここでは料理もしているの。お腹を満たしたら、さっきの質問に答えるわ。そして、お願い、その解答はわたし側から見たことだけ。出来れば男性のあなた達にそこに殿下は何を思っていたのか考えて欲しいの」
アルフレッドが意味もなく『特注品』を作ってもらうことなど考え難い。何かの布石であるのならば、考えられる可能性は知っておきたいと薫は思ったのだった。
34
お気に入りに追加
173
あなたにおすすめの小説
【完結】私は死んだ。だからわたしは笑うことにした。
彩華(あやはな)
恋愛
最後に見たのは恋人の手をとる婚約者の姿。私はそれを見ながら階段から落ちた。
目を覚ましたわたしは変わった。見舞いにも来ない両親にー。婚約者にもー。わたしは私の為に彼らをやり込める。わたしは・・・私の為に、笑う。
逃した番は他国に嫁ぐ
基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」
婚約者との茶会。
和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。
獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。
だから、グリシアも頷いた。
「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」
グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。
こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。
謝罪のあと
基本二度寝
恋愛
王太子の婚約破棄騒動は、男爵令嬢の魅了魔法の発覚で終わりを告げた。
王族は揃いも揃って魅了魔法に操られていた。
公にできる話ではない。
下手をすれば、国が乗っ取られていたかもしれない。
男爵令嬢が執着したのが、王族の地位でも、金でもなく王太子個人だったからまだよかった。
愚かな王太子の姿を目の当たりにしていた自国の貴族には、口外せぬように箝口令を敷いた。
他国には、魅了にかかった事実は知られていない。
大きな被害はなかった。
いや、大きな被害を受けた令嬢はいた。
王太子の元婚約者だった、公爵令嬢だ。
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~
空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」
氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。
「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」
ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。
成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。
モブですが、婚約者は私です。
伊月 慧
恋愛
声高々に私の婚約者であられる王子様が婚約破棄を叫ぶ。隣に震える男爵令嬢を抱き寄せて。
婚約破棄されたのは同年代の令嬢をまとめる、アスラーナ。私の親友でもある。そんな彼女が目を丸めるのと同時に、私も目を丸めた。
待ってください。貴方の婚約者はアスラーナではなく、貴方がモブ認定している私です。
新しい風を吹かせてみたくなりました。
なんかよく有りそうな感じの話で申し訳ございません。
完璧な姉とその親友より劣る私は、出来損ないだと蔑まれた世界に長居し過ぎたようです。運命の人との幸せは、来世に持ち越します
珠宮さくら
恋愛
エウフェシア・メルクーリは誰もが羨む世界で、もっとも人々が羨む国で公爵令嬢として生きていた。そこにいるのは完璧な令嬢と言われる姉とその親友と見知った人たちばかり。
そこでエウフェシアは、ずっと出来損ないと蔑まれながら生きていた。心優しい完璧な姉だけが、唯一の味方だと思っていたが、それも違っていたようだ。
それどころか。その世界が、そもそも現実とは違うことをエウフェシアはすっかり忘れてしまったまま、何度もやり直し続けることになった。
さらに人の歪んだ想いに巻き込まれて、疲れ切ってしまって、運命の人との幸せな人生を満喫するなんて考えられなくなってしまい、先送りにすることを選択する日が来るとは思いもしなかった。
距離を置きましょう? やったー喜んで! 物理的にですけど、良いですよね?
hazuki.mikado
恋愛
婚約者が私と距離を置きたいらしい。
待ってましたッ! 喜んで!
なんなら物理的な距離でも良いですよ?
乗り気じゃない婚約をヒロインに押し付けて逃げる気満々の公爵令嬢は悪役令嬢でしかも転生者。
あれ? どうしてこうなった?
頑張って断罪劇から逃げたつもりだったけど、先に待ち構えていた隣りの家のお兄さんにあっさり捕まってでろでろに溺愛されちゃう中身アラサー女子のお話し。
×××
取扱説明事項〜▲▲▲
作者は誤字脱字変換ミスと投稿ミスを繰り返すという老眼鏡とハズキルーペが手放せない(老)人です(~ ̄³ ̄)~マジでミスをやらかしますが生暖かく見守って頂けると有り難いです(_ _)お気に入り登録や感想、動く栞、以前は無かった♡機能。そして有り難いことに動画の視聴。ついでに誤字脱字報告という皆様の愛(老人介護)がモチベアップの燃料です(人*´∀`)。*゜+
皆様の愛を真摯に受け止めております(_ _)←多分。
9/18 HOT女性1位獲得シマシタ。応援ありがとうございますッヽ(*゚ー゚*)ノ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる