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王都キャストール侯爵家19

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話は少し進んで王都にあるキャストール侯爵邸。手渡されたばかりのスカーレットからの手紙にキャストール侯爵は目を通し終わるとBに伝えた『その手紙は届けなくていい』と。そしてサブリナが書いた前リッジウェイ子爵宛ての手紙もBから受け取ったのだった。

「偶然にも前リッジウェイ子爵夫妻が明日やって来るから、わたしから渡そう」
「畏まりました」
そんな都合の良い偶然は起きない。起こされたものだと理解しているBは、侯爵からの次の言葉を待った。他にも偶然を作る必要があるだろうから。

「代わりにこの手紙をリプセット公爵、否、ジェラルドへ届けてくれ。おまえ達のルートで。公爵夫人がファルコールの館に滞在したいそうだから友人として一肌脱いでもらわなければなるまい」
「畏まりました」

Bが音も立てずに執務室から去ると、侯爵はスカーレットの手紙を今一度見返した。残念なことだが、アルフレッドからの仕打ちはスカーレットを随分と早く大人にしてしまったようだ。文面の至る所からそのことが感じられた。

調査結果を元に離縁を決めたのはサブリナ。そこにスカーレットは自身の考えを一言も添えなかったと書いてある。サブリナがどちらを選んでも、スカーレットはその方針に従いその中で出来る最善を尽くそうと決めていたようだ。誰かに言われ離縁するのと、自身の決断で離縁するのでは意味合いが異なるだろうからと。更には後々のことを考え、オランデール伯爵家の面目を立て離縁出来るよう計らって欲しいとも。

立場上、キャストール侯爵家が介入すれば話は簡単だ。しかし、それでは将来において何かあった時に『あの時、キャストール侯爵家が言ったから』と変な責任転嫁をされかねない。だからこそ離縁をサブリナが決心したこと同様、オランデール伯爵家が最終決断を下す必要がある。スカーレットはこの離縁で今後予想されることまで記してきた。しかも、かなりの確率で起こることを。

オランデール伯爵は、前リッジウェイ子爵から離縁の申し出を受けた直後は厄介払いが出来たとほくそ笑むことだろう。しかし、その内大きく後悔することになる。それが、妻、息子、娘、嫁の上辺だけを見てきた伯爵の咎だ。そのことに伯爵が気付く必要があるともスカーレットは書いている。気付かなければ、変わりようがないと。

侯爵はふと最近のダニエルのことを考えた。ようやく様々なことに気付き、理解を深めるようになったダニエル。そして、それが変化へ結び付いている。
アルフレッドの命でダニエルがスカーレットに会えるのは本当に偶然。侯爵は何も仕組んでいない。ただ、ダニエルにはその状況を上手く利用して以前のような仲の良い姉弟に戻ってもらいたいと思うのは侯爵の親としての感情だ。しかし、人間として筋を通し成長した姿をスカーレットに見せるべきでもあるだろう。
いずれにせよ、王都にいる侯爵には文字に綴られた結果しか見ることが出来ない。そして友人である前リッジウェイ子爵もまた同じ。娘の重要な決断を綴られた文字から理解するのみ。
スカーレットの手紙にある気になる部分に印を付けながら、侯爵は久し振りにいつも以上に明日は頭を使わなければならないと思ったのだった。
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