323 / 506
王都リプセット公爵家13
しおりを挟む
「キャストール侯爵令嬢はどうして面倒なことをわざわざ行っていたのかしら?それも表立ってではなく、裏から手を回してまで」
答えは考えるまでもない。先程の母の話を聞きながら、ジョイスは既にスカーレットが何の為にそんなことをしていたか考えていた。貴族達が仮令キャストール侯爵家に連ならなくても利益を得られるならば、その上に立つアルフレッドは政治を非常にやり易かったに違いない。利益の偏りを心配し、キャストール侯爵家をどうにか排除しようとする勢力を生む心配をしなくて済むのだ。その心配が行き過ぎて、殺人が起き、あたかもスカーレットが黒幕だったという馬鹿げた寸劇の上演とも無縁だっただろう。スカーレットの行いは全てがアルフレッドの世の為。目立つことなく、それでいて貴族家の夫人達を上手く統率したことだろう。
いくらでも答えは出てくる。けれどもジョイスはそれらを口に出来なかった。見ないどころか、知ろうとしなかった自分には答える資格がないように思えたのだ。そしてもう一つ。スカーレットのアルフレッドへの心遣いを言葉にしたくはなかった。
「簡単でしょ。他国との関係が落ち着いているこの国では、国内貴族のバランスを保つことが優先事項だからよ。けれど、スカーレットは大きな事業の締結等を手伝うことはなかった。家を守るご夫人方がお茶会での交流で機会を得たと演出し続けたの。交流のあまりない家門同士でも、当主が夫人を快くお茶会へ送り出せるように。保つだけではなく、交流も進めていたのね。だからジョイス、あなたもわたくしの話を聞くまでは、宝飾店を仕掛けたのがスカーレットとは知らなかったでしょ」
「…はい。母上、他にもご存知の例があれば教えていただけませんか」
「嫌よ。自分で調べなさいな。でも特別にあと二つだけ教えてあげるわ。あなたのことだもの、殿下にお伝えするんでしょう?でも、伝える時にはその中の一つに留めなさい。殿下こそご自身で調べないといけないことだわ。そして、知らなければならない、殿下が一瞬で何を失ったか」
街道整備問題などのキャストール侯爵家が家として関わった大きなことは既に痛い程アルフレッドは理解している。しかし表に出てこないことは見つけようがない。スカーレットが水面下で何を行っていたか等、本人から教えてもらわない限りは。
母はアルフレッドにスカーレットが行ったことを伝えるならば、一つだけだと言った。残りの二日でどういう情報を出してくるのかは分からないが、どれを話してもアルフレッドの負担になることは間違いない。箱の中に青い石が五個あると言われ差し出されるのではなく、範囲も数も示されることなく青い石を数えたほうがいいという不親切な助言をされるのだから。
「ジョイス、今なら分かるでしょう。知識や実力など全てを兼ね備えなければ、目上のご夫人方を統制するのは本当に難しいわ。特に力のない貴族家のご令嬢では。ぽっと出の殿下に愛されているだけのご令嬢には酷な世界だったのではないかしら。まあ、どんな実力を持っていたのかは知らないけれど」
シシリアの実力は作りあげられたものだった。学生時代がこうだったのだから、王宮にいても同じように周囲に作りあげられたもので妃の体面を保ち、利用され兼ねなかっただろう。
そしてジョイスはアルフレッドがまだ学生だった時にスカーレットがこんな酷いことを言ってきたと憤慨したことをふと思い出した。スカーレットがシシリアに侍女等の王宮にいてもおかしくない立場を与え寵愛しろと言ってきたのだと。あの時アルフレッドは、スカーレットが妃という立場を貪欲に望む浅ましい女だと蔑んだ。そしてジョイスもそれに同調した。しかし、今なら良く分かる。スカーレットは妃という入れ物に入り自らを差し出したのだ、アルフレッドが何も失わなくていいように。
答えは考えるまでもない。先程の母の話を聞きながら、ジョイスは既にスカーレットが何の為にそんなことをしていたか考えていた。貴族達が仮令キャストール侯爵家に連ならなくても利益を得られるならば、その上に立つアルフレッドは政治を非常にやり易かったに違いない。利益の偏りを心配し、キャストール侯爵家をどうにか排除しようとする勢力を生む心配をしなくて済むのだ。その心配が行き過ぎて、殺人が起き、あたかもスカーレットが黒幕だったという馬鹿げた寸劇の上演とも無縁だっただろう。スカーレットの行いは全てがアルフレッドの世の為。目立つことなく、それでいて貴族家の夫人達を上手く統率したことだろう。
いくらでも答えは出てくる。けれどもジョイスはそれらを口に出来なかった。見ないどころか、知ろうとしなかった自分には答える資格がないように思えたのだ。そしてもう一つ。スカーレットのアルフレッドへの心遣いを言葉にしたくはなかった。
「簡単でしょ。他国との関係が落ち着いているこの国では、国内貴族のバランスを保つことが優先事項だからよ。けれど、スカーレットは大きな事業の締結等を手伝うことはなかった。家を守るご夫人方がお茶会での交流で機会を得たと演出し続けたの。交流のあまりない家門同士でも、当主が夫人を快くお茶会へ送り出せるように。保つだけではなく、交流も進めていたのね。だからジョイス、あなたもわたくしの話を聞くまでは、宝飾店を仕掛けたのがスカーレットとは知らなかったでしょ」
「…はい。母上、他にもご存知の例があれば教えていただけませんか」
「嫌よ。自分で調べなさいな。でも特別にあと二つだけ教えてあげるわ。あなたのことだもの、殿下にお伝えするんでしょう?でも、伝える時にはその中の一つに留めなさい。殿下こそご自身で調べないといけないことだわ。そして、知らなければならない、殿下が一瞬で何を失ったか」
街道整備問題などのキャストール侯爵家が家として関わった大きなことは既に痛い程アルフレッドは理解している。しかし表に出てこないことは見つけようがない。スカーレットが水面下で何を行っていたか等、本人から教えてもらわない限りは。
母はアルフレッドにスカーレットが行ったことを伝えるならば、一つだけだと言った。残りの二日でどういう情報を出してくるのかは分からないが、どれを話してもアルフレッドの負担になることは間違いない。箱の中に青い石が五個あると言われ差し出されるのではなく、範囲も数も示されることなく青い石を数えたほうがいいという不親切な助言をされるのだから。
「ジョイス、今なら分かるでしょう。知識や実力など全てを兼ね備えなければ、目上のご夫人方を統制するのは本当に難しいわ。特に力のない貴族家のご令嬢では。ぽっと出の殿下に愛されているだけのご令嬢には酷な世界だったのではないかしら。まあ、どんな実力を持っていたのかは知らないけれど」
シシリアの実力は作りあげられたものだった。学生時代がこうだったのだから、王宮にいても同じように周囲に作りあげられたもので妃の体面を保ち、利用され兼ねなかっただろう。
そしてジョイスはアルフレッドがまだ学生だった時にスカーレットがこんな酷いことを言ってきたと憤慨したことをふと思い出した。スカーレットがシシリアに侍女等の王宮にいてもおかしくない立場を与え寵愛しろと言ってきたのだと。あの時アルフレッドは、スカーレットが妃という立場を貪欲に望む浅ましい女だと蔑んだ。そしてジョイスもそれに同調した。しかし、今なら良く分かる。スカーレットは妃という入れ物に入り自らを差し出したのだ、アルフレッドが何も失わなくていいように。
33
お気に入りに追加
184
あなたにおすすめの小説
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
婚約者のいる側近と婚約させられた私は悪の聖女と呼ばれています。
鈴木べにこ
恋愛
幼い頃から一緒に育ってきた婚約者の王子ギルフォードから婚約破棄を言い渡された聖女マリーベル。
突然の出来事に困惑するマリーベルをよそに、王子は自身の代わりに側近である宰相の息子ロイドとマリーベルを王命で強制的に婚約させたと言い出したのであった。
ロイドに愛する婚約者がいるの事を知っていたマリーベルはギルフォードに王命を取り下げるように訴えるが聞いてもらえず・・・。
カクヨム、小説家になろうでも連載中。
※最初の数話はイジメ表現のようなキツイ描写が出てくるので注意。
初投稿です。
勢いで書いてるので誤字脱字や変な表現が多いし、余裕で気付かないの時があるのでお気軽に教えてくださるとありがたいです٩( 'ω' )و
気分転換もかねて、他の作品と同時連載をしています。
【書庫の幽霊王妃は、貴方を愛することができない。】
という作品も同時に書いているので、この作品が気に入りましたら是非読んでみてください。
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
後悔はなんだった?
木嶋うめ香
恋愛
目が覚めたら私は、妙な懐かしさを感じる部屋にいた。
「お嬢様、目を覚まされたのですねっ!」
怠い体を起こそうとしたのに力が上手く入らない。
何とか顔を動かそうとした瞬間、大きな声が部屋に響いた。
お嬢様?
私がそう呼ばれていたのは、遥か昔の筈。
結婚前、スフィール侯爵令嬢と呼ばれていた頃だ。
私はスフィール侯爵の長女として生まれ、亡くなった兄の代わりに婿をとりスフィール侯爵夫人となった。
その筈なのにどうしてあなたは私をお嬢様と呼ぶの?
疑問に感じながら、声の主を見ればそれは記憶よりもだいぶ若い侍女だった。
主人公三歳から始まりますので、恋愛話になるまで少し時間があります。
嘘を囁いた唇にキスをした。それが最後の会話だった。
わたあめ
恋愛
ジェレマイア公爵家のヒルトンとアールマイト伯爵家のキャメルはお互い17の頃に婚約を誓た。しかし、それは3年後にヒルトンの威勢の良い声と共に破棄されることとなる。
「お前が私のお父様を殺したんだろう!」
身に覚えがない罪に問われ、キャメルは何が何だか分からぬまま、隣国のエセルター領へと亡命することとなった。しかし、そこは異様な国で...?
※拙文です。ご容赦ください。
※この物語はフィクションです。
※作者のご都合主義アリ
※三章からは恋愛色強めで書いていきます。
王太子様、覚悟なさい! 怒れる公爵令嬢レリアの華麗なる大暴れ
山本みんみ
恋愛
公爵令嬢レリア・ミフリスは王太子オルト・マグナリアの婚約者で、次期王妃となるべく教育を受けてきた。しかし、彼女とオルトの関係は政略結婚であり、恋愛感情は存在しなかった。それでも「次期王妃」という特別な地位には価値があり、それを誇りにしていたレリアだったが、ある日、オルトが庶民出身の伯爵家養女の少女を優先したことで、怒りを爆発させる。激情のままに屋敷を飛び出し、庭園の演習場で初めて剣を手にした彼女は、そのまま豪快に丸太を破壊。爽快感を味わったものの、自身の心の痛みは消えない。
全てを諦めた令嬢の幸福
セン
恋愛
公爵令嬢シルヴィア・クロヴァンスはその奇異な外見のせいで、家族からも幼い頃からの婚約者からも嫌われていた。そして学園卒業間近、彼女は突然婚約破棄を言い渡された。
諦めてばかりいたシルヴィアが周りに支えられ成長していく物語。
※途中シリアスな話もあります。
今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~
コトミ
恋愛
結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。
そしてその飛び出した先で出会った人とは?
(できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)
hotランキング1位入りしました。ありがとうございます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる