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王都リプセット公爵家13

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「キャストール侯爵令嬢はどうして面倒なことをわざわざ行っていたのかしら?それも表立ってではなく、裏から手を回してまで」

答えは考えるまでもない。先程の母の話を聞きながら、ジョイスは既にスカーレットが何の為にそんなことをしていたか考えていた。貴族達が仮令キャストール侯爵家に連ならなくても利益を得られるならば、その上に立つアルフレッドは政治を非常にやり易かったに違いない。利益の偏りを心配し、キャストール侯爵家をどうにか排除しようとする勢力を生む心配をしなくて済むのだ。その心配が行き過ぎて、殺人が起き、あたかもスカーレットが黒幕だったという馬鹿げた寸劇の上演とも無縁だっただろう。スカーレットの行いは全てがアルフレッドの世の為。目立つことなく、それでいて貴族家の夫人達を上手く統率したことだろう。

いくらでも答えは出てくる。けれどもジョイスはそれらを口に出来なかった。見ないどころか、知ろうとしなかった自分には答える資格がないように思えたのだ。そしてもう一つ。スカーレットのアルフレッドへの心遣いを言葉にしたくはなかった。

「簡単でしょ。他国との関係が落ち着いているこの国では、国内貴族のバランスを保つことが優先事項だからよ。けれど、スカーレットは大きな事業の締結等を手伝うことはなかった。家を守るご夫人方がお茶会での交流で機会を得たと演出し続けたの。交流のあまりない家門同士でも、当主が夫人を快くお茶会へ送り出せるように。保つだけではなく、交流も進めていたのね。だからジョイス、あなたもわたくしの話を聞くまでは、宝飾店を仕掛けたのがスカーレットとは知らなかったでしょ」
「…はい。母上、他にもご存知の例があれば教えていただけませんか」
「嫌よ。自分で調べなさいな。でも特別にあと二つだけ教えてあげるわ。あなたのことだもの、殿下にお伝えするんでしょう?でも、伝える時にはその中の一つに留めなさい。殿下こそご自身で調べないといけないことだわ。そして、知らなければならない、殿下が一瞬で何を失ったか」

街道整備問題などのキャストール侯爵家が家として関わった大きなことは既に痛い程アルフレッドは理解している。しかし表に出てこないことは見つけようがない。スカーレットが水面下で何を行っていたか等、本人から教えてもらわない限りは。

母はアルフレッドにスカーレットが行ったことを伝えるならば、一つだけだと言った。残りの二日でどういう情報を出してくるのかは分からないが、どれを話してもアルフレッドの負担になることは間違いない。箱の中に青い石が五個あると言われ差し出されるのではなく、範囲も数も示されることなく青い石を数えたほうがいいという不親切な助言をされるのだから。

「ジョイス、今なら分かるでしょう。知識や実力など全てを兼ね備えなければ、目上のご夫人方を統制するのは本当に難しいわ。特に力のない貴族家のご令嬢では。ぽっと出の殿下に愛されているだけのご令嬢には酷な世界だったのではないかしら。まあ、どんな実力を持っていたのかは知らないけれど」

シシリアの実力は作りあげられたものだった。学生時代がこうだったのだから、王宮にいても同じように周囲に作りあげられたもので妃の体面を保ち、利用され兼ねなかっただろう。

そしてジョイスはアルフレッドがまだ学生だった時にスカーレットがこんな酷いことを言ってきたと憤慨したことをふと思い出した。スカーレットがシシリアに侍女等の王宮にいてもおかしくない立場を与え寵愛しろと言ってきたのだと。あの時アルフレッドは、スカーレットが妃という立場を貪欲に望む浅ましい女だと蔑んだ。そしてジョイスもそれに同調した。しかし、今なら良く分かる。スカーレットは妃という入れ物に入り自らを差し出したのだ、アルフレッドが何も失わなくていいように。
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