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王都リプセット公爵家12

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「珍しいわね、わたくしと共に朝食を取るなんて。あなた、普段は軽く済ませて王宮へ向かうだけなのに。あからさまな行動変容は下心があると理解して欲しいからでしょうけれど」
「…」
「自分は何でも知っていて、一人で解決出来ますという可愛げのない顔をしているあなたがどうしたのかしら、ジョイス?」
「母上にご教示いただきたいことがあります」
「まあ、わたくしに分かることかしら。あなたの質問はお父様やお兄様達の方が」
「いいえ、母上が一番良くご存知なことです」

女性と関わり面倒事に巻き込まれてはいけない。ジョイスはその考えの下、どの女性とも挨拶程度の付き合いだけをしてきた。いずれは結婚するだろうが、相手は政治的に決められる。それまでは、未来の妻の為にも行き過ぎた男女間の関係は避けてきた。

しかし行き過ぎだったようだ。せめて世間話が出来る女友達がいたのなら、朝から母親に吊るし上げられると分かっていながら食事を共にする必要はなかっただろうに。今更ながら、ジョイスは自分の性格の問題点を後悔した。好きになってはいけないから嫌いになる、これも行き過ぎの産物。貴族学院でのスカーレットへの言葉や口調もだ。けれど、今は反省に時間を割いている場合ではない。聞かなければならないことがある。ジョイスはアルフレッドとデズモンドが装飾品を購入した店について母親に質問した。

どうしても知りたかったのだ、デズモンドがあの店を選んだのは偶々なのか狙い撃ちなのか。女性に人気の店ならば、まだ偶々という可能性が残ると思いたかった。

「あの宝飾店はデザインが人気の店ね、特に若いご令嬢達に。でもね、それには理由があるの、知りたい?」
知りたいことは人気の理由ではない。スカーレットがその店の商品をコレクションしていたことは令嬢達の間で広く知られているかだ。けれども、母の話の腰を折っては知りたいことが遠ざかってしまう。ジョイスは小さな声で『教えて下さい』と言うしかなかった。

「あなたは女性のお茶会が噂話や自慢話をする為にあると思っているでしょうけど、それだけではないのよ。特に身分の高い女性が行うものは」

宝飾店の話からどうして茶会の話になるのか。話が逸れすぎではないかとジョイスは思いながらも、最終目的の為には我慢が必要だと自分に言い聞かせた。

「わたくしの場合、リプセット公爵家に連なる貴族家を纏める立場ですもの、それぞれの家にどういうお嬢さんや息子さんがいるか情報が入ってくる。理由は分かるわよね?」
「はい。将来の伴侶の斡旋を望まれているからでしょう」
「言っても仕方ないけれど、あなたのその言い方何とかならないのかしら…」
「それで、母上、話の続きは」
「情報を得たからといって、直ぐにお見合い話をするわけではない。その家の事業や考え方を考慮して決めていくの。時には、他の公爵家とのお茶会から情報を得たりしてね。あなたが名前を出した宝飾店はその産物なの」

何故娘や息子の情報が宝飾店に繋がるのか、ジョイスにさっぱり話の脈略が掴めなかった。

「まあ、今のジョイスでもそういう可愛らしい顔をするのね。小さい頃を思い出すわ、『母上、その先を読んで下さい』って強請った頃のあなたを」
「…それでどうして産物なのですか」

「キャストール侯爵令嬢が定期的にお茶会を開いていたのは知っているわよね?」
「はい。王宮内で見掛けたことがあります」
「王宮内だけではなく侯爵邸でも開いていた。その度に彼女は様々な情報を得たことでしょう。ただし、彼女はキャストール侯爵家に連なる家だけではなく、王国内の貴族全てのバランスに配慮しなければならなかった」

ジョイスは宝飾店がどうして『夜空の星シリーズ』を販売するに至ったかの経緯を聞き、改めてスカーレットの細かい配慮、そして未来の王妃の器を思い知らされたのだった。
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