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とある国の離宮9
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幼い頃に乳母が読み聞かせてくれた物語は、全ての謎が解き明かされ終わるものや悪を倒し世の中に平和が再び訪れる内容といったものが多かった。どの話にも必ず終わりがあり、それより先の話はどこにもない。だからテレンスはその先を頭の中で考え楽しんだ。しかし、そこは子供。思い描くことが出来たのは、全てを解き明かした主人公が町の人から褒められるといったような簡単なものばかりだった。
成長と共にテレンスは物語を卒業した。乳母に読んでもらっていた物語の本から、歴史や外国語、更には政治学と自ら文字を追い、現実的且つ具体的なその先の内容を考えるようになった。もうそこには空想の世界はない。現実と向き合うだけだった。
そう、現実。
では、今のこの現状は何なのだろうか。夢物語を追うような幼い女の子達が喜びそうなこの現状は。主人公の性別は反対だとしても、一国のお姫様のお婿さんになるというテレンスは。
国を出たのは確かにマリア・アマーリエに選ばれる為だった。自国を出て、二つの国を越え、交流の無い国へやって来たテレンス。大袈裟に言うなら、ここまでは見聞録。そして数人の候補者の中から婚約者に選ばれた過程は、少しの甘さもないが恐らくロマンス小説。女性が好んで読むその手の小説をあまり読んだことがないテレンスとしては、もしかしたら過大解釈ではと引っ掛かる部分もあるが。
王宮での挨拶や、王の妃達とのお茶会。これは物語には書かれていないが、現実ならばめでたしめでたしの後に必ずあるものだろう。では、更にその先の現実には何があるのか。
この国にやって来るまでの目標は、達成すると同時に新たな出発となった。テレンスはふと子供の頃にもっと物語の先を想像しておくべきだったと感じずにはいられなかった。マリア・アマーリエとの関係を表す表現が変わっても、どうやってこれからを切り開いていくのか想像が付かないのだ。
アルフレッドとスカーレットはそもそも子供の頃から付き合いがあり、ある日を境に婚約者となった。そこから二人は成長と共に関係を構築したが、成長してから面識がなかったマリア・アマーリエの婚約者になったテレンスはどうすべきなのか。
二人のように同じ国、同じ言語で育ったわけではないマリア・アマーリエとテレンス。どうしたら夫婦になれるのか考えなければならない。そしてその関係は貴族学院に入る前までのアルフレッドとスカーレットのようでありたいとテレンスは思った。
貴族学院に入るまで、アルフレッドは王族であるからとスカーレットに命令や無理を言うことはなかった。勉強の時には互いに意見を言い合い、どうしてそう考えるのか深い部分を共有しようとしていた程だ。
しかしそうなりたいからと、テレンスからマリア・アマーリエへ言うのは何かが違う。あくまでもテレンスはスカーレットと同じ立場なのだから。
「殿下、二人で過ごす時間をもう少し取るようにしませんか」
「晩餐と週に四日の午前中のお茶では足りないかしら。テレンス様もこの国の習慣や離宮運営の勉強があるでしょう?」
「晩餐の席は二人だけの時間とは言い難いですから。それと、二人の時は心の距離が近くなる呼び方をしたいのですが」
「心の距離?」
「愛称で呼び合うのはどうでしょう。いずれ夫婦となるのですから、二人だけの時の呼び方は必要です。特に愛し合う時には」
「…そうね、じゃあ週に何回か同衾して二人の時間を作りましょうか」
「殿下、流石にそれは」
「テレンス様が理性的ならばいいだけだわ。ただ共寝をするだけですもの」
「分かりました。妻になる女性を尊重するのも婚約者の務めです。けれど、共寝だけをする前に少し話す時間も下さい」
テレンスはマリア・アマーリエが本気で同衾などと言ってはいないことを百も承知で同意を示した。しかし考えようによっては寝室こそ王族であるマリア・アマーリエとテレンスが二人きりになれる唯一の場所なのかもしれない。
「あなたのそういうところ…」
「気に入って下さい。その前に呼び方を決めましょう」
考えるより一つ一つ近付く努力をするしかない。それが想像力で物語の先を描き切れなかったテレンスが取るべき方法に思えたのだった。
成長と共にテレンスは物語を卒業した。乳母に読んでもらっていた物語の本から、歴史や外国語、更には政治学と自ら文字を追い、現実的且つ具体的なその先の内容を考えるようになった。もうそこには空想の世界はない。現実と向き合うだけだった。
そう、現実。
では、今のこの現状は何なのだろうか。夢物語を追うような幼い女の子達が喜びそうなこの現状は。主人公の性別は反対だとしても、一国のお姫様のお婿さんになるというテレンスは。
国を出たのは確かにマリア・アマーリエに選ばれる為だった。自国を出て、二つの国を越え、交流の無い国へやって来たテレンス。大袈裟に言うなら、ここまでは見聞録。そして数人の候補者の中から婚約者に選ばれた過程は、少しの甘さもないが恐らくロマンス小説。女性が好んで読むその手の小説をあまり読んだことがないテレンスとしては、もしかしたら過大解釈ではと引っ掛かる部分もあるが。
王宮での挨拶や、王の妃達とのお茶会。これは物語には書かれていないが、現実ならばめでたしめでたしの後に必ずあるものだろう。では、更にその先の現実には何があるのか。
この国にやって来るまでの目標は、達成すると同時に新たな出発となった。テレンスはふと子供の頃にもっと物語の先を想像しておくべきだったと感じずにはいられなかった。マリア・アマーリエとの関係を表す表現が変わっても、どうやってこれからを切り開いていくのか想像が付かないのだ。
アルフレッドとスカーレットはそもそも子供の頃から付き合いがあり、ある日を境に婚約者となった。そこから二人は成長と共に関係を構築したが、成長してから面識がなかったマリア・アマーリエの婚約者になったテレンスはどうすべきなのか。
二人のように同じ国、同じ言語で育ったわけではないマリア・アマーリエとテレンス。どうしたら夫婦になれるのか考えなければならない。そしてその関係は貴族学院に入る前までのアルフレッドとスカーレットのようでありたいとテレンスは思った。
貴族学院に入るまで、アルフレッドは王族であるからとスカーレットに命令や無理を言うことはなかった。勉強の時には互いに意見を言い合い、どうしてそう考えるのか深い部分を共有しようとしていた程だ。
しかしそうなりたいからと、テレンスからマリア・アマーリエへ言うのは何かが違う。あくまでもテレンスはスカーレットと同じ立場なのだから。
「殿下、二人で過ごす時間をもう少し取るようにしませんか」
「晩餐と週に四日の午前中のお茶では足りないかしら。テレンス様もこの国の習慣や離宮運営の勉強があるでしょう?」
「晩餐の席は二人だけの時間とは言い難いですから。それと、二人の時は心の距離が近くなる呼び方をしたいのですが」
「心の距離?」
「愛称で呼び合うのはどうでしょう。いずれ夫婦となるのですから、二人だけの時の呼び方は必要です。特に愛し合う時には」
「…そうね、じゃあ週に何回か同衾して二人の時間を作りましょうか」
「殿下、流石にそれは」
「テレンス様が理性的ならばいいだけだわ。ただ共寝をするだけですもの」
「分かりました。妻になる女性を尊重するのも婚約者の務めです。けれど、共寝だけをする前に少し話す時間も下さい」
テレンスはマリア・アマーリエが本気で同衾などと言ってはいないことを百も承知で同意を示した。しかし考えようによっては寝室こそ王族であるマリア・アマーリエとテレンスが二人きりになれる唯一の場所なのかもしれない。
「あなたのそういうところ…」
「気に入って下さい。その前に呼び方を決めましょう」
考えるより一つ一つ近付く努力をするしかない。それが想像力で物語の先を描き切れなかったテレンスが取るべき方法に思えたのだった。
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