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デズモンドの生い立ち、ルパートの行い、そしてキャリントン侯爵が何を予想しているか。更に、デズモンドがファルコールにやって来ることで何をして、何を得ようとしていたかを聞いた薫は暫し黙ることしか出来なかった。
誰か一人が悪いのではなく、様々な要因が複雑に絡まりあっている。一人の悪者をみんなで退治して、それでハッピーエンドという簡単なものではない。

デズモンドの母親が誰にも相談出来なかった事情も理解出来る。誰かに告げることで自分がどういう立場に追いやられるのか怖かったのだろう。この世界のこの国では女性の立場は弱い。もしも、彼女が誘ったからそうなったと言われてしまえば、先は真っ暗だ。
キャリントン侯爵とて一門の規律を誰も彼もが乱さないよう、示しをつけなければならなかった。その方法が良いか悪いかは別として。そして、たまたまとは言え、とても良い手駒を手に入れてしまったのだ。
それにルパートだって、男として責任を取っただけ。ただ、生まれた時から絡みついていた多種多様な蔦を雑に切り落としてしまったのがいけなかったのだ。

「裏の裏をかきましょう」
「即ちそれは表だね」
「ええ。ダニエルに接触して先手を打ちましょう。侯爵の予想通りの会話をしたことにするの。そして、わたしはここにはデズがいるから別の場所へは行きたくないと言ったことにすればいいわ。そうすればあなたは仕事をしていることになるのよね、スカーレットを虜にするという」
「残念ながらそうだね」
「残念?」
「仕事でそうしていると思われるのは嫌だ。でも、仕事でなくてもそうは出来ていないけど」
「あら、そんなことはないわ。わたしはあなたの虜よ。デズは楽しいし、色々なことを知っているから勉強になるもの」

デズモンドの話が逸れたのなら、戻さなくてはいけないとケビンは思っていた。ところが、大きく逸れる前に無邪気な言葉がそれを許さなかったようだ。気付かずにそうしてしまうところが罪深いと、ケビンは楽しそうに話すキャロルを見たのだった。

「でも、問題はダニエルよね。協力してくれるかは未知数だわ。殿下から何らかの命は受けているだろうし。そもそも殿下はダニエルを使って何をしたいのかしら。よくよく考えると、捨てた女に今更何の用かしら」
「目覚めが悪いのだろうね。考えてみれば、悪いのは殿下なんだ」
「不敬よ、デズ」
「ここにいる人間で、俺の意見に反対して王宮に垂れ込むやつはいないよ。こうして君と知り合いになったから言うんじゃない、それに俺が言うのもなんだけど、殿下は不誠実だった」
「ふふ、ありがとう、デズ」

重い話をしたにもかかわらず、デズモンドにはまだお道化る余裕がある。それに比べ夢の中のデズモンドはどうしてあそこまで昏い表情を浮かべていたのか、もう起こり得ない未来だとしても薫は気になってしまった。夢の未来と異なり、人の本質は備わっているもの。デズモンドの過去を聞く限り、あの『昏さ』は早い段階で心を巣食いだしていただろうから。


**************************
デズモンド掘り下げ回はこの辺で。次回はどうしようかと…。

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