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王宮では32
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レモンシトリン、ペリドット。それが何を意味するのか分かるのは、この世に二人、アルフレッドとスカーレットなのだろうとジョイスは理解した。
過去は変えられない。何度もジョイスはこの言葉を繰り返し、後悔してきた。そして今は過去のアルフレッドに対し嫉妬している。当然のようにスカーレットと共に時を過ごし様々な思い出や感情を共にしてきた過去のアルフレッドに。
けれどこれから口にする言葉は嫉妬からではない。言わなくてはならないことがあるとジョイスは思ったのだった。
「アル、友人として口を挟ませてくれ。キャストール侯爵令嬢へは、特注品だと伝えない方がいいと思う。彼女がその意味を深く考え負担に思ってしまえば、受け取らない可能性もある」
「大丈夫、この包みを見ればスカーレットはこれが何か分かるだろうから。そしてこの宝飾店のこのシリーズに使われている本来のレモンシトリンがどういうものかも。言っておくが、スカーレットが困るような高価な宝石ではない。加工の段階で出てしまう小さな欠片だ。そのレモンシトリンをペリドットに替えただけだ」
何故替える必要があったのか、その理由がジョイスは気になった。きっとそれが二人にとって意味あることなのだろうから。
「殿下、これは姉がコレクションしているシリーズですか?」
「ああ、そうだ。スカーレットが好きな夜空の星シリーズだ。星には様々な色の輝きがある。黄緑があってもおかしくないだろう。けれど、この色をスカーレットが気に入ったとしても特注品だから手に入らないと伝えたかった。だから、ダニエル、ペリドットで作られた特注品だと言って欲しい。どんなに探しても見つけられない、否、手に入れられないものだから」
「承知いたしました」
特注品なのだから、これ以外は手に入れられない。アルフレッドの言っていることは当然のことだ。しかし、ジョイスには言葉の通りには聞こえなかった。ペリドットが意味することはなんだろうか。アルフレッドの側近としてあれだけ二人の傍に居たというのに、態と心を閉じようとしていたジョイスにはペリドットに関する話の記憶などない。何度目だろう、また後悔をしなければならないとジョイスは思った。手掛かりがない、けれど知りたいと。
ペリドットが何なのかジョイスがアルフレッドに尋ねようとした時だった、執務室にダニエルの護衛を務める近衛騎士達がやって来たことを侍従が告げたのは。
「ちょうど良いタイミングだ。ダニエル、それはしまってくれ。今晩はささやかながら、おまえの護衛を務める者と同行する事務官との交流食事会を設けている。その前に一度顔合わせをしておくといい」
アルフレッドは良いタイミングだと言ったが、ジョイスにとっては機を失したにすぎなかった。否、これで良かったのだ。アルフレッドが何故ペリドットに拘ったのか、それがスカーレットを傷付けることに繋がりはしないのか、今ここにいる側近のジョイスには尋ねる理由がないのだから。
過去は変えられない。何度もジョイスはこの言葉を繰り返し、後悔してきた。そして今は過去のアルフレッドに対し嫉妬している。当然のようにスカーレットと共に時を過ごし様々な思い出や感情を共にしてきた過去のアルフレッドに。
けれどこれから口にする言葉は嫉妬からではない。言わなくてはならないことがあるとジョイスは思ったのだった。
「アル、友人として口を挟ませてくれ。キャストール侯爵令嬢へは、特注品だと伝えない方がいいと思う。彼女がその意味を深く考え負担に思ってしまえば、受け取らない可能性もある」
「大丈夫、この包みを見ればスカーレットはこれが何か分かるだろうから。そしてこの宝飾店のこのシリーズに使われている本来のレモンシトリンがどういうものかも。言っておくが、スカーレットが困るような高価な宝石ではない。加工の段階で出てしまう小さな欠片だ。そのレモンシトリンをペリドットに替えただけだ」
何故替える必要があったのか、その理由がジョイスは気になった。きっとそれが二人にとって意味あることなのだろうから。
「殿下、これは姉がコレクションしているシリーズですか?」
「ああ、そうだ。スカーレットが好きな夜空の星シリーズだ。星には様々な色の輝きがある。黄緑があってもおかしくないだろう。けれど、この色をスカーレットが気に入ったとしても特注品だから手に入らないと伝えたかった。だから、ダニエル、ペリドットで作られた特注品だと言って欲しい。どんなに探しても見つけられない、否、手に入れられないものだから」
「承知いたしました」
特注品なのだから、これ以外は手に入れられない。アルフレッドの言っていることは当然のことだ。しかし、ジョイスには言葉の通りには聞こえなかった。ペリドットが意味することはなんだろうか。アルフレッドの側近としてあれだけ二人の傍に居たというのに、態と心を閉じようとしていたジョイスにはペリドットに関する話の記憶などない。何度目だろう、また後悔をしなければならないとジョイスは思った。手掛かりがない、けれど知りたいと。
ペリドットが何なのかジョイスがアルフレッドに尋ねようとした時だった、執務室にダニエルの護衛を務める近衛騎士達がやって来たことを侍従が告げたのは。
「ちょうど良いタイミングだ。ダニエル、それはしまってくれ。今晩はささやかながら、おまえの護衛を務める者と同行する事務官との交流食事会を設けている。その前に一度顔合わせをしておくといい」
アルフレッドは良いタイミングだと言ったが、ジョイスにとっては機を失したにすぎなかった。否、これで良かったのだ。アルフレッドが何故ペリドットに拘ったのか、それがスカーレットを傷付けることに繋がりはしないのか、今ここにいる側近のジョイスには尋ねる理由がないのだから。
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