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とある国の離宮1

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この離宮に到着して二日目、テレンスは然程言葉には困らないと実感していた。アルフレッドの側近という立場上、いくつかの言葉を操るのは絶対条件。この国独特の言い回しがあるにはあるが、通過してきたばかりの隣国とほぼ同じ言葉というのは有り難いと思った。言語の事前情報は知らされてはいたが、出発前に不安が無かったと言えば嘘になる。
しかし、戸惑うこともある。違う国には違うしきたりがあるものだ。こればかりはその都度、驚きを隠しながら受け入れていくしかない。

他国の王家の血が入っているうえに、文化や言葉が同じ、しかも美しくて賢いスカーレットというのは、最上級の政略結婚相手だったのだとテレンスは今更ながら思わずにはいられなかった。
そして、末姫、マリア・アマーリエにとってテレンスという存在は何だろうかと考えてみる。
言葉や文化が違うこと以前に、いきなりやって来た男だ。実は子供の頃に一度あったことがあるなんてことも無ければ、国は違うが共通の友人がいることも無い。

国を立つまでは、与えられた役割を果たさなくてならないと意気込んでいたテレンス。けれど、それはテレンスの一方的な事情と感情。好感を抱いてもらうことは出来るかもしれないが、その先の婚約者に辿り着くにはどうすればいいのだろうか。
マリア・アマーリエはテレンスの婚約者ではなく、テレンスがマリア・アマーリエの婚約者候補の一人に過ぎないのだ。

「テレンス様、お食事の支度が整いました」
「ありがとうございます」

到着した日には、既にテレンス以外のマリア・アマーリエへの求婚者が二人到着していた。離宮で付けられた世話係の話によると、テレンスが最後の到着で今回の求婚者達は三人とのこと。教えてもらった情報によると、その中の一人は国内の伯爵家次男。父親である国王はマリア・アマーリエの相手に高い爵位を望んではいないということだ。

アルフレッドはマリア・アマーリエの母、第三側妃があまり良い死に方ではなかったと予想した。それは正しいと裏付けるのが国内の伯爵家次男が候補の一人ということ。国王はマリア・アマーリエが国内高位貴族の夫により力を持つことを避けたいのだろう。力はマリア・アマーリエを危険に晒す。だからこそ、近隣国よりはテレンスのように離れた国から夫を得ようと考えたのかもしれない。

そして世話係が何気なく言った『今回の』求婚者という言葉。それは、最低でも前回があったことを意味する。マリア・アマーリエがその中から相手を選ばなかった理由は何だろうか。マリア・アマーリエではないテレンスにはそれを知る由もない。出来ることと言えば、相手を知り理解する努力くらい。幼い頃のスカーレットがしていたように。
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