上 下
210 / 506

ファルコール手前の町3

しおりを挟む
オランデール伯爵邸を出発して数日、サブリナの目の下のクマは随分改善した。斜度はファルコールへ向かえば向かう程きつくなる。その分、立派な馬車とはいえほとんどを伯爵邸で過ごして来たサブリナの体力を程よく奪ったようで、どの宿でも早めの就寝となったのが良かったのだろう。

ツェルカが初日の夜に予想したように、クマの改善はサブリナの睡眠時間が足りないことが原因の一つだったようだ。でも、それではあまりにも大雑把。サブリナが必要としている睡眠時間が長過ぎるのに対して短いのか、そもそも伯爵家で与えられていた睡眠時間が短いのかは分からない。

どうやって掴んできたのかは知らないがキャストール侯爵からの情報で、伯爵家が侍女を一人付けようとしたところをみると後者の可能性の方が高そうだが。あの化粧も、サブリナには顔を華やかに見せる為のものだと言い聞かせていたようだが、実際には顔色を誤魔化すものだ。

サブリナが『顔を華やかに』という言葉を何度も繰り返すものだから、ツェルカはその必要はないとその度に伝えた。そうこうしているうちに分かったのは、サブリナの言う華やかな顔とは、伯爵家に相応しいという意味だった。子爵家出身のサブリナには分からないだろうからと、侍女達が伯爵家に馴染むよう行ってくれていたそうだ。あれを。

ツェルカには『なんだそれ』だったが、当のサブリナにしてみれば伯爵家で過ごす為に受け入れるべき大切なことだったのだろう。

とまあ、数日でクマとあの化粧の原因は分かった。しかし分からないのは、その原因に辿り着く理由。睡眠不足も華やかな顔であることも、その根底にどんな理由があるのか。

サブリナは貴族学院在学中に伯爵家のジャスティンに見初められた。それならばジャスティンはあの頃のサブリナを好ましく思ったはずだ。態々伯爵家仕様の化粧にする必要はないように思える。
そして、睡眠不足。これはツェルカにも理由を尋ね辛い。サブリナは結婚してから六年、未だ懐妊していない。そのことを悩んで伯爵家で睡眠不足になっているのか、その元をどうにかする為にジャスティンと夫婦として夜な夜な協力し合っているのか。

明日にはファルコールに到着する。今はただ全てを忘れて、今日も早めに就寝してもらいたいと思いながらツェルカはサブリナの美しい髪を梳き続けた。

ところが、あと少しで梳き終わる、というところでサブリナが鏡に映る自分に向かってぶつぶつ何か言い始めた。その声は次第にツェルカにも聞き取れるものに変わっていったのだった。


**************************
タイトルセンスがないのもので…、このタイトルを使い回しさせていただきます…
ネーミングセンスもないので、AとBとか、本当にお見苦しいかと…
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

婚約者のいる側近と婚約させられた私は悪の聖女と呼ばれています。

鈴木べにこ
恋愛
 幼い頃から一緒に育ってきた婚約者の王子ギルフォードから婚約破棄を言い渡された聖女マリーベル。  突然の出来事に困惑するマリーベルをよそに、王子は自身の代わりに側近である宰相の息子ロイドとマリーベルを王命で強制的に婚約させたと言い出したのであった。  ロイドに愛する婚約者がいるの事を知っていたマリーベルはギルフォードに王命を取り下げるように訴えるが聞いてもらえず・・・。 カクヨム、小説家になろうでも連載中。 ※最初の数話はイジメ表現のようなキツイ描写が出てくるので注意。 初投稿です。 勢いで書いてるので誤字脱字や変な表現が多いし、余裕で気付かないの時があるのでお気軽に教えてくださるとありがたいです٩( 'ω' )و 気分転換もかねて、他の作品と同時連載をしています。 【書庫の幽霊王妃は、貴方を愛することができない。】 という作品も同時に書いているので、この作品が気に入りましたら是非読んでみてください。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

後悔はなんだった?

木嶋うめ香
恋愛
目が覚めたら私は、妙な懐かしさを感じる部屋にいた。 「お嬢様、目を覚まされたのですねっ!」 怠い体を起こそうとしたのに力が上手く入らない。 何とか顔を動かそうとした瞬間、大きな声が部屋に響いた。 お嬢様? 私がそう呼ばれていたのは、遥か昔の筈。 結婚前、スフィール侯爵令嬢と呼ばれていた頃だ。 私はスフィール侯爵の長女として生まれ、亡くなった兄の代わりに婿をとりスフィール侯爵夫人となった。 その筈なのにどうしてあなたは私をお嬢様と呼ぶの? 疑問に感じながら、声の主を見ればそれは記憶よりもだいぶ若い侍女だった。 主人公三歳から始まりますので、恋愛話になるまで少し時間があります。

私がいなくなっても構わないと言ったのは、あなたの方ですよ?

新野乃花(大舟)
恋愛
ミーナとレイノーは婚約関係にあった。しかし、ミーナよりも他の女性に目移りしてしまったレイノーは、ためらうこともなくミーナの事を婚約破棄の上で追放してしまう。お前などいてもいなくても構わないと別れの言葉を告げたレイノーであったものの、後に全く同じ言葉をミーナから返されることとなることを、彼は知らないままであった…。

勝手に勘違いして、婚約破棄したあなたが悪い

猿喰 森繁
恋愛
「アリシア。婚約破棄をしてほしい」 「婚約破棄…ですか」 「君と僕とでは、やはり身分が違いすぎるんだ」 「やっぱり上流階級の人間は、上流階級同士でくっつくべきだと思うの。あなたもそう思わない?」 「はぁ…」 なんと返したら良いのか。 私の家は、一代貴族と言われている。いわゆる平民からの成り上がりである。 そんなわけで、没落貴族の息子と政略結婚ならぬ政略婚約をしていたが、その相手から婚約破棄をされてしまった。 理由は、私の家が事業に失敗して、莫大な借金を抱えてしまったからというものだった。 もちろん、そんなのは誰かが飛ばした噂でしかない。 それを律儀に信じてしまったというわけだ。 金の切れ目が縁の切れ目って、本当なのね。

婚約解消は君の方から

みなせ
恋愛
私、リオンは“真実の愛”を見つけてしまった。 しかし、私には産まれた時からの婚約者・ミアがいる。 私が愛するカレンに嫌がらせをするミアに、 嫌がらせをやめるよう呼び出したのに…… どうしてこうなったんだろう? 2020.2.17より、カレンの話を始めました。 小説家になろうさんにも掲載しています。

嘘を囁いた唇にキスをした。それが最後の会話だった。

わたあめ
恋愛
ジェレマイア公爵家のヒルトンとアールマイト伯爵家のキャメルはお互い17の頃に婚約を誓た。しかし、それは3年後にヒルトンの威勢の良い声と共に破棄されることとなる。 「お前が私のお父様を殺したんだろう!」 身に覚えがない罪に問われ、キャメルは何が何だか分からぬまま、隣国のエセルター領へと亡命することとなった。しかし、そこは異様な国で...? ※拙文です。ご容赦ください。 ※この物語はフィクションです。 ※作者のご都合主義アリ ※三章からは恋愛色強めで書いていきます。

処理中です...