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前リッジウェイ子爵夫妻が王都へ向かってから一週間と少しした頃、前回同様キャストール侯爵から報告書が届いた。前レヴァリアルド伯爵夫妻滞在の時よりも若干遅めの報告書到着に、薫は何かその場では言い辛かった問題、もしくはハーヴァンかリプセット公爵家で何かあったのではないかと中身を見るまでハラハラしてしまった。

しかし内容は喜ぶものばかり。ハーヴァンは無事リプセット公爵家へ戻れたし、前リッジウェイ子爵夫妻は滞在をとても楽しんだようだ。そしてどうしてかは分からないが『スカーレットの尽力のお陰で、リプセット公爵とも以前のようにとまでは言えないが関係が改善した』と書いてある。

これは薫のあくまでも個人的意見だが、いい歳のオジサン達の仲が拗れると修復は難しい上に時間が掛かる。場合によっては、そのまま距離が開き続ける方が多い気もする。特に立場がある人同士は、距離が開く一方に振り切れるように思うのだ。リプセット公爵とキャストール侯爵、この二人は薫の理論でいくと正しくお互いの高い身分が故に関係が悪くなったら距離が開く一方だったはず。『スカーレットの尽力』と書かれている理由は分からないが、国の中で力を持つ家門の当主同士が良い関係でいるのは望ましい。何だか良く分からないけれど、これも本物のスカーレットが望む国の為になるような気がして薫は嬉しくなったのだった。

そして報告者が届くのが遅くなった原因は、書面の後半部分に記載されていることが理由だった。予定していた時期よりはだいぶ早まるが、サブリナがファルコールにやって来ると書いてあったのだ。侯爵家の馬車に、子爵家へ古くから仕える使用人と、サブリナにとって移動しやすい準備を整えた上でファルコールへ送り出すと侯爵は伝えてきた。

そしてそこにもまた薫にはどうしてかさっぱり分からない『前リッジウェイ子爵夫人も感心していたが、スカーレットの手紙の書き方によるところが大きい』という文言がある。敢えて手紙に封蝋をしないで送る理由は夫人に話したが、内容までは伝えていなかったはず。薫は不思議に思いながらも、手紙はあれで正解だったのかと一先ず納得したのだった。

サブリナへ宛てた手紙。正直に言うと薫は手を抜きまくった。どうせ開かれると予想した手紙だ、色々書いたところでオランデール伯爵家の使用人達に読まれ中身を要約されて伝えられるのは目に見えている。いくらクリスタルが言った暴言を書いても無駄になるだけだ。それにスカーレットの記憶にあるクリスタルの暴言は思い出すのも腹立たしいことだらけ。何を言っていたのか相手に伝える為に文字にするのも嫌なくらい。だから、『クリスタルの生家だからこれ以上書くのは難しい』、と書くに留めたのだ。サブリナへの手紙だとしても、中身にクリスタルの名前が出てくれば報告くらいはされるだろうと踏んで。書かれていた内容を聞き、クリスタルが自分の胸に手をあて何故スカーレットが書くのは難しいのか考えればいいだろうと。

実は、薫はうっかりを仕出かしていた。手紙を書いた時にあまりの腹立たしさに、『これ以上書くのは』という文言を入れ忘れていたのだ。しかも、それ以降に続けようとしていた文章まで。まさかそれが結果的にオランデール伯爵、ジャスティン、執事を悩ます結果になったとは書いた本人は一生知ることはないだろうが。
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