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王都オランデール伯爵家8

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待つこと数分、執事が再びサロンの扉をノックした。先程の言葉通り伯爵を連れてきたということだ。
夫人は一旦立ち上がり、伯爵への挨拶のタイミングを待った。同時に立ち上がったサブリナを見遣ると、表情に大きな変化はない。夫人にとってサブリナは大切な娘、どんな小さな変化でも見逃さない自信はある。だから、『何か』の正体に伯爵は大きく関わっていないのだろうと夫人は考えたのだった。

挨拶も終わり、再び腰掛けてもサブリナの表情に変化はない。これはこれでいいものかと疑問を抱きつつも、夫人は伯爵へ美味しそうにの餌を撒くことにした。人がよさそうな表情を浮かべながら。

「そうでしたか、キャストール侯爵令嬢がサブリナを話し相手としてファルコールへ招待したいとおっしゃったのですね」
「ええ。でも、嫁に出した娘だから、それは難しいだろうと既にお伝えしてあります。それでも、サブリナに聞くだけ聞いてみてくれないかとキャストール侯爵令嬢が…。伯爵、無理を承知でお願いします、社交シーズンが終わりましたら一週間程サブリナをファルコールへ向かわせることはできませんでしょうか」

夫人はパーラーメイドが報告していることなど百も承知で、訪問理由を再度伯爵に話した。そして、スカーレットからの強い申し出に、無理だと理解していながらもオランデール伯爵家へやって来たのだと今度は申し訳なさそうな顔を作りながら伯爵へ伝えたのだった。

既に無理だと理解しているスカーレット。社交シーズンが終わってからの一週間。伯爵はこの餌にどう食い付くだろうかと夫人は思った。

無理が可能になればスカーレットは喜ぶ。
期間も少しだけ長くなればやはりスカーレットが喜ぶ。
その喜びを嬉しく思うのは、キャストール侯爵。

先日のリプセット公爵からの情報では、オランデール伯爵は娘がスカーレットへ行った無礼に対し謝罪の手紙と詫びの品をキャストール侯爵邸へ届けたとのこと。しかし、それはオランデール伯爵家だけではない。貴族学院でスカーレットを貶めた者の家は同じことを行っているのだ。

けれど、サブリナは違う。キャストール侯爵邸へ届けられるのではなく、療養中のスカーレットのすぐ傍へ向かうのだ。オランデール伯爵はサブリナを使うことで、キャストール侯爵へ最高の謝罪をすることが出来る。それにより、謝罪を受け入れてもらえる可能性も。

「夫人、実は娘のクリスタルがキャストール侯爵令嬢に無礼を働いてしまったのだ。親として謝罪の手紙と詫びの品を贈ったのだが、許してはもらえていない。その為、こちらからはこれ以上何かをすることが出来ない状態だ。そこで、キャストール侯爵家とオランデール伯爵家の間に入ってもらえないだろうか。社交シーズンの終わりと言わず、直ぐにでもサブリナをファルコールへ話し相手として送り出すことは可能だ。期間も一週間などというケチなことをわたしは言わんよ」

夫人は伯爵へお願いをした。対して伯爵が夫人に行ったのはあくまでも依頼。しかも爵位が上の伯爵からの依頼は命令に等しい。
けれど、夫人は伯爵の言葉に承りましたではなく、『ご配慮、ありがとうございます』と返した。少しでも伯爵には気分良くいてもらった方が、今後も何かと便利だろうと夫人は思ったのだった。
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