オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではございますが~

五十嵐

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キャリントン侯爵家11

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今年も宜しくお願い致します。まさかのインフルエンザに罹っていまして、言い訳ですが、年末と年始の分は誤字脱字が多いかと…
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時候の挨拶、突然の手紙への謝罪などの常識的なものを全てとばし、テレンスは花と鳥の絵を描いた。否、とばしたとは言い難い。とばした先にあるのは文字ではなく絵なのだから。

そして絵の下に『あなたはどんな花が好きですか?』と文字を付け足した。

王宮でアルフレッドは出来るアドバイスは少ないと断った上で、スカーレットは花一輪、菓子一つでも喜んだと言ったがそれは違う。一輪の花も一つの菓子もアルフレッドがスカーレットの好きなものだと知っていて選んだからその結果に結び付いたことだ。

スカーレットの立場ではアルフレッドからの贈り物はどんな小さなものでも確かに嬉しかっただろう。でも、それはただの贈り物ではない。スカーレットが自分を知ってもらう為に話した内容をアルフレッドが覚えていてくれたことが嬉しかったのだ。
スカーレットは自分のことを話しながら、アルフレッドの好みを聞き出し良好な関係を築こうとしていたのだから。

同じく政略結婚をし、良い関係を築いていた両親を間近で見ていたスカーレットは知らず知らずのうちに様々な遣り取りを感覚的に身に付けたのだろう。
相手が自分の話を覚えていてくれて、それを贈り物のヒントにしてくれたら嬉しいということを。

アルフレッドの口振りでは、スカーレットの努力にそこまで気付いていない。それでも、アルフレッドはスカーレットに何かを贈る時に頭にちらついていたことだろう。
スカーレットの贈り物に至っては、それが顕著に表れていた。その時のアルフレッドに必要なものではなく、欲しいものが贈られていたとテレンスは記憶している。時には王子に似つかわしくないものが贈られたこともあった。しかし、侍従達も婚約者のスカーレットからではアルフレッドの私室へ運ばざるを得ない。スカーレットは立場を上手く利用して、アルフレッドを喜ばせていたのだ。

花の次に、テレンスはウサギやネコなど可愛いと思われる動物を独特のタッチで描いた。
『わたしはこのように生あるものの絵を描くことが好きです。もし、よろしければ、あなたが好きな花や生き物を隣でスケッチさせていただきたい』

国家間で行われることだ、一度は目通り出来るだろう。しかし二度目があるかは分からない。少しでもマリア・アマーリエの記憶に残るようにするには変わり種の手紙を送る必要がある。それでいて、テレンスを知ってもらう切っ掛け作りになるような。

過去のスカーレットがテレンスの頭の中に蘇る。アルフレッドのことを知る度に喜んでいた姿が。
『どうしてアルのことを知る度にスカーレットは嬉しそうなの?』
『ふふ、これはわたしとアルフ様との秘密なの。お母様がね、夫婦で仲良く暮らす為には沢山幸せな秘密を作ると良いって教えてくれたわ』

幸せな秘密…。二人には沢山あった筈だ。その為に努力を続けたスカーレットを見てきたというのに、どうしてテレンスは貴族学院であんな態度を取ってしまったのか。

ジョイスが卒業したことで、アルフレッドを傍で支えられるのは自分しかいないと変な方向へ暴走してしまうとは。今なら嫌という程分かる、テレンスが本来すべきだったことは何か。

テレンスは自らを奮い立たせた。これはキャリントン侯爵家の為ではない、大切な政略結婚をぶち壊した、そして大切な幼馴染の心を踏みにじったテレンスが成し遂げなくてはならないことなのだ。
その上で、政略結婚で結ばれたとしてもこんなにも幸せを掴めると証明する良い機会なのだろう。嘗てのキャストール侯爵夫妻のように。
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恋愛にたどり着くまでが長くて…。それなりに登場人物がいますので、『誰なの?相手は』と思いながら読んでいただければ幸いです。

それと、エール、ありがとうございます。励ませていただきます!

ついでに、アルファポリスさんの『しおり』という制度は上手く出来ていますね。わたしが見る画面では、しおりが挟んであるのが見えるんです!新しい話を投稿して、しおりがそこへ進んでくれていると次へのモチベーションになります!しおりを挟んで下さって、ありがとうございます。
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