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ファルコールの館に戻ってきた薫達は情報のすり合わせと今後の方針という会議を取り行った。と言っても、四角四面な会議ではなく、お茶とお菓子付きの話し合いだ。
「じゃあ、あのリアムという方はデズモンドの昔からの友人なのね。ケビンの目にはリアムさんはどう映った?」
「言葉通り、友人であり従者なのでしょう。見えた手からすると、剣を握るタイプではないでしょう。それで交渉の結果は?」
「わたしは上手く行ったと思う。だからこれから皆に面倒を掛けるのだけれど…、ご免なさいね」
薫はデズモンドとどのような口約束を結んだか全てをケビン達に話した。キャストール侯爵への連絡や、デズモンドとリアムが宿舎に住むにあたって必要な物を揃えてもらう為にも。
都合が良いことに、ホテルには前リッジウェイ子爵夫妻が滞在中。そこで、デズモンド達には彼らがチェックアウトした翌日に来てもらうよう了解を得ている。変な理由をつけて先延ばしすれば、折角成立した取引がおかしなことになりかねない。だからといって、直ぐにやって来られても困るところだったので、本当に前リッジウェイ子爵夫妻の滞在は助かった。
「それでね、ハーヴァン。あなたにお願いがあるの。デズモンドとリアムさんを明後日の昼食に招いたわ。でも、その前に彼等に馬でこの館の裏手に何が広がっているか少しだけ見せてあげて。脚のしっかりした馬がいれば、わたしは簡単に山越えでケレット辺境伯領へ抜けられるってことをちらつかせ欲しいの」
「こんな取引をしなくても、いざとなったらキャロルは簡単にケレット辺境伯領へ向かうと示せばいいんだね」
「そう、今は示すだけで大丈夫。その内ドミニクがケレット辺境伯領で調教している素晴らしい馬をくれるし、わたしには二重国籍が与えられると思う。手段と安全な権利は後からやって来るわ。デズモンドは頭が良いだけじゃない、流れを読んで先を見ることに長けているはず。何も言わなくても、彼にとって最良の選択肢を選ぶでしょう」
「随分彼を買っているんだね」
「だって、キャリントン侯爵に重用されている人物なのよ。賢い人なんだと思う。でも、それは頭が良いだけの賢さじゃない。上手く立ち回れるということ。出過ぎた杭は打たれるから。あの誰もが見とれる顔さえ利用して、自分を作っているんじゃないかしら?だから、小娘のお守りにファルコールへ送り込まれてしまったわけだけど」
全てを話すスカーレットに、ハーヴァンはそういうことかと理解した。スカーレットは持ち駒を見せることで、抑止力を働かせようとしている。それはデズモンドに限ったことではない。同時にリプセット公爵家に仕えるハーヴァンにも見せているのだ。
日々様々なことがあるファルコールでの滞在。だからなのか、ハーヴァンは随分ここにいる錯覚を起こすが、実際にはまだ一週間も過ぎていない。でも、分かる、スカーレットはアルフレッドの妃になるべき人物だった、国の為に。
どうしてこんな間違いが起きてしまったのか理解に苦しむ。たった数日、こうして過ごすだけでもハーヴァンはスカーレットに魅入られてしまった。次は何をするのか、目が離せない。その権利を手放したアルフレッドは、気付けば様々なものを失うことになっている。いずれ、ハーヴァンの主であるジョイスもアルフレッドは失わなければならない。
そして、ハーヴァンはファルコールを去る日のジョイスの表情を思い出した。あまり変化しない表情だが、ハーヴァンにはジョイスがスカーレットに惹かれている、もっと言ってしまえば恋をしていると分かったのだ。
デズモンド・マーカムのように恋多き大人の男には確かにスカーレットは小娘かもしれない。けれど、十歳年下の小娘だろうと恋に落ちる時は簡単に落ちるものだ。こんなにも魅力を振り撒いているのだから。
ハーヴァンが願おうと、スカーレットは明後日の昼食会でも魅力を控えることはないだろう。
「じゃあ、あのリアムという方はデズモンドの昔からの友人なのね。ケビンの目にはリアムさんはどう映った?」
「言葉通り、友人であり従者なのでしょう。見えた手からすると、剣を握るタイプではないでしょう。それで交渉の結果は?」
「わたしは上手く行ったと思う。だからこれから皆に面倒を掛けるのだけれど…、ご免なさいね」
薫はデズモンドとどのような口約束を結んだか全てをケビン達に話した。キャストール侯爵への連絡や、デズモンドとリアムが宿舎に住むにあたって必要な物を揃えてもらう為にも。
都合が良いことに、ホテルには前リッジウェイ子爵夫妻が滞在中。そこで、デズモンド達には彼らがチェックアウトした翌日に来てもらうよう了解を得ている。変な理由をつけて先延ばしすれば、折角成立した取引がおかしなことになりかねない。だからといって、直ぐにやって来られても困るところだったので、本当に前リッジウェイ子爵夫妻の滞在は助かった。
「それでね、ハーヴァン。あなたにお願いがあるの。デズモンドとリアムさんを明後日の昼食に招いたわ。でも、その前に彼等に馬でこの館の裏手に何が広がっているか少しだけ見せてあげて。脚のしっかりした馬がいれば、わたしは簡単に山越えでケレット辺境伯領へ抜けられるってことをちらつかせ欲しいの」
「こんな取引をしなくても、いざとなったらキャロルは簡単にケレット辺境伯領へ向かうと示せばいいんだね」
「そう、今は示すだけで大丈夫。その内ドミニクがケレット辺境伯領で調教している素晴らしい馬をくれるし、わたしには二重国籍が与えられると思う。手段と安全な権利は後からやって来るわ。デズモンドは頭が良いだけじゃない、流れを読んで先を見ることに長けているはず。何も言わなくても、彼にとって最良の選択肢を選ぶでしょう」
「随分彼を買っているんだね」
「だって、キャリントン侯爵に重用されている人物なのよ。賢い人なんだと思う。でも、それは頭が良いだけの賢さじゃない。上手く立ち回れるということ。出過ぎた杭は打たれるから。あの誰もが見とれる顔さえ利用して、自分を作っているんじゃないかしら?だから、小娘のお守りにファルコールへ送り込まれてしまったわけだけど」
全てを話すスカーレットに、ハーヴァンはそういうことかと理解した。スカーレットは持ち駒を見せることで、抑止力を働かせようとしている。それはデズモンドに限ったことではない。同時にリプセット公爵家に仕えるハーヴァンにも見せているのだ。
日々様々なことがあるファルコールでの滞在。だからなのか、ハーヴァンは随分ここにいる錯覚を起こすが、実際にはまだ一週間も過ぎていない。でも、分かる、スカーレットはアルフレッドの妃になるべき人物だった、国の為に。
どうしてこんな間違いが起きてしまったのか理解に苦しむ。たった数日、こうして過ごすだけでもハーヴァンはスカーレットに魅入られてしまった。次は何をするのか、目が離せない。その権利を手放したアルフレッドは、気付けば様々なものを失うことになっている。いずれ、ハーヴァンの主であるジョイスもアルフレッドは失わなければならない。
そして、ハーヴァンはファルコールを去る日のジョイスの表情を思い出した。あまり変化しない表情だが、ハーヴァンにはジョイスがスカーレットに惹かれている、もっと言ってしまえば恋をしていると分かったのだ。
デズモンド・マーカムのように恋多き大人の男には確かにスカーレットは小娘かもしれない。けれど、十歳年下の小娘だろうと恋に落ちる時は簡単に落ちるものだ。こんなにも魅力を振り撒いているのだから。
ハーヴァンが願おうと、スカーレットは明後日の昼食会でも魅力を控えることはないだろう。
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