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第1話 「赤いラブレター」
プロローグ
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誰もいない夕暮れの神社で僕は一人の少女と出会った
見慣れない白いドレス、華奢な身体、瑠璃色がかった濡れ烏の長い髪、神様の贔屓としか思えない妖しい美貌、少女は夜の帳を見上げて一人きりで涙を流していた
黄昏の仄闇の底で淡い輝きに包まれているかの様なその少女の姿に、僕は何時の間にか六感の全てを囚われてしまっていた
「どうしたの?」
僕は自分でも気付かない内に声を少女に掛けていた、
少女は一瞬身を竦ませて、やがて毅然たる表情で姿勢を正す
「見ていたの?」
「ごめん、誰かに苛められたの?」
少女は一瞬戸惑いとも恥じらいともつかぬ表情で視線を逸らして、それから自分自身に言い聞かせる為であるかの様にはっきりと言葉を口にする
「私はもう人では無くなってしまったの、だからもうお友達とも遊べないし、一生誰かに好きになってもらう事もできないの、」
「どうして?」
「そんな事を聞いてどうするつもり? 貴方には何も出来ないわ、」
「そうかな、僕が君を好きになる事くらいは出来ると思うよ、」
見知らぬ男の子の物知らぬ言葉に、少女はほんの少し頬を赤らめて、それでも直ぐに全てを諦めてしまったかの様な安らいだ表情で少女は微笑んで、
「有難う、でも私の正体を知れば貴方もきっと怖くなるわ、私には関わらない方が貴方の身の為よ、」
「もしかして、君は幽霊なの?」
「違うわ、でも似た様なモノかも知れない、それでも好きになれる?」
「うん、約束するよ、」
それからまるで何かに縋るかの様に少女は瞳を潤ませる
「じゃあ、約束の儀式を取り交わしましょう、」
「どうすれば良いの?指切り拳万?」
「似ているけれど少し違うわ、私のやる通りに同じ事をすれば良い、」
少女は翡翠色の小石を五つ拾い上げてそれを正五角形の頂点に配置する
「良い事?よく聞いて、儀式の間は余計な言葉を発してはならない、五つの魂形で作った環から外に出てはいけない、契約の証の交換は7秒の内に完了させなければならない、分ったかしら?」
「うん、」
少女の高圧的な物言いが僕には何故だか少し心地よかった
「誓いなさい、繰り返しの命に掛けて二人は何時迄も友達で居ると、」
「誓います、」
「では契約の証を、」
そう言うと少女は左手の人差し指を艶やかな唇に含み、その指先を蜜の様な唾液で濡らした
僕は言われた通りに少女の真似をして自分の人差し指を舐める
「二人の指先を合わせるの、」
少女は濡れた指先を立ててゆっくりと僕の方に突き出してきて、二人の指先が触れ合うと其処には、初めて感じる異性が在った
僅かに触れた二人の指先を通じて、膨大な情報がまるで熱を帯びた電流の様に身体の中に流れ込んで来るのを感じる
「貴方の名前は?」
「北条一貴、」
「私の名前は藤塚二三七、」
少女は軽く目蓋を閉じて、それから微かに吐息を漏らす
「二人の名の下に契約を結ぶ、さあ、契約の証を交換するのよ、」
「貴方の指を私の唇に、私の指を貴方の唇に、」
「それって、」
少女は絶対的な眼差しで魅了し、禁忌に触れる罪悪感が僕を襲う
「今中断したら取り返しのつかない事になってしまう、」
「分った、」
決意と共に二人の指先が交差して互いに相手の唇に、……少女は僕の指先をその柔らかな唇の内深くにまで受け容れて、まるで赤ん坊が母親の乳房に吸い付くみたいに驚く程熱く滑らかな舌先で僕の指先を包み込む
これって、間接キス?本当に良いの?……僕は、躊躇してしまった
コレ迄体験した事が無い程に心臓の鼓動は速まり、……少女の指先が僕の唇に触れた瞬間、僕は思わず約束の結界の外にまで後退りしていた
「どうしよう、駄目なのに、」
少女は見る見る青ざめてその場にしゃがみ込み、やがて夕闇が覆い被さる程長い沈黙が二人を包み込む
「御免なさい、やり直す?」
「無理よ、私は貴方の契約の証を受け容れてしまったもの、……契約は成立よ、」
「成立?」
「どちらか片方だけの契約の証を受け容れる事、それは主隷の契約、」
「何なの、それ?」
「私は一生貴方の命令には逆らえない、私は貴方の奴隷に成った、」
そう言って振り向いた少女の瞳の奥には、何時からか雪の結晶の様な朧げな輝きが宿っていた
見慣れない白いドレス、華奢な身体、瑠璃色がかった濡れ烏の長い髪、神様の贔屓としか思えない妖しい美貌、少女は夜の帳を見上げて一人きりで涙を流していた
黄昏の仄闇の底で淡い輝きに包まれているかの様なその少女の姿に、僕は何時の間にか六感の全てを囚われてしまっていた
「どうしたの?」
僕は自分でも気付かない内に声を少女に掛けていた、
少女は一瞬身を竦ませて、やがて毅然たる表情で姿勢を正す
「見ていたの?」
「ごめん、誰かに苛められたの?」
少女は一瞬戸惑いとも恥じらいともつかぬ表情で視線を逸らして、それから自分自身に言い聞かせる為であるかの様にはっきりと言葉を口にする
「私はもう人では無くなってしまったの、だからもうお友達とも遊べないし、一生誰かに好きになってもらう事もできないの、」
「どうして?」
「そんな事を聞いてどうするつもり? 貴方には何も出来ないわ、」
「そうかな、僕が君を好きになる事くらいは出来ると思うよ、」
見知らぬ男の子の物知らぬ言葉に、少女はほんの少し頬を赤らめて、それでも直ぐに全てを諦めてしまったかの様な安らいだ表情で少女は微笑んで、
「有難う、でも私の正体を知れば貴方もきっと怖くなるわ、私には関わらない方が貴方の身の為よ、」
「もしかして、君は幽霊なの?」
「違うわ、でも似た様なモノかも知れない、それでも好きになれる?」
「うん、約束するよ、」
それからまるで何かに縋るかの様に少女は瞳を潤ませる
「じゃあ、約束の儀式を取り交わしましょう、」
「どうすれば良いの?指切り拳万?」
「似ているけれど少し違うわ、私のやる通りに同じ事をすれば良い、」
少女は翡翠色の小石を五つ拾い上げてそれを正五角形の頂点に配置する
「良い事?よく聞いて、儀式の間は余計な言葉を発してはならない、五つの魂形で作った環から外に出てはいけない、契約の証の交換は7秒の内に完了させなければならない、分ったかしら?」
「うん、」
少女の高圧的な物言いが僕には何故だか少し心地よかった
「誓いなさい、繰り返しの命に掛けて二人は何時迄も友達で居ると、」
「誓います、」
「では契約の証を、」
そう言うと少女は左手の人差し指を艶やかな唇に含み、その指先を蜜の様な唾液で濡らした
僕は言われた通りに少女の真似をして自分の人差し指を舐める
「二人の指先を合わせるの、」
少女は濡れた指先を立ててゆっくりと僕の方に突き出してきて、二人の指先が触れ合うと其処には、初めて感じる異性が在った
僅かに触れた二人の指先を通じて、膨大な情報がまるで熱を帯びた電流の様に身体の中に流れ込んで来るのを感じる
「貴方の名前は?」
「北条一貴、」
「私の名前は藤塚二三七、」
少女は軽く目蓋を閉じて、それから微かに吐息を漏らす
「二人の名の下に契約を結ぶ、さあ、契約の証を交換するのよ、」
「貴方の指を私の唇に、私の指を貴方の唇に、」
「それって、」
少女は絶対的な眼差しで魅了し、禁忌に触れる罪悪感が僕を襲う
「今中断したら取り返しのつかない事になってしまう、」
「分った、」
決意と共に二人の指先が交差して互いに相手の唇に、……少女は僕の指先をその柔らかな唇の内深くにまで受け容れて、まるで赤ん坊が母親の乳房に吸い付くみたいに驚く程熱く滑らかな舌先で僕の指先を包み込む
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「どうしよう、駄目なのに、」
少女は見る見る青ざめてその場にしゃがみ込み、やがて夕闇が覆い被さる程長い沈黙が二人を包み込む
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「成立?」
「どちらか片方だけの契約の証を受け容れる事、それは主隷の契約、」
「何なの、それ?」
「私は一生貴方の命令には逆らえない、私は貴方の奴隷に成った、」
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