2 / 29
第2話 旅の始まり
しおりを挟む
一人になっただるまは、辺りを見回しました。目の前は細い一本道になっています。遠くから車が近づく音が聞こえてきたので、だるまは急いで静かな方向へ走りました。
電信柱の陰に隠れながら進んでいくと、川が土を削って道の下を横切っています。両岸に家が並んでいるものの、川べりには背の高い草が生えているので、隠れながら移動するのに良さそうです。
だるまは近くに誰もいないのを確認してから、川べりに下りました。
少し湿った土の感触が足にひんやりと感じられます。水面に垂れた細い草にハエが止まって、せっせと両手をこすり合わせていました。
だるまは「西ってどっちか知ってる?」と尋ねましたが、ハエは馬鹿にしたように、だるまのすれすれの所を飛んで回ったかと思うと、ブンブン唸って行ってしまいました。
「ハエの言葉は分からないや。どこかに話ができる生き物はいないかなぁ」
ところが、他に見かけるのは蝶々くらい。花の間をふらふらと舞って、話しかけることもできません。
進むと、川沿いの人家が少なくなっていき、反対に緑が深くなっていきます。歩き続けるうちに、太陽はてっぺんに昇り、傾いていって、とうとう深い森の中へ沈もうとしていました。
「お腹から変な音が鳴ってるし、体が何だか重くなってきた。近くに安心して休める場所がないかな」
川の先は森に飲み込まれていました。街灯はまだ点いておらず、人家も見当たりません。森に近づくにつれ、木々が川岸に覆いかぶさってきて、ますます辺りは暗くなっていきます。
怖くなってきて、引き返そうかと思った時、森に張り付くようにして家がぽつんと建っているのを見つけました。
物音を立てないように近づいていくと、庭には雑草がぼうぼうに生えて放ったらかしになっています。屋根は傾き、壁のペンキが剥がれて、所々、木の目地が見えていました。
そっと門扉の下をくぐり、草をかき分けながら庭を進んでいると、横から突然、金属同士が当たったような重い音がしました。
だるまが後ずさると毛に包まれた温かい何かが背中に当たりました。と同時に、熱い息が頭の上にブワッとかかり、ケモノの匂いのするヨダレが降り掛かってきました。だるまが尻餅をついて、真上を見ると、大きなケモノの口がすぐ目の前に迫っています。
(もうだめだ! お腹の中で栄養になって、ケモノの役に立ちますように)
だるまは両手を胸の前で組んで、目をギュッと閉じました。
ところが何秒待っても、襲いかかってくる様子がありません。
恐る恐る目を開けた時、庭のそばに立っている電灯が灯って、庭を照らしだしました。
だるまの背丈より三倍も高い目線から、犬がいぶかしげにこちらを見下ろしていました。
電信柱の陰に隠れながら進んでいくと、川が土を削って道の下を横切っています。両岸に家が並んでいるものの、川べりには背の高い草が生えているので、隠れながら移動するのに良さそうです。
だるまは近くに誰もいないのを確認してから、川べりに下りました。
少し湿った土の感触が足にひんやりと感じられます。水面に垂れた細い草にハエが止まって、せっせと両手をこすり合わせていました。
だるまは「西ってどっちか知ってる?」と尋ねましたが、ハエは馬鹿にしたように、だるまのすれすれの所を飛んで回ったかと思うと、ブンブン唸って行ってしまいました。
「ハエの言葉は分からないや。どこかに話ができる生き物はいないかなぁ」
ところが、他に見かけるのは蝶々くらい。花の間をふらふらと舞って、話しかけることもできません。
進むと、川沿いの人家が少なくなっていき、反対に緑が深くなっていきます。歩き続けるうちに、太陽はてっぺんに昇り、傾いていって、とうとう深い森の中へ沈もうとしていました。
「お腹から変な音が鳴ってるし、体が何だか重くなってきた。近くに安心して休める場所がないかな」
川の先は森に飲み込まれていました。街灯はまだ点いておらず、人家も見当たりません。森に近づくにつれ、木々が川岸に覆いかぶさってきて、ますます辺りは暗くなっていきます。
怖くなってきて、引き返そうかと思った時、森に張り付くようにして家がぽつんと建っているのを見つけました。
物音を立てないように近づいていくと、庭には雑草がぼうぼうに生えて放ったらかしになっています。屋根は傾き、壁のペンキが剥がれて、所々、木の目地が見えていました。
そっと門扉の下をくぐり、草をかき分けながら庭を進んでいると、横から突然、金属同士が当たったような重い音がしました。
だるまが後ずさると毛に包まれた温かい何かが背中に当たりました。と同時に、熱い息が頭の上にブワッとかかり、ケモノの匂いのするヨダレが降り掛かってきました。だるまが尻餅をついて、真上を見ると、大きなケモノの口がすぐ目の前に迫っています。
(もうだめだ! お腹の中で栄養になって、ケモノの役に立ちますように)
だるまは両手を胸の前で組んで、目をギュッと閉じました。
ところが何秒待っても、襲いかかってくる様子がありません。
恐る恐る目を開けた時、庭のそばに立っている電灯が灯って、庭を照らしだしました。
だるまの背丈より三倍も高い目線から、犬がいぶかしげにこちらを見下ろしていました。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
見習い錬金術士ミミリの冒険の記録〜討伐も採集もお任せください!ご依頼達成の報酬は、情報でお願いできますか?〜
うさみち
児童書・童話
【見習い錬金術士とうさぎのぬいぐるみたちが描く、スパイス混じりのゆるふわ冒険!情報収集のために、お仕事のご依頼も承ります!】
「……襲われてる! 助けなきゃ!」
錬成アイテムの採集作業中に訪れた、モンスターに襲われている少年との突然の出会い。
人里離れた山陵の中で、慎ましやかに暮らしていた見習い錬金術士ミミリと彼女の家族、機械人形(オートマタ)とうさぎのぬいぐるみ。彼女たちの運命は、少年との出会いで大きく動き出す。
「俺は、ある人たちから頼まれて預かり物を渡すためにここに来たんだ」
少年から渡された物は、いくつかの錬成アイテムと一枚の手紙。
「……この手紙、私宛てなの?」
少年との出会いをキッカケに、ミミリはある人、あるアイテムを探すために冒険を始めることに。
――冒険の舞台は、まだ見ぬ世界へ。
新たな地で、右も左もわからないミミリたちの人探し。その方法は……。
「討伐、採集何でもします!ご依頼達成の報酬は、情報でお願いできますか?」
見習い錬金術士ミミリの冒険の記録は、今、ここから綴られ始める。
《この小説の見どころ》
①可愛いらしい登場人物
見習い錬金術士のゆるふわ少女×しっかり者だけど寂しがり屋の凄腕美少女剣士の機械人形(オートマタ)×ツンデレ魔法使いのうさぎのぬいぐるみ×コシヌカシの少年⁉︎
②ほのぼのほんわか世界観
可愛いらしいに囲まれ、ゆったり流れる物語。読了後、「ほわっとした気持ち」になってもらいたいをコンセプトに。
③時々スパイスきいてます!
ゆるふわの中に時折現れるスパイシーな展開。そして時々ミステリー。
④魅力ある錬成アイテム
錬金術士の醍醐味!それは錬成アイテムにあり。魅力あるアイテムを活用して冒険していきます。
◾️第3章完結!現在第4章執筆中です。
◾️この小説は小説家になろう、カクヨムでも連載しています。
◾️作者以外による小説の無断転載を禁止しています。
◾️挿絵はなんでも書いちゃうヨギリ酔客様からご寄贈いただいたものです。
【総集編】日本昔話 パロディ短編集
Grisly
児童書・童話
⭐︎登録お願いします。
今まで発表した
日本昔ばなしの短編集を、再放送致します。
朝ドラの総集編のような物です笑
読みやすくなっているので、
⭐︎登録して、何度もお読み下さい。
読んだ方も、読んでない方も、
新しい発見があるはず!
是非お楽しみ下さい😄
⭐︎登録、コメント待ってます。
子猫マムと雲の都
杉 孝子
児童書・童話
マムが住んでいる世界では、雨が振らなくなったせいで野菜や植物が日照り続きで枯れ始めた。困り果てる人々を見てマムは何とかしたいと思います。
マムがグリムに相談したところ、雨を降らせるには雲の上の世界へ行き、雨の精霊たちにお願いするしかないと聞かされます。雲の都に行くためには空を飛ぶ力が必要だと知り、魔法の羽を持っている鷹のタカコ婆さんを訪ねて一行は冒険の旅に出る。
忠犬ハジッコ
SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。
「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。
※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、
今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。
お楽しみいただければうれしいです。
どうかわたしのお兄ちゃんを生き返らせて
なかじまあゆこ
児童書・童話
最悪な結末が……。
わたしの大好きなお兄ちゃんは、もうこの世にいない。
大好きだった死んだお兄ちゃんに戻ってきてもらいたくて、史砂(ふみさ)は展望台の下で毎日、「お兄ちゃんが戻ってきますように」と祈っている。そんな時、真っ白な人影を見た史砂。
それから暫くすると史砂の耳に悪魔の囁き声が聞こえてきて「お前のお兄ちゃんを生き返らせてほしいのであれば友達を犠牲にしろ」と言うのだけど。史砂は戸惑いを隠せない。
黒いカラスが史砂を襲う。その理由は? 本当は何が隠されているのかもしれない。どんどん迫り来る恐怖。そして、涙……。
最後まで読んでもらえると分かる内容になっています。どんでん返しがあるかもしれないです。
兄妹愛のホラーヒューマンそしてカラスが恐ろしい恐怖です。よろしくお願いします(^-^)/
山姥(やまんば)
野松 彦秋
児童書・童話
小学校5年生の仲良し3人組の、テッカ(佐上哲也)、カッチ(野田克彦)、ナオケン(犬塚直哉)。
実は3人とも、同じクラスの女委員長の松本いずみに片思いをしている。
小学校の宿泊研修を楽しみにしていた4人。ある日、宿泊研修の目的地が3枚の御札の昔話が生まれた山である事が分かる。
しかも、10年前自分達の学校の先輩がその山で失踪していた事実がわかる。
行方不明者3名のうち、一人だけ帰って来た先輩がいるという事を知り、興味本位でその人に会いに行く事を思いつく3人。
3人の意中の女の子、委員長松本いずみもその計画に興味を持ち、4人はその先輩に会いに行く事にする。
それが、恐怖の夏休みの始まりであった。
山姥が実在し、4人に危険が迫る。
4人は、信頼する大人達に助けを求めるが、その結果大事な人を失う事に、状況はどんどん悪くなる。
山姥の執拗な追跡に、彼らは生き残る事が出来るのか!
Sadness of the attendant
砂詠 飛来
児童書・童話
王子がまだ生熟れであるように、姫もまだまだ小娘でありました。
醜いカエルの姿に変えられてしまった王子を嘆く従者ハインリヒ。彼の強い憎しみの先に居たのは、王子を救ってくれた姫だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる