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三柱の世界

モテる男たち

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神殿に泊まって翌日、マダシオさんの工房へ遊具を受け取りに行こうとしたんだけど、そこのエロ殿下が許してくれない。

「また一人で行かせたら狼に襲われるだろう」
「あれは一回こっきりイベントだと思いますよ」
「君のいうフラグってのは回収しても裏切られそうだ」

そいつは魔王の野郎のようにかい?
どんだけ安全牌切ろうと、まさかのどんでん返しってあるもんだ。
それで一度死んだ身としてはこれ以上の説得は不可能である。
結局、ルークスさんについてきてもらうことになった。普通にデートである。
変装は解けていたので、かけなおすよりフード被る方を選ぶ私。あ~落ち着くわこの姿。ダサいローブにもさい布地に野暮ったいフード。最高だね。

「いくらでも変装してくれて構わないぞ」
「私が構うんです。あんな短いスカートもう履かない」

可愛いのに…との呟きを耳元でしないでください。鼓膜震えて真っ昼間だというのに腰も震えたわ。
私がぷるぷるしてるの分かったみたい。腰を撫でて抱き込み、また耳元に口寄せて耳たぶを食んでくる。

「にゃー!」
「猫かい?」
「ふにゃー!みにゃー!」

威嚇する猫を参考に叫んだまでです。
ささっと緩んだフードを被り直し、ルークスさんから離れて先へ行く。

「待て。一緒に行こう」

と、手を取られ腰を取られるのはもうデフォルト。
くっついてないと気が済まないとばかりに、この彼氏は一秒たりとも放してなどくれません。

あーいやさ、昨日のは私も悪かったよ。アザレアさんに皇居宮殿まで送ってもらえと言われてたの無視して一人で買い物行ったからさ。
ひとりでできるもん!とへそ曲げた幼児が失敗するみたいなこと、いい年した女がやらかしちゃったもんね。
心配されてしまう気持ちわかります。だからたとえゼロ距離で密着したまま帝都を歩く羽目になっても…この気恥ずかしさをどこにぶつければいいだろうと思うくらいで、嫌な気分ではないのだ。

神殿は帝都ブレイムナハト(首都名やっと覚えたよ)の中心にある為、どこへ行くにしてもアクセスが良い。目的の工房までも歩いて十分程度というところ。
ぶらぶら散歩しながら二人で歩いた。

「こんにちはー。ちょっと早いですが注文した遊具とか受け取りに来ました」
「あいよ。ん~~昨日の姉ちゃんだよなあ?大方できてるよ。見てくんな」

親方じゃなくてお弟子さんかな。
昨日ヒヨコの玩具をくれた職人さんが工房へ案内してくれた。
今日のローブ姿は違和感もりもりだったのだろう。髪を隠す為にフードもしてるし、声ぐらいでしか判断できなかったはずだ。それでも私だと気づいていただけてありがたい。怪しさ満点ダサもさ女で失礼します。

工房には昨日もいらした職人さんの他に女将さんも加わって作業にあたってる。
本当に総出で取り組んでもらえたみたいで頭が下がります。

「おやアンタ、今日は連れも一緒かね」

作業の手を止めた女将さんと対面する。
ルークスさんのことは今お付き合いしてる人と紹介させてもらった。
まさかの皇弟殿下と紹介するわけにもいかないからねえ。

「おやおや。じゃあ、注文の玩具はアンタたちの子供にかい」
「あ、いえ。それは彼のお姉様の子供にです」

甥っ子エリオンくんにプレゼントであるが、これまたこの子供が皇子であることは言えない。
この工房、こっそり皇室御用達になりかけてることを女将さんはまだ知らない。

「ほお。それにしたって豪気な話よねえ。自分の家に設置するんだろ?本当に持ち帰れるのかい?」

そこを心配されるのはごもっともですが、私にはこのシャムロック型チャームこと聖霊ボックスがあるので大丈夫なりけりです。
おしゃべりしつつ「ほら、これだよ」と御開帳くださったのは注文した大型遊具である。

「わあ。素敵!ありがとうございます!」

ジャングルジムとブランコと滑り台、それとシーソーまで一体となった大型遊具は、くるくる回すと音が鳴って絵になったり垂れ下がった紐を引かないと開かない扉など、仕掛けがいっぱいで楽しそうである。
これならエリオンくん(遊び盛り一歳児)のわくわく好奇心も満たしてくれることだろう。

「これまた凄いものを注文したな」

ルークスさんも感心して見てくれてます。
遊具の機能もだけどその大きさにもびっくりしてることでしょう。
私もびっくりしたからね。意外と大きくなったことに。全長五メートルくらいあるよね、これ。

「木馬がな…」
「そうそう、そうなんだよ。回転木馬なんだけどねえ、これだけ複雑なやつだし、まだ完成してないんだわ。またでいいかね?」

親方が言いたいことを全部引き取って喋ってくれた女将さん。大丈夫です。伝わってますよ親方。いい奥さん持って良かったね親方。

「はい。また取りに来ますね。今、完成してるものだけいただいてもいいですか」
「もちろんだよ。さあさ、玩具も色々作ったからね。気に入ったのあれば注文外のも持ってっておくれよ」

陽気な女将さんに促されて、玩具がいっぱい置いてある一角を見て回る。
注文したのは引っ張って遊ぶプルトイと積み木である。プルトイは可愛い犬の形してて、紐を引っ張ると車輪がカタカタ、首や尻尾も動くし背中にも乗れちゃう優れものだ。積み木はリングの形してて棒や紐に繋げていくと兵隊さんになる。積み木の数が多いのでこれだけでも大変だったはずだ。
これの他に出来合いの木琴や独楽もいただいた。
後金と一緒に代金を赤銭二枚で支払う。

「またまた~こんなにもらえないよ。赤一枚でいいってば」
「いえいえ。たった一日の超特急でやってもらっちゃった料金も含めてますので」

明朗会計にいきたいものですしね。
理由は明確で決して過剰な代金ではないはずです。
それに今後も利用させていただくだろうし強引な注文もしてしまうだろう。
今回のように大型遊具を一日で仕上げろとか、なかなかの無茶ぶりだと思うもの。
そんな具合に説得して、なんとか女将さんには代金を受け取ってもらえた。
いい人だなあ女将さん。
こんないい人をまたまた騙すようなことをこれからします。すみません。
私は「あーー!猫が空飛んでる!」と、あさってな方向を指差し、皆がそちらに振り向いた瞬間に聖霊ボックスへと遊具を収納してしまった。

「ん?どこ?」「猫?」
「おや、遊具はどこだい?」

ハテナー?にさせてすみません。本当に皆さんいい人だ。私の心は罪悪感でいっぱいです。

「バッチリいただきましたから大丈夫です。ありがとうございました」

深々お辞儀してからニッコリ笑って誤魔化した。
私の後ろでルークスさんだけが手で口押さえて笑いを堪えてる。

「くっ、くくくっ、ハツネ殿、その方法はちょっと…」

黙っておきなさい。
私だって古典的手法だなとは思うけどこれしか思いつかなかったんだ。
魔法で時を止めてる間に収納とかも考えたけど、そんな便利なことは出来ないからね。そう、治癒魔法と同様この世界では時を止める魔法は使えない。
確か勇者なら使えたはずだけど、それも聖剣を手に入れてからの話だと戻った記憶が言っている。
私には逆立ちしたって使えないのが神子の治癒魔法と勇者の時魔法だ。

「姉ちゃんは魔法使いなんか?」
「あはは~そんなようなものです」
「それにしちゃ呪文が聞こえなかったよ」
「そこは守秘義務ってやつです」

なんという適当な言い訳。
でもそれで「なるほどなあ…」と納得してしまう親方がいい人すぎて胸痛いわ。
余計な疑問をもたれないうちに私はそそくさとお邪魔した。
ありがとうありがとう本当にありがとうございますと何度も御礼を言いつつ退散だ。

「いやもう本当に可愛いなハツネ殿は。可愛いから手を繋ごう」
「それ、手を繋ぐ理由になってないですよ」

と言いつつやぶさかではない。
手を繋ぎつつ腕も組みつつ二人で歩くのは本当に嬉しい。
こんな風に帝都のど真ん中を、この国の皇弟殿下とデートするなんてスキャンダルどこで誰がパパラッチしてるか…という心配はない。

「姉が、あれだろう。皆、姉の方に注目してるから私は…まあ、担ぎ上げられないよう情報統制はしてる」

情報統制というのは、簡単にいうと皇弟殿下をパパラッチすな!という厳命らしい。
女帝カサブランカ様が帝位を継いだ時に公布した法律に制約を設けたという。
"私の御代にある限り弟には手を出さないでちょうだい(意訳)"というものだ。カッケー。カサブランカ様、カッケー。

ルークスさんのお仕事は外交が中心である。
今はこの国に留まっているが、本来なら他国への出張が多いご身分。
移動力に優れたこの国最新の自動車を所持してたのもさもありなん。
何か起これば直ぐに他国へ駆けつけれる機動力を削がない為にも、余計なストーカーの芽は摘んでおくというのがカサブランカ様の意向らしい。
その代わり私に注目すればいいわとばかりに、絵姿などロイヤルなファミリーが描かれた肖像、絵皿、カップなどなどその他諸々のグッズを配ってるんだって。
特にお子様が生まれてからはベビーな産業にも食い込んでるらしい。
女帝様、もしかしてお小遣いもりもり入ってますか。

「何かあっても固有スキルがあれば大抵の危険は回避できる。この帝都でならこうやって歩いてても問題ない」

帝都の治安が良い証拠ですな。世界規模で戦争や紛争は起こっていても、この帝都が発展して安定していれば外交的にも大変有利に事を進めれるというものです。
ルークスさんは姉に注目いってるから自分は目立たない的なこと言ってたけど、こうやって歩いてると帝都の住人から声をかけられるし女の子の視線も感じる。
仕立ての良い服着た太ったおっさんから挨拶されるのはいい。きっとお仕事関係の人だ。ふくよかなおばさんに挨拶されるのもいい。きっと普通に知り合いだ。
でもね、きゃぴきゃぴした女の子たちからの熱い視線、色気を振りまく姉ちゃん、やり手ババアっぽいおばさんにタッチングされちゃうと、なんかこ~~~腹の底から湧いてくるものがある。
ええ。嫉妬ですね。自覚してるから。これは私のもんだと無性に腹立たしくなる。

「ハツネ殿は、何か欲しいものはないか?」

私が複雑な想いを抱えてるのに気づいてるのか気づいてないのか、ルークスさんはいつも通りの声音で尋ねてくるから私も普段通りに答える。

「ん~お米食べたいですけど、そういうのじゃないでしょ」
「違うなあ。米は南部穀倉地帯に行けばあると思う。砂糖と同じく生産が減ってるから手に入るかは微妙だがね」
「炊き立てご飯の旨さは脅威ですよ。あれで一国滅ぼせます。いつか究極の米を探し出して食べさせてあげますからね」
「楽しみにしてるよ」

楽しみと言いながら苦笑いなのどういうこった。
国滅ぼすとか眉唾だと思ってるんだろう。我らが日本人は米のために生き米のために死ぬような国民性だぞ。米がなければ飢え死にすればいいってのを地でやるぞ。
なんせ自衛隊レーションにはお赤飯が必ず入ってるんだ。戦地で米無くなったら死ぬと明言してるようなもんだ。
ルークスさんにはいつかお米の本気を見せつけてやろうと心に固く誓ったのだった。

ところで歩いてるときに広場で聖騎士のカテル氏を見かけたんだが、あやつは何をやってんのかね。
どう見ても女の子に囲まれてアハハウフフしてるだけだったんだけど。
あれ見てると勇者ライを思い出すわ。輝雪くんな。あいつも無駄に女の子たちからモテてたっけ。
カテル氏も勇者を彷彿とさせる何かがあるな。
あやつ、帝国で最強の騎士なんだっけ。とてもそうは見えないが、女の子からのモテっぷりは帝国一だと感心せざるおえない。

「ルークスさんは、あんな風にならないでくださいね」
「ならんだろう。あれを真似する気もない」

ルークスさんが真面目なモテ男で良かったです。
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