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三柱の世界
御親隊の華兵ヒースラウド
しおりを挟む馬厩舎で盛ってしまった。地べたでドッスンバッタンしてしまったから背中痛くなったし砂埃まみれである。もう二度とやんないぞ。
そんなことをカーセックスの後も思っていたはずなのに、またしても野外プレイに興じてしまったのはどういうこったろうね。
しかも野外になると騎乗位になっちゃうのも不思議。
一応、人避けの魔法は張っておいた。キスかましてる時に。
でもそれ以前の"茨の鎖"こと首の性感帯を責めまくってる時は何も魔法使ってない。もしかしたら誰かに見られたかもしれないし、確実に馬厩舎にいる馬には見学されてる。ちなみにカテルさんは途中で帰った。
私がルークスさんのズボンに手を突っ込んだあたりで。
…反省は、ない(キリッ
私から襲ったから言い訳はしないんだぜ。でも我慢できなかったんだよ。
ルークスさんがハンサムなのがいけないってのは言い訳でしょうか。
その日はお昼くらいまでラブラブ一緒にいた。
さすがに馬小屋にずっといたわけではないが、お部屋に移動してからも汚れた服を着替えたりしながらずっとくっついてたわけだ。うん。色ボケの自覚はあります。
こんなことばっかしてていいのか気になって皇居宮殿にいる時は執務とかお仕事あるんじゃないのかとルークスさんに尋ねたところ「…今日はいい」と曖昧な返事。
おっと。おさぼりは良くないぞと昼食の後は泣く泣く別れました。
執務に行くルークスさんの後ろ姿を見送って、私は私で何かやろうと思ったけど…何もない。
何もやることがないということにこの時やっと気づいた。遅いわ。
今、私は客人の立場である。異世界から来てひと月くらい経っているが…無職である。無職である。ここ大事なので二回強調。
よくよく思い返せば、いきなり異世界に飛ばされたのに初っ端から衣食住に満たされちゃってたから、働こうという気が起きてなかったんだなあ…。
ミザリーさんとこで色々やったあれは投資という名のお手伝いである。
「…女帝様に会えないかな?」
色々と考えた末、仕事云々は再度放置して、神子の晃さんと会ったことを女帝様へ報告に行こうと思った。それからちょっとした提案をしたい。
「カサブランカ様へお目通りですか…伺って参りますので少々お待ち下さい」
側付きの女官セナさんに相談したら、もっと年上の女官さんが現れて、女帝様に取り次いでくれるとおっしゃった。私は部屋で許可が下りるのを待つ。
その間暇なので、これまでのことを思い返したり、これからやりたいことを考えたりで暇を潰した。
けれどほとんどをボ~としてたように思う。日本にいた頃と変わらず、私はボ~と無気力でゴロゴロとベッドに転がるのが好きである。
「お嬢様、カサブランカ様にお取次致しました。直ぐにお会いになられるとのことです」
ふお?!そんな直ぐに?!てかセナさんの行動も早いなと驚いてたくらいなのに、女帝様もフットワーク軽くてちょい焦る。
急いで髪を手櫛で整えて鏡の前でワンターン。よし、変なとこはない。
部屋を出て女帝様の執務室へと向かった。執務室へはセナさんに付いていけばいい。これなら迷う心配はないね。
「ハツネさん、いらっしゃい」
女帝カサブランカ様は私を気軽に招いてくださる。
「失礼します。執務中にすみません。少し、相談がありまして…」
「ルーちゃんのことかしら?」
「いえ、それはもう解決いたしました」
「あら早かったわね」
お姉様のおかげです。その節は的確な助言を賜りましてありがとうございました。"茨の鎖"にあれこれして一発でした。
そんなようなことをもう少しオブラートに包んで御礼を申し上げたところ、お姉様は機嫌良く笑われた。
「うふふふふ。円満解決して良かったわ~お式も挙げない内から気不味くなってはいけないものね」
お式って結婚式のことでしょうかお姉様。
まだ気が早いんじゃないでしょうかお姉様。
「まだ先のことですよね…?」
「ええ。半年以内にしたいわね」
「早っ?!早すぎないですか?」
「早くしないと冬が来ちゃうわよ。冬が来ると雪が積もって、西部からの招待客が来れなくなってしまうわ」
ああなるほど。この帝国は東西に長くて西側は大雪になるんでしたね。
それなら仕方無い…ではなくて、ちょっと気が早いと思うんです。
「あの、雪が溶けてからじゃいけませんか。来年の春とか」
「別に良いけど、それまで待てるかしら」
主にルークスさんがですよね。待ってもらわないと困ります。
「ルーちゃんは早く子供が欲しいと思うのよね」
「ふぁ?!そ、それは…」
「焦って避妊忘れちゃ駄目よ」
「うああ…ごめんなさい」
「あら?まさかできちゃった?」
「いえ!それはないです大丈夫です。今のとこ」
時間の問題な気もするけど…今度する時は避妊をお願いしよう。
今までにもお願いしてきたけど聞いてもらえなかったから望み薄だけれども。
…そういや、この世界に来てまだ一度も生理になっていない。
今後のためにも生理用品を買い込みたいけど生理用品ってどういうのがあるんだろ。日本のと一緒ならいいけどインナーナプキンなんて買い物の時でも見かけなかった気がする。
「えーと、結婚式はちょっと置いておいて、今すぐに相談したいことがあるのですが…」
考えたくないことはバーンしちゃって今を生きよう。
私は女帝様に、神子の晃さんのことを話した。
「また会う約束をしたのは良いのですけど、どこで会うかは決めなかったのです。
それで、どうせならこの際、関係者一同まとめて集めて面会したらいいんじゃないかって…」
関係者一同ってのは、神子の晃さん始め、ディケイド様にアザレアさんにヴァーニエル王子など聖霊王国面々と、双陽神も混じえてのフルオラ・ナビルミ関連の一同である。
「それいいわね。私も神子様には煮え湯を飲まされているのよ。はぐらかされてばかりなの。全員で囲めば喋ってくれるかもしれないわ」
神子を威圧するのはどうかと思いますが最終手段ですよね。頭の片隅に入れておきましょう。
「でも実現は不可能ね。ベンディケイド・ヴランは囚人で、双陽神はどこにいらっしゃるか分からないわ。王子に至っては亡くなったのじゃなくて?」
そう、お姉様は女帝様の顔になって厳しい眼差しを私に向ける。
ここからは秘密をオープンしなくては話が進まない。
私はこの部屋から声がもれないよう防音の魔法「"シーン"」をかけ、毎度お馴染み魔力の匂いを感知する「"クンクン"」も発動。部屋の中に怪しい魔力はないか探った。
…うん、オールグリーン。この部屋には女帝様以外の魔力の匂いはない。盗聴の恐れがあるような魔力の匂いもない。他にも念入りに調べてから口を開いた。
「ヴァーニエル王子は生きてます。今は双陽神方と一緒に私の家に匿ってますよ」
「ハツネさんの家?」
「はい。この世界に来て不自由ないようにと双陽神が用意してくださった私の家です」
「もしかして"何も無い森"の辺りにあるのかしら。以前そこでルーちゃんを見失ったのよね…」
それビンゴっすわ。ルークスさんを初めて私の家に招いた時の話ですね。私の家は固有スキルでも見えないと彼も言っていた。
てかあの森"何も無い森"とか呼ばれてるのか。道理でキノコさえ無いと思ったよ。
「今は帝国道沿いの針葉樹林のところにあります。その私の家へ、皆さんをお招きするのはいかがでしょうか」
私の家はブレスレットに付けて持ち運べる。家を出せるくらい広い場所があれば、この皇居宮殿の中にだって持ってこれるのだ。
そのことを話せば女帝様の顔がみるみる明るくなった。
「すごいわすごいわ!早くそのおうち見てみたい…!」
興味持っていただいたようで光栄です。家の外観とか聞かれたので森の小さなおうちシリーズみたいな特徴を語ったら、女帝様はますます瞳を輝かせた。
こうして場所は決定。あとは日取りを決めるだけだ。家を出す場所は、あのゲストハウスの隣に決まった。あのゲストハウスは大きなお庭の中にあったからね。ちょいとお隣を拝借することにしたんだよ。
「日程調整は少し待って頂戴ね」
大人数を一同に集めるから大変だ。特に女帝様はご多忙である。
女帝お付きのフェノールさんの手腕が発揮されることを祈って、私は「家を取りに行ってきます」とその場を辞した。
馬車を用意して下さるとのお言葉に甘え、用意が整うまでまたお部屋のベッドでゴロゴロタイムである。
これやると髪は乱れるし服に皺よるけどやめられないとまらない至福の時なんだ。そうやってゴロゴロ惰性を貪ってる時だった。
「お嬢様、皇弟殿下が…」と、セナさんの声。
次いで「出掛けるなら私も行くぞ!」とルークスさんの声。
あんた、どこでそれ知りましたか。情報が早いねと思ったところで、ああ、固有スキルの【耳】を使って聴いてたんだと納得。
魔法で探索したはずなんだけどなあ。ルークスさんのスキルには対応できなかったらしい。ふむ。何か負けた気がして悔しいな。悔しいなったら悔しいな。
だからここは断ろう。盗み聞きしてた人は連れてったげません。
「一人で大丈夫ですから。お仕事してください」
「いや無理だ。気になって仕事にならん。共に行くぞ。また"扇動者"に襲われたらどうするんだ」
「大丈夫ですって。皇室の馬車を貸していただきますから、警護も付いて安心安全です」
そうなのだ。お出掛けには私の護衛にと、皇族や皇居を守る兵士が一人付いてくださることになっている。
まさかの皇族扱いというか、これからロイヤルなファミリーに仲間入りするかもしれない未来の嫁な私を気遣ってくださったのだろう。ありがたいことですが恐縮です。
「私は安心できないぞ。いくら護衛が付くといってもだなあ」
「殿下、そんなところでつっ立ってますと邪魔くさいですよ」
わあ。誰ですか毒を含んだ言葉を吐くのは…と、ルークスさんの後ろを見やるが誰もいない。
首を捻ったとこで、予想外にも隣から声が聞こえた。どこから現れたんだ?
「初めまして、お嬢様。本日、護衛の任を与らせていただきました。
御親隊が一華兵ヒースラウド・オーリュフェンと申します。以後お見知りおきを」
ふおおお正統派美形キタコレ!涼やかな瞳と髪色がパープルで、胸にもパープルな薔薇を飾っている。紫の薔薇の人とお呼びしたい。
耳には黒いピアス、指にはお洒落な指輪、頭には羽飾りみたいなの付けて無駄に華やかだけど毒々しさとかはない。むしろお似合いだから美形は困る。そして眼鏡。眼鏡キャラである。
ヒースラウドさんとやらは優雅なお辞儀と共に自己紹介をした。その仕草はまさに紳士。眼鏡紳士で間違いない。
紳士で眼鏡で殿下に辛辣な美形が護衛とかこれなんの乙ゲーだろう。
まるで違う世界に迷い込んだみたい…て、ここは異世界だったね。
「お前が任命されたのか…あーこほん。君は色々と多忙だろう。私が変わってやるから」
「殿下は執務を途中で放り投げてきたそうですね。秘書のネリーが泣いてます。早くお戻りになられやがってください」
おお辛辣。すごい毒のある言葉を投げかけますね目上の人に対して。ルークスさんて一応、殿下じゃなかったですかね。
「ぐうう…仕方無い。ハツネ殿」
「はい。ちゃんと護衛されてきやがりますから安心して待ってるがいいですよ」
ちょっとヒースラウドさんの口調真似てみたんだけど、これが存外にウケまして、部屋の隅で控えてるセナさん含む女官ズさんたちが「ぷふっ」と笑った。
「今ので別の心配が生まれた」
「なぜに?!」
こんなにウケたのに、ルークスさんは何が心配で気に入らないと言うのか。
ルークスさんはヒースラウドさんをキッと睨みつけて宣言する。
「ヒース、ハツネ殿は私の婚約者だ」
「存じ上げております」
「懸想するなよ」
「滅相も御座いやがりません」
ヒースラウドさんは頭を下げる。変な上司もつと大変ですね眼鏡紳士。毒も吐きたくなるってもんです。ハイ。
まだごねそうなルークスさんだったけど、最後は苦渋の決断ってかんじで執務に戻って行った。ああいうとこ激可愛い。
馬車に揺られながらにそにそと、つい口を歪めて笑いを噛み締める私である。
私の家に着いたのは夕刻だ。すんごく久しぶりに我が家へ帰った気がする。空けたのは一週間ちょっとなのにね。
ここまで送ってくれたヒースラウドさんには悪いけど、ちょっと馬車で待ってもらって、私はポゾドル崖の階段を登り、見慣れたマイハウスへと入った。
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