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三柱の世界

浮気したら許しまへんでえ

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聖霊回廊でどれだけ寝たのかなんて意識してなかった。
だから目を開けて本当に目覚めた時に、そこはまだ聖霊回廊だと思っていたから、私を覗き込むルークスさんの顔面どアップに心臓飛び跳ねてびっくりした。

「おふぁ?!よー…おはようございます」
「ハツネ殿……!!」

ハグる?!と起き上がって身構えたけど…こなかった。
どした?いつもの、どした?

「………」
「……?」

なんか熱心に見つめられてるし無言だけど…本当にどした?
この、カモーンのポーズで構えた両手の所在がどうしようもなくて、手指だけ動かしてワキワキしちゃってる。
えーと…こないの?まじで?

「ハツネ…」
「はい…」

ショボーンとしてたからだろうか。名前を呼ばれて返事する。

「抱き締めて良いだろうか」
「良いも何も今までのパターンから来るものと思って身構えてましたよ」

と、ワキワキ手指をさらにワッキワキにさせる。
どうだ。これぞ指圧拳"イッソギンチャク!"凝り解しによく効く。

「じゃあ…」
「はい…」

ハグっていちいち了解とるものだっけ?改めてこういうことすると妙に照れる。
ルークスさんの腕が私の腰に回って密着。ただそれだけなのに照れる。私の手もルークスさんの腰から背に移動させて、ぎゅっと掴む。
鼻腔をくすぐるルークスさんの匂い。清涼な香り。素晴らしい。やっと匂い嗅げた。鼻詰まってた時の寂しさったらありゃしないよ。
自覚なかったけど私は匂いフェチだったのだろうか。

「くっついてるとこ悪いけど診察させてもらうよ」

て、誰ぞ?長身でゴージャス金髪ツリ目な姐さんってかんじの人が部屋にずかずか入ってきた。ノックしてないよこの人すげえ押し強いな。
ちなみに今いる部屋はルークスさんの部屋じゃない。おそらく客室とかだろう。
寝込んでる間に移動したんだと思う。

「ロザンナ女史、頼む」
「はいよ、任された」

と、ルークスさんと居場所を交代。鞄から何か取り出したと思ったらそれを耳にかけ、私の方へずずいっと寄ってくる。

「稲森初音さん。名前あってる?」
「…はい。発音も完璧です」
「ありがとう。シオリ様に教えてもらったから、日本語は基礎会話くらいならできるよ」

なぬん?!日本語できるってすごくないか。
シオリ様って誰だ。名前の響きが日本語っぽい。いや日本語じゃん。私まだ寝ぼけてるね。思考がまとまらない。

耳にかけたのは聴診器だ。この世界にも同じのあるんだね。
そしてこの人はお医者さんだね。白衣着てるし長い金髪も結って清潔そうだ。

服着たままで胸からお腹と背中を探られた。
というか今着てる服、えらいフリフリレースついてる可愛いネグリジェ第二弾である。第一弾はミザリーさんに借りたやつ。
確かスッポンポンのまま意識飛ばしたはずだけど…誰が着替えさせてくれたんだろ。

「異常は無いね。どこか痛むところは?」
「ないです」
「頭が痛そうだったって、そこの彼氏から聞いてるけど?」

彼氏って。また日本語ですやん。発音はコギャル風味だ。
シオリ様とやらはどういう日本語チョイスしたんですか。

「もう頭も痛くないです」

スッキリ爽快であることをアピール。

「そう。熱も下がってる。脈もオッケー」

オッケーも日本語の響きで聞こえた。この人、本当に日本語知ってるんだなあ。
日本人が医療用語にドイツ語混ぜるのに似てる。助手っぽい少年に何か道具を要求するときが一番日本語多用してるもの。もしかして医療用具全般が日本からの知識なのかな。

それから目にライト当てられてしぱしぱ。舌引っ張られてムニムニ。
風邪の診察のようなことをされて終わった。

「快癒おめでとう。一週間、目を覚まさなかった割には床ずれもない。食欲あるなら何か口に入れるといい」
「はっ。そういえばお腹空きました…」

ぐ~~~~~~とタイミング図ったかのように鳴り響く。
我の腹の音でござる。はっずかしいいいいい

この腹の音を聞いて、静かに控えてた女官さんがそっとその場を抜け出した。
ご飯取りに行ってくれるんですねすみませんお手数おかけします。
あと、いたたまれない…。

「なあ、キミは…めらんくそんに可愛いな」
「──?!」

パツ金女史がすごい単語口走った!めらんくそんて!

「あれ?私の日本語おかしかったか?」
「は。いえ、合ってます。ちょっと聞きなれない単語だったので驚いただけです」
「聞きなれない?それはキミの時代では常用されてないということか」
「あ、近いです。たぶん死語ってやつですね」
「そうか。教わってから50年は経ってるからなあ…良かったらキミからも新しい知識を得たい」

そう言って私の手を握ってくる金髪姉御。
…あれ?よく見たらこの人、耳とんがってないか?まさかのエルフか?エルフならご長寿のはずだ。
見た目は20代だけど実年齢はもっといってるわけだね。50年前の知識って…あれ?めらんくそんってそんな昔の言葉だっただろうか。
なんにせよエルフ(仮)である。男女問わず美しい容姿に身体的特徴であるとがり耳。そして薄い胸…仲間である。

「わ、私で宜しければ喜んで…!」

私は興奮して握り返した。推定エルフのお友達ヤフーーー!
いやあ~レストランでお見かけしてからというもの、常々この世界にはエルフ居るんじゃないかと疑ってたんだよね。
日本語を教える時にこっそり観察してエルフに関しても聞いちゃおう。
楽しみだー。

金髪姉御ことロザンナ医師は診察を終えて帰っていった。
後に続く助手の少年も「失礼しました」と帰っていく。
…あの二人はどういう関係なんだ?
そこんとこも追々聞いちゃおうと好奇心がマックス状態な私である。

聖霊回廊に居た時はあんなに無気力で眠くてしょうがなかったのに今は逆でやる気に満ち満ちている。何をやるかは決めてないけど……あ、ディケイド様に面会する予定だったよね。それ、どうなったんだろ。

「私、一週間も寝てたんですか?」
「ああ…」

ルークスさんに聞いてみるがなんだか気のない返事。
どうした?本当にどうした?さっきからおかしいですよ。

「ルークスさん…」

と、詰め寄ろうとしたところで「お食事お持ちしました」の声。わーい、ご飯だ。
お粥のようなポリッジみたいなものをいただいた。胃袋に優しいミルク味が染み込みます。デザートの桃うまい。やはり風邪引いたら桃缶だよね。出されたのは桃のコンポートみたいなものだったのだけど…この世界に甘味は無いはず。
なのにすごく甘いの。明らかに砂糖で甘く煮てある。すごく甘い。この甘さはまさか…金平糖?

私がご飯食べてる間にルークスさんは部屋を出て行っちゃったみたい。
…なんだろ、よそよそしいな。寝てる間に何かあったんだろうか。それとも寝落ちした私にご立腹とか?いやそりゃないなルークスさんだもの。
他に考えられるのは…もう私に興味なくなったとか…浮気…。あー…想像しただけでへこんだ。だめ。浮気絶対だめ。

その後もベッドで悶々と考え事した。ロザンナ医師にも今日は安静にしてるよう言われたし、何より胸が痛くて落ち込んでいる。自分の勝手な想像にダメージを受けてるのだ。事実確認したわけじゃないのに何故か浮気を疑う私。情けない。
あんなにフレッシュな気持ちで起きたのに、今や気持ちが下降しちゃって悪いことばっか考えてしまう。ミザリーさんとより戻したとか…一週間も寝てたらミザリーさんとこも通い放題だろうなとか…。ああ、だからこういう考えは駄目なんだってば。ミザリーさんにも失礼だ。

どうしても気持ちが浮上しないまま晩ご飯もいただき、お風呂まで用意してもらって、また磨かれた。無抵抗な私は、今度は陰毛だけでなく他の毛のお手入れもされてしまったよ。全身つるっつるですわ。夜用ネグリジェ第三弾も素敵にフリフリだった。薔薇モチーフの刺繍も入っていて細かいとこまでお洒落さん。

「ハツネさん、夜分ご免なさいね。ご機嫌いかが?風邪治ったのね、良かったわ」

女帝様がやってきた。きっと今まで公務だったのだろう。激務の中、着崩れのない美しいドレス姿でお見舞いに来てくださった。
その姿を見た途端、私は金平糖を思い出す。

「カサブランカ様、ご心配おかけして申し訳御座いませんでした。それと桃のデザート、すごく美味しかったです」
「あらあ~もしかして分かっちゃった?」
「はい。故郷の味ですから。すみません、気を使っていただいて…」

幼い頃ぶりに食べたという貴重な砂糖菓子を、私のために使ってくださったのだ。恐縮すぎて頭を下げてしまう。うん。やはりこういうとこ私も日本人だ。
本当は、ありがとうと御礼を言いたいのに、まず謝っちゃうんだよね。

「あらら良いのよ。ハツネさんには沢山お世話になってるもの。これくらいはさせてちょうだい。これは女帝として言ってるのではないわ。ルーちゃんの姉として、あとハツネさんのお友達として言ってるの」
「ともだち…」
「ええ。嫌かしら?」
「め、滅相もないです!お友達…!嬉しいです!」

女帝様と友人になれるなんて光栄すぎるだろう。本当にリベラルなお国柄ですねここ。さすがルークスさんを育んだ国だ。彼を見てると土壌の良さを感じるんだ。
皇族だし難しい立場の人間だろうに…戦争にまで関わってフルオラ・ナビルミとも対決しちゃったし…どんな時でも何かを、そして誰かを守ろうとしてくれる。
──そのことを思うと、なぜか目頭が熱くなってしまうよ──。

「ハツネさん、ルーちゃんと何かあった?」

うおっふ。お姉様に隠し事はできないね。

「う…落ち込んでるように見えますか」
「それどころか悪い考えにとりつかれてる顔よ」

私たちはテーブルセットの方まで移動して、そこにある椅子へ座った。
卓上には仄かに光るお洒落なランプと、それに照らされた茶器。少し冷えてしまったお茶で唇を湿らせてから、私はお姉様にルークスさんのことを話した。

「…そんなわけで、前に、お酒飲んでやらかした翌日の態度に似てるんです…私また何かやらかしたんでしょうか…」

やらかしたとしてもそんな記憶無いから困る。謝ろうにも謝れない。
そう考えると浮気の方がまだ現実味がある。人の心は縛れないから、私が努力を怠ってる間に奪われても仕方無いって思える。

「それはルーちゃんに問題ありね。ハツネさんは悪くないわよ」
「…そうなんですか?」
「当たり前よ。あの子ったら何でハツネさんをこんなに不安にさせてるのかしら。一回お仕置きしたほうがいいかしら」

お仕置きってお姉様…。

「私なら"茨の鎖"に魔力を流してやるところよ。ハツネさんもやっちゃっていいわ」
「過激なお仕置きですね…検討しておきます」

私は頷いて"茨の鎖"の有用性を考えた。魔力の流し方次第、触れ方次第では、痛みも快楽も覚えさせれて躾にはもってこいである。
浮気されたにせよ私が何かやらかしたにせよ、まずは会って話聞いて、それからお仕置きだ。お姉様のおかげで気持ちが浮上してきた。

「そういえば龍はうまく描けましたか?」

茨で首を縛った私とは違い、龍なんてダイナミックなモチーフで、どこにどう刺青したのかも気になって訊いた。

「うっふっふ~できたわよ」

女帝様の瞳が怪しげに煌めいた。刺青は皇帝陛下の下腹部に入れたんだそうで。
本当は胴回り一周彫りたかったけど、魔力が足りなかったんだって。

「でもピンポイントに良いところへ付けることができたわ。男性の体にも弱点ってあるのね」

おっとこれ猥談じゃね?これ以上聞くと皇帝陛下の沽券に関わりそうである。
だがそれが良い。私はロイヤルな御夫婦のめくるめく夜の性活を拝聴し、いつか役立てようと心に決めたのである。
主にルークスさんに使う気満々である。姉の許可もいただいたのでバッチリだ。

それからディケイド様との面会の話をして…面会はまた公務の調整してからと言われた。女帝様は忙しいものね。
順延してる間にディケイド様の処刑日になってしまわないか心配だったけど、処刑日は半年も先の予定なんだって。知らなんだ。
なんでも業務上の処理が遅れてるとかで。まあ、そう他国に吹聴して裏で根回しとかしてるんだろうな。できたら戦勝国の連中には処刑を諦めさせたいものね。
それが一番平和的。恨みとか変な軋轢も生まない最善の方法だと私も思う。
でもそれこそが一番難しくて困難な方法だということも知っている。
平和への道のりはどこの世界でも厳しい課題なのかもしれない。

「それじゃあハツネさん、ルーちゃんとはきちんと話し合ってね」

と、言い残して女帝様は帰って行かれた。
初めて会話した時にも二人でよく相談しろと言われた気がする。
毎度、的確な助言をありがとうございますお姉様。

明日はルークスさんをとっ捕まえよう。張り込みして背後から襲うのだ。
その為にも明日は早く起きなければと思いながら眠りに就いた。
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