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三柱の世界
フォレスト・ミザリー服飾店
しおりを挟む食事を終えてからは町の中を散策した。
メインストリートを領主館の方へ向かって歩いていく。
舗装は全て石畳だ。馬車が通る中心は広く大きい暗色石で、人が通る両端は足の大きさくらいの明るい色した石で構成されている。
車道と歩道を色分けるのはいいことだ。車と人の接触事故が減る。
分かれ目には等間隔で並ぶ白い石。暗くなると光るのだそうだ。
街灯や街路樹、季節の花々も植えある。道幅も広く歩きやすい。
この町には緑色した建物が多かった。
背の高い建物はあまり見当たらない。殆どが一階か二階建てで、極たまに三階建て以上の建物がある。低い建物が多いから、遠くに見える尖塔が目立って高い。東西南北にあるが、あの尖塔は日本の城でいう櫓みたいなものだろうか。
景色を眺め見つつ目的のブティックに入った。ここのブティックも煉瓦造りの建物だ。さっき腹いっぱいパンを食べたお店の店員さん推奨"フォレスト・ミザリー服飾店"である。
お店の外壁は緑色。緑色に塗ってあるのじゃなくて、これも煉瓦。
緑色の煉瓦なんて見たことないよ。とってもファンタジー!
臙脂色の幕が張られたアーケードと、白い木戸を潜っての入店となる。
「いらっしゃいませこんにちはー!」
元気な挨拶ありがとう。
明るく可愛い店員さんに迎え入れられて、私は店内を見渡した。
トルソーに飾ってある服はどれも一点ものっぽい。吊るしの服もサイズを豊富に取り揃えております系じゃなくて、ひとつひとつ丁寧に作られた作品のように飾られている。
服だけじゃなく、靴や鞄、帽子にストール、ハンカチなどの小物まで置いてあるので、この店だけでひと揃えのコーデが楽しめそうなのがいいね。
『眉毛太いハツネちゃんにはクールな色が似合うと思うの』
どういう意味じゃい。
無礼なことのたまいながらも、これがいいあれがいいと木のテーブルの上に服を積み重ねていくオカマ馬もといアザレアさん。
店員さんはニコニコしてらっしゃるけど、服がぞんざいに扱われて怒ってないかしらとちょっとハラハラする。
『ほら、ぼーとしてないで試着なさいナ』
「え。どれを?まさか全部とか…?」
『そのまさかよん。乙女として、試着の十着も二十着もできなくてどうするの』
ひえー。勘弁してよアザレアさん。
冷や汗かきつつ私は試着室で着せ替え人形になった。
着替えてからアザレアさんに見せる。『うーん』『イマイチ』になったものは却下で『いいわね』『ステキん』の評価をいただいたものは会計レジへと運ばれた。
そうそう、この世界にはレジスターもどきがある。
大きな四角い水晶に文字列があって、それを指で押して金額をインプットするのだ。レジスターというより電卓みたいなものだね。巨大電卓。もうちっと小型化できんもんかね。
買ったのは、頭から足先までひと揃えのコーデを三セットとワンピースを五着。チュニック三着とスカートも三着。
この世界の服はワンピースが殆どだ。スカートも長めが多い。膝丈や膝上丈もあることはあるが一見して数が少ない。袖も長いのばかりで七分袖とかまして半袖など無い。暑かったら捲くれということだろう。
しめて青銭10,105枚だった。青銭そんなに持ってない。
青銭一万枚以上も持ち歩く人などいないだろうよ。
「これで足りますか?」
と、私は金貨を一枚、店員さんに差し出した。
すると店員さんの目が見開いたーーーー!
驚いたのね分かるよ。でも、そんなに驚くことかね。
イマイチこの世界のお金の価値が分かってない私が悪いのかもしれぬが…。
でもね、言い訳させてもらうとね、山と積まれた一点モノの衣服たちを目にしたら、これくらい出さないといけない気がしたんだ。
だってこれ全部、手作りだよね。こちらの世界の紡績がどうなってるかしらないけど、自動織機があるとは思えない。そうすると手織りということになる。布の価値は高いはずだ。更に服の全てを私のサイズに手直ししてもらうことになったので、職人さんの手間賃だってあるでしょう。
「た、確かに足りますが…その、当店では金貨の取り扱いが出来ません…っ」
いっぱいいっぱいになって返答してくれる店員さんに申し訳無く思う。
やっぱ一家四人一年暮らせる貨幣はインパクトあったようだ。
元の世界だと、コンビニのお会計で純金を差し出されたようなものかな。取り扱えないよね、そんなん。
「でも、あの、き、聞いて参ります…っ!店長!てんちょおおおーーーー」
可愛い店員さんを泣き叫ばせてしまった。ホントごめ。
店内の騒がしさに気づいたのだろうか、奥の方から店長さんが顔を出す。
まだ年若い。エプロンドレス姿がキュートな茶巻き毛の女性だ。
あ、この人の似顔絵が看板にあったわ。てことはこの人がミザリーさんかな。
ミザリー店長さんは、めそめそしている店員さんから事情を聞き、そのまま店員さんは下がらせた。ああ、まぢごめんよ泣かせてしまって。金髪ショートボブで可憐な店員さん、強く生きろ。
代わってミザリー店長さんが相手をしてくれる。
「すみません、お客様。当店には金貨取り扱い許可証が御座いません。取り扱えるのは赤銭までとなっております」
赤銭とな?聞き慣れない単語に、思わずアザレアさんの方を見る。
アザレアさんは会計の間、椅子に座ってお茶を飲みながら優雅に寛いでいた。
私の視線に気づいたアザレアさんが助け舟をくれる。
『赤銭は赤色したお金よ。青銭と同じ形で赤くなっただけのものね。青銭一万枚で赤銭一枚よ。ちなみに黄銭ってのもあってね、青銭百枚で黄銭一枚。黄銭百枚で赤銭一枚よん』
ふむふむ。【青銭<黄銭<赤銭<(超えられない壁)<金貨】なかんじかな。
てことは青銭10,105枚ってのは、赤銭一枚と黄銭一枚と青銭五枚を支払えばいいんだな。持ってきてないぞ赤銭。元より服を買いにくる予定ではなかったから仕方無いのだけれど。
「大きいのは金貨しか持ってなくて…無知ですみませんでした。後払いでもいいでしょうか?」
「ええ、はい。お直しの時間も御座いますので、お支払いは商品をお渡しする日で構いません」
分かりました。ご迷惑おかけしましたと五体投地ばりのお辞儀をして、私はその場を辞した。ミザリー店長さんは日本人的謝罪表現に少し驚いていたようだ。こちらの世界に平身低頭という言葉はないのだろうか。
「ありがとうございました。一週間ほどで仕立て上がりますので、また取りに来て下さいね」
そう言ってミザリー店長さんは引換券をくれる。そして店の外まで見送ってくれた。最後まで接客が丁寧で落ち着いた店長さんだった。また来ます。
『ねえん、今度は下着屋に…』
「行きますよアザレアさん!ほら、馬んなって!」
不穏なこと言い出したアザレアさんの言葉を遮って、私は帰宅を促す。
下着くりゃあもっとるわ!それより銭ばとりにいかんといけんね!早よ馬さなれ!
最早どこの方言か分からない言葉を頭の中で羅列しつつ、アザレアさんの背中に跨った。
服が仕上がるのは一週間後かー。
「ここから海辺まで、どれぐらいかかりますか?」
『そうねん…十五分もあれば着いちゃうわ』
そんな早いの?!ここってそんなに内陸じゃないのだろうか。
アザレアさんは時速何キロくらいで飛んでんだろう。
体感的にはのんびりしてたんだけど、もしかしてかなり早いのかな。
こうなると俄然この世界の地理がどうなってるか気になりだした。
今度の町では地図買おう。そうしよう。
私たちは一旦元の森へ戻りマイハウスを出した。
そこで赤銭と黄銭も発見し、化粧ポーチの中に銭を詰める。
うーん。お金入れる用の袋買わないとな。どこに売ってるんだろ。雑貨屋さんとかあるかなあ。家の中は家具など大型のものは揃ってるけれど小物は無いんだ。
色々と見てみたい。
あとカーテンも。薄手のしかついてないから遮光カーテンがあれば欲しいところ。
海辺にある大きな町まで約十五分。
私たちはピンク色の線を空に描きながら空を飛翔した。
町に近づくに連れて見えるのは地平線まで広がる海。こちらの海も地球と変わらず青かった。良かった。もし紫色とか奇抜な色だったらゲロってる自信あるわ。
海辺の町は三日月型の湾に沿って形成された港町だった。
家々は最初に行った町と違って煉瓦じゃなく白い壁が多い。漆喰の白が二つの太陽に輝いて眩しいくらい。
町の上空を右回りに回ってる時だった。ふと沖の方を見やる。
何隻かの船が集まっているけど、あんなにまとまって操業したら船と船がぶつかってしまわないだろうか。
「ねえ、アザレアさん。あっちの方だけど…」
『ん?あら、あれは捕鯨ね。魔洸鯨をとってんのよ』
ほげー?!ああ、捕鯨。そして魔洸鯨とな。
それはそれはどこかで聞いたような響きの鯨名だね。
この世界にも捕鯨があるんだと関心を示してしまったからにゃ見学せねばなるまい。
「見に行きましょう!」
『いいわよん』
急旋回して沖合を目指した。昼ご飯は鯨肉に決まりだね。
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