世話焼きDomはSubを溺愛する

ルア

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出会い

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 大学で授業が終わり、帰るため廊下を歩いていると白衣を着た男性が壁にもたれ掛かって荒い息を吐いていた。

「あっ…はぁ…はぁ…」

 彼は息絶え絶えといった様子で、考えるより先に声をかけていた。

「あの…大丈夫ですか」
「だい…じょうぶ…じゃ…ないです」
「救急車呼びましょうか」
「救急車…じゃなくて…あなた…も、もしかしてDomの方…ですか」
「え?あぁ…はい…Domですけど、って本当に大丈夫ですか」

 Domかと聞かれ、返答に困ったが緊急事態なのでこれ以上戸惑う時間がなかった。

「本当に申し訳ないのですが…簡単なコマンドを出して頂けませんか」
「コマンド?今?」
「人を助けると思って…ほんとに…お願いします」
「でも僕で大丈夫…」
「そこをなんとか、どうか…」
「わ、分かりました。ここじゃなんですから保健室の緊急用プレイルームに行きましょう。おんぶするので乗ってください」
「ありがとうございますっ、はぁ…」
「後もう少しなので大丈夫ですよ」

 見知らぬ人にコマンドを…と一瞬戸惑ったが倒れそうな人をこのまま見捨てるなんてできない。プレイ不足なのか?今は抑制剤を持っていないのだろうか。いろいろな考えが頭に過ったが今はそれどころじゃない。憶測をかき消して急いで保健室へ向かった。

 保健室のプレイルームに入ると彼を椅子に座らせ一つ目のコマンドを出した。

Kneel跪いて

 コマンドを出すと彼は床にペタンと座り込んだ。

Good boyよくできたね

 そう褒めると彼は肩の力が抜けるように脱力していった。もう少しコマンドを出さないと体力が回復しなさそうなので続けることにした。

Comeおいで

Good boyよくできた

 彼は素直にコマンドに従い顔を緩め、ふにゃ~とした表情になった。自分のコマンドでここまでリラックスしてくれると嬉しくなるし、心が温かくなるような何とも言えない不思議な感覚になった。それに表情と姿を見ていると…なんだろうこの感じ…胸が…?…まぁいいか。二つ目のコマンドを出した後、彼が口を開いた。

 「あ、あのっ、ありがとうございます!いきなりコマンドを出して欲しいとか言って申し訳ありませんでした。」
「大丈夫ですよ。僕もDomなんで気持ちわかります」

 プレイ不足によって体に不調をきたすのはDomやSubにしかわからない感覚だ。

「本当にありがとうございました。なんでもお礼しま…」

 言いかけた途中でいきなり全体重をかけてもたれ掛かってきた。意識を失ったのかと焦ったが息遣いが聞こえ、どうやら寝ているようだった。

「はぁ…良かった、寝てるだけか。どうしよう…。このまま置いていくわけにもいかないよな」

 彼の体調自体は回復したといっていいだろうが、目覚めたらどうなっているか分からないし放っておく訳にもいかないと思い保健室のベッドに寝かせ、俺は椅子に座り目覚めるのを待つことにした。

 白衣を着ているということは実験をする授業をしている先生か?にしては顔が若い気がする。身長は170㎝前半くらいだろうか。大きめの丸い眼鏡をかけており、よく見ると少し欧米系の人の雰囲気を感じる顔立ちでまつげが長い。しばらくスマホを見ながら待っていると彼は目を覚ました。

「あれ…ここは…?」
「保健室ですよ。保健室でプレイしていたら寝てしまったのでベッドに移したんです。」
「何度も何度も本当に申し訳ない…」
「体調は大丈夫ですか」
「あ…元気になりました」
「良かったです。では僕はこれで…」
「ちょっ、ちょっと待ってくださいっ」
「…は、はい?」
「つかぬことをお聞きしますが、今交際している方やプレイをするパートナーの方はいらっしゃいますか?」
「えっと…いないです」

 突然のパーソナルな質問に戸惑ったが嘘をつく必要も特に無かったため素直に答えた。

「その…もし…よろしければ…僕とプレイをするパートナーになってもらえないでしょうか」
「パートナー…」
「はい、あなたにコマンドを出してもらった時すごく体が落ち着いて、それでいてふわふわもして今までで一番心地よかったんです。その…初対面なのに厚かましいことを言ってるのは分かっています。でも…プレイするだけのパートナーでいいので…その…なって頂けませんか」

 彼の発言にハッとした。そうか俺もこの人とプレイして心地よかったのか。背が182cmあり、髪型は明るい茶髪にハーフアップで、耳にはピアスを2,3個つけており、自分で言うのもなんだか派手な見た目をしているのでSッ気が強いと勘違いされやすいが、自分のプレイに対して支配するという表現が苦手だ。

 自分がコマンドを出すことで相手が満たされたら嬉しいなと思う。もしかしたら彼も似たような思いがあるのかもしれない。

「いいですよ。僕も相手が誰もいなくてちょうど困っていたところなので。」

「い、いいんですか?こんないきなりですけど」
「僕もコマンド出してて、心地よかったんです。よろしくお願いします」

 顔も名前も知らない段階からいきなりパートナーになった。パートナー不足の解消、プレイの相性などメリットを感じたので突然すぎるかもしれないがパートナーになる事にした。出会って一時間だが悪い人には見えない。

「あぁ、自己紹介忘れてました。医学部二年生の三澄 律です」
「経済学部二年の結城 大河です」
「同い年…」
「同い年ですね。ため口にします?」
「そうで…じゃなくて、うん」
「連絡先交換しよう」
「スマホ…どこいった?あれ?ん?あ、あった」

 彼ではなく三澄は慌ただしくリュックの中を探している。連絡先を交換し、次に会う約束をすることになった。

「三澄はいつ空いてる?俺は今からでも大丈夫だけど。」
「俺も今からで大丈夫。良ければ一人暮らししてる俺の家でやりたいんだけどいいかな」
「いいよ」
「じゃあ行こうか」

 相手のことを全く知らないので少し気まずくなってしまった。何も話さないまま足だけが進んでいく。何か話題を…。

「三澄は何が趣味なの?」
「趣味か…小説読んだり、アニメ見たりとかかな?」
「へぇ、そうなんだ。実験とかよくするの?あぁ白衣着てるから気になって」
「実験は授業でするけど白衣は実験関係なく毎日着てるんだ。」
「毎日!?」
「うん、実験用は別にある」

 とても気になる発言があったが突っ込む前に家に着いてしまった。オートロックだしエントランス広いな。実家が金持ちそうだ。

「ただいまー」

 一人でもただいまって言うタイプなのか。

「お邪魔します」

扉を開き部屋に入ると衝撃的な光景が広がっていた。

「部屋、汚っ」
「えっ?」

 あ、まずい。思わず言ってしまった。

「まだマシな方だけど」

 三澄はまっすぐな目で見つめてくる。自分の発言に何の疑問も抱かない表情だ。広めのワンルームの部屋の机には、空いたペットボトルや缶、そして空のカップ麺の容器が置かれており、大きなゴミ袋が2つおいてある。床には部屋着らしき服と本が散らばっている。

「片づけよう」
「え?プレイは?」
「どこでプレイするっていうんだよ」
「端っこで」
「そんなところで落ち着いてできるか。ほら、さっさと片づけるぞ。」
「…めんどくさい…」
「おい…別に俺の家でもいいけど」
「自分の家のほうが落ち着くから俺の家でやりたい…です…」
「抑制剤飲み忘れて、リュックの中もこんな感じで抑制剤失くしちゃったとか?」
「ギクッ」

 ギクッって口で言うやついるんだ。

「プレイ不足以前に健康にもよくないし片づけよう、な?」
「はい…」

 それから二時間ほどかけて部屋を完璧にきれいにした。

「はぁ、やっと終わったな。よくできたよ」
「うん!」
「次来る時まで…保てるか?無理にとは言わないけど…」
「もちろん!」

 満面の笑みで三澄は言った。この自信はどこから来るんだ。

「暗くなってきたし今日は軽くプレイして帰るわ」
「…ごめん。でもパートナー辞めないでほしい…」
「辞めるなんて言ってないだろ…。大丈夫だから」

 すごく不安そうな顔で俺を見つめてくる。解消するつもりは元々ないが大丈夫と言わざる負えない顔をしていた。

「うん!」
「プレイするか。その前にセーフワード決めないと。」
「じゃあ、ジャッジメントで」
「ジャ、ジャッジメント!?」
「うん」
「あ、あぁ…」

 それから少しプレイし、その日は帰った。いきなりパートナーになっただけでなく毎日白衣着てる宣言や部屋のこと、セーフワードなど新たな衝撃もあり、目まぐるしい一日だった。三澄とプレイした時に感じた、胸の変な感じの答えがいつか分かったらいいなと思う。
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