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第一章 なぜ私であるのか

君は必ずや信仰に目覚めその胸に光が宿るでしょう

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「落ち着きなさい。そして聞きなさい。ジーナ君の言葉は誤りであり、バルツ将軍のお言葉もまた事実とはズレております。まず中央にいるあれは堕ちたとはいえ龍のひとつであります。我々の龍もまだ中央に戻っていないことから龍ではなく、龍と人がまだ一体化していない龍身という状態。すなわち龍となるものなのです。いいですね御両人?この微妙な問題で争ってはなりません。極めてデリケートな問題なのですからね」

 不満な顔をしながらもバルツは離れ頷きジーナも同じく頷き、ルーゲンは一息ついた後に宣告する。

「ジーナ君。信仰無き者。またの名を不信仰者よ。君は何が罪であるのかを、まだ知らない」

「そうだ!」

 バルツが完全に賛同したことにジーナは反論しようとしたがルーゲンが抑え、畳みかける。

「君でなければならない理由は、やはりあります。それは不信仰故にです」

 ルーゲンは口調を真似て言うとバルツは笑いジーナは言葉に詰まった。

「これまで君が龍に対して不信仰であっても問題視されなかったのは、延々と戦いに継ぐ戦いであったために、そこを見直すといった機会がなかったからです。ですがこれよりここソグ地方は雪が積もりしばらくは戦争が中断される絶好の機会となります」

「お待ちください。もし龍への信仰がなかったら私は追い出されてしまうとでも?」

「そんな無慈悲で愚かなことなどしません。愚かなのは我々が君に何も教えなかったことであり、また君自身が知ろうともしなかったことが無慈悲で愚かなことだったのです。我々が教え、君が学ぶ。そして君が信仰に目覚めるかどうかは……分かりません。ですが前に進むことだけが我々のできるたったひとつのその全てなのです」

 ジーナの顔は曇り歪む。
 その表情もバルツは初めて見るものであった。どんな苦しい戦いでも見たことがない顔……どうしてそこまで。歪んだままのジーナは問う。

「ルーゲン師は私が龍の護衛を務めたとしたら信仰に目覚めるかもしれないと本気で御思いなのですか?」

 陰鬱な表情のジーナに対しルーゲンは楽天的な表情を崩さない。

「龍は偉大です。その偉大さに触れることによって君は必ずや信仰に目覚め宿るでしょう、その胸に」

 ルーゲンは自らの人差し指を額に当て、それからジーナの胸の心臓の位置に触れ唱えた。

「新たなる心。いえ、もとからあることに気付かず知らないままにしていた心というものがここに宿り、暗黒に光が灯されるのです」

「残念ですが、その可能性は皆無かと予想されますね」

「僕はそうは思いませんね。ではこれで決定です。最も信仰から遠いものこそがこの役を務めるべきです。逆説的にそうあるべきです」

「なには兎も角」

 同意していないジーナを無視してバルツはルーゲンに続き議論の締めに入るため手をに三度叩いた。

「龍身様は我々はもとよりこの地上で最高に尊い貴人だ。傍にいるだけで感化され生まれ変わるがよい。もう難しく考えるな。お前が西の砂漠の果てから来た異人であっても、龍の信仰を持たぬ不信仰者だとしても、礼儀作法やらなにやらが最低だとしても、お前は最強の戦士であるのだから、我々の最も尊い存在の護衛を務めるべきであり、それを命じられたのだ、素直に喜び受け入れろ」

 渋っ面なままであるがジーナは溜息を吐いた。バルツとルーゲンは頷いた。もう議論は終わったということの同意であった。

「……とりあえずルーゲン師よりもバルツ様のお言葉に賛同いたします。そのようなお役目だと思えば、私は頑張る所存です。組織のトップを護るための護衛。私に相応しい役割です。とりあえずそう思い込む努力を致しましょう」

「どこまでも龍の護衛というものを拒絶しおって」

「まぁいいじゃありませんか。僕はどちらでも構いませんよ。結局は同じですしね。では新しいお茶が入りましたので、全員一致の賛成ということで」

 ルーゲンはコップをあげバルツもならいあげ、ジーナは最後に軽くあげてから口にした。

 酷い苦味だ、とジーナは眉をしかめて茶を置き、せめてもの抵抗を試みた。

「……お名前はなんでしょうか?」

「誰の名だ?」

「その……龍となるものの名です」 

 バルツは顔全体をしかめた。

「なんだその悪あがきは!素直にそのまま龍身様と呼べばいいだろうが!」

「信仰に目覚めぬものが敬称を用いるのは誤りではないでしょうか?」

「こいつはどこまでも下らぬ減らず口を……」

「ルーゲン師、お名前をお教えください。信仰に目覚めるまではそれをずっと用いますので」

 ジーナは問うたがルーゲンは呆然としている。二度瞬きをし、停止。

 バルツとジーナはその異様な様子に顔を見合わせ、声を掛ける。 
 こんなルーゲン師の顔は初めて見るといったように。

「あの、どうなさいました?」

「なま……え?」

「ど忘れか?師にしては珍しいことで。えーっと龍の騎士殿がいつも呼んでいるのは、ヘイム……そうだ、ヘイム様だ。龍身様のもとのお名前はヘイム様となるな。もっともこの名はもはや誰も使わんがな」

 バルツが思い出し答えるもルーゲンの顔は変わらず、無理をして笑っているように頷く。

「ああ……そうでしたね。フッ失礼。そうでした、はい……そんな感じでしたね」

 はっきりとしない口調でそう言うルーゲンを見ながらジーナは言った。

「では私の任務はヘイム様の護衛ということですね」

「好きに言え。そのような誤魔化しで何になるのか俺にはさっぱり分からんがな。そういう認識で行くのならくれぐれも粗相のないようにしろよ。それとこれは龍身様であっても変わりはないが、ヘイム様は御婦人であるからな」

「えっ?そうなのですか?」

 固まるバルツにルーゲンは爽やかな笑い声を出した。 

「まぁまあもういいじゃないですか。性別や名前など細かいことなど。それよりも大切なことを覚えるため、では講義に戻りましょう。ジーナ君は分かっていないでしょうからここはまた一から話を。世界の秩序は龍によって担われているというのお話。中央の龍が異常を起こし国が乱れた話。そして現在二つの勢力によって内乱中だという話、をです」

 だがジーナは心を宙に飛ばし講義の内容を右から左へと流しているとバルツの怒声が耳の中に入ってきた。

 ……どうしてこうなってしまったのか?ジーナは心中にて呻いた。
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