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旅の目的とそのゴール (アカイ38)

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 この無法地帯っぽい街の名はタチカーワ。中央のお膝元といっても良いほどの距離にある地域なようだが、そこがまた恐ろしい場所なのである。

「これってもしかして……犯罪多発地区といったところじゃないの?」

 宿屋にて少し早めの夕ご飯をシノブと一緒に食べている俺が恐る恐る尋ねるとシノブは平然としながら応える。

「そういう言い方ってよく分からないけど、治安が悪いので有名ね」

 見りゃ分かるよと俺は窓から道行く男たちを見る。学校の廊下ですれ違ったら端に寄り、目を背けたくなる雰囲気な輩のものがよく目に入る。俺は中学時代を思い出した。やり過ごした後に背後から聞こえる奇声や威嚇の鳴き声とかを。不良の世界または獣の世界……中学校とはそういう負の世界なのである。

「そんなに怯えないで。明るいうちはそこそこ普通なのよ。問題はもう少し暗くなってから。よそ者はまず外出禁止ね」
「わかった夜は出歩かないようにするよ」
「逆よ逆、今宵こそが狙い目、私達が選ぶ選択肢よ。」
「狙わないでくれ。なんか分かる。ここはいままでの場所とは違うって」
「問題地だからね。治外の地とまではいかないけど官憲もあまり足を踏み入れたりはしない。だからこそいいのよ。良いアカイ? 私達はもう目的地の一歩手前まで来たの。これは喜ばしいことではあるけど同時に敵の懐に入ったも同然。やつらが何をしてくるか分からない。ここではない治安の良いところに入ったら、すぐさま官憲が現れ事情聴取からの任意同行そして逮捕よ。私達のことは兄さん経緯でこちらに広く知られていると考えた方が良い。旅人で怪しい風体の男女二人連れ……なかなかに目立つのよこれ」

 自分達は世間からどう見られているのかなと、俺はシノブの真剣な声に対して妄想を膨らませた。訳あり事情な二人……駆け落ち上京……とにかく客観的に見れば、これは恋人同士以外のなにものでもないのでは?

 考えてみればそんな風に人から見られることは今まで無かった。あるはずが、無かった。だって女とこんなに長時間歩いてどこかに行ったことなんてないのだから。このままずっと旅をし続けられたら、とも俺は妄想する。そうしたらもしかして自然と恋人のような関係となれて、自然と手を繋ぎ子作りできて幸せな家庭を築けるのではないだろうか?

 試練というものはどこかに吹き飛び遠くで行われる他人事としてそこから背を向け二人で遠くに……問題はシノブの意思だが、彼女がこう言えばすぐに収まるのだ「アカイ、どこか遠くに行こう」って。もちろん俺はそれに対して驚いたふりをしつつも、苦渋の決断で以って受け入れるように微かに頷く。

 お前が言うのなら仕方がないという体裁にしなければならない。えっ? 自分から言ったらどうだ? 馬鹿を言っちゃいけないよ少年。大の男が自分の方から逃げようなんて言えるはずがなかろうに。女子供の懇願によってはじめて逃げても良いかという考えが生まれるというのだ。それが、男、なのだ。こんなおっさんでも、モテなくても、弱くても、カッコ悪くても、俺は、男なのだ。

 自分から逃げるとかなんて言えはしないし、ましてや女に、もっといえば一回り以上も下の若い子に、もっといえば愛している美少女に、言うぐらいなら死んだ方がマシな程の屈辱だ。でも正直言って貰いたいところだが、シノブは残念なことにこっちの気持ちなどまるで意に帰さずに物事を進めていくから困ったものだ……

「どうしたのアカイ? もしかして怖がっているとか?」

 心を見抜かれたかのようなシノブの一言に俺は急いで首を振る。ビビッてなどいない! 妄想していただけだ! 君との未来をね! 分かりやすく大げさにアピールしなければ! 違うこれは逆だろまるで本当に怖がっているようじゃないか!

「まぁ怖がって当然よ。私達はこれから世界の滅びをもたらす陰謀を相手に戦うようなものだからさ」

 いつにもまして真剣な表情のシノブにアカイは安堵した。俺は見くびられたわけではなかったのだと。あと真剣な表情の美少女はやはり最高だとも感じた。俺は恋人に後輩に妹あるいは娘そして妻を母を同時に持てるかもしれないという期待にも胸を膨らませる。そうだ怖がっている場合ではない。

 俺にとっての真の恐怖とは、試練に敗れシノブが知らない男の妻とされ子作りセックスさせられることなのだ。後日ビデオレターを送られることはないにしろ、年賀状で知らない男とその子供との家族写真が添えられていたら死んでしまうかもしれない。写真に写るシノブの表情はもはや自分の運命を諦めているゆえのにこやかな笑顔であるだろう。想像するだに慄いてしまう!

 それ以外のことなら、なにも、怖くない。怖いが怖くない。耐えられる。耐えられることは恐怖ではない。耐えられないことのみを回避すべしだ、俺! しかし俺は寝取られにあまりにも恐怖しているが、これって裏返すと大好きになるんじゃ? 例えば寝取られに何の興味もなく意義をも見いだせないのなら、これは伴侶が突発的な事故に会ったものだと処理して適切な対応をするだけで、その後も普通に生活が出来るのかもしれない。これを俺はできないと思う。つまり気にしている要するに寝取られをすごく重要視している。よって大好き、なわけあるかーい! 

「それでどう進むの? そういえば俺はこの旅の目的というかゴールやらをまだ詳しくは知らないのだが」
 
 俺は気を取り直してシノブに尋ねた。そうだ以前に聞いた話の先をそろそろ知らないと。
 
「やっと知る気になったの?」

 シノブがやれやれという表情をしたので俺は動揺する。いや、それはそっちが話さないからであって俺はいつも……いや気にも留めなかったな。だって俺にとってはシノブを嫁にするという目的だけで旅していたし他は結構に本気でどうでもいいことであったし。それにほら俺って他人から言われるのを待つタイプだし、言われないなのなら言われないでそれでいいやとしてきて……それが駄目だってよく怒られたけど。だって話を聞いたら怒る人としか会ったことがないんだからしょうがないじゃん。悪いのは俺以外のお前らなんだよ。自覚して。

「そうだな、知る気になったから教えてくれ」
「うん、分かりやすく簡単に話すとこうなるわね。まずはこの世界はね、王子によって平和が保たれているの」

 王子? とアカイは自身の眉間が反射的に皺が寄るのを感じた。なんだろうその響き。とてつもなく、不快なものを感じてならない。勘違いかもしれないが……勘違いであってほしいが、王子という単語を出した際のシノブは嬉し気で微笑んでいるようにも見えた。

 俺の名を呼ぶ際には、絶対に、そんな表情を、しないというのに……
 そういえばスレイヤーやカオルがそんなことを言っていたような……

「王子はすごい魔力を持っていてね、その力によって」
「へーあっそう」
「えっ?」
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