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しおりを挟む「……はぁ」
相変わらずの嫌がらせ電話にため息を漏らす。通知が何十件か鳴って、そのあとに画面全体に着信の表示がされる。
途端に体がびくついて、スマホを落としてしまう。丁度電話をかけようとしていたところだったのだ、普通ならタイミングよかったとばかりに出るだろう。
けれどそんな気軽にはいかにない。ミノルと話をするのは心の準備がいるのだ。一言でいうなら、あいつは嫌な奴なのだ。できることなら二度と会いたくないというのに。
それでも、ヴー!ヴー!っと鳴りやまないスマホに急かされて拒否のボタンを押すわけにもいかなくて震える指で、通話ボタンをタップする。
『……あ?、おい!!乎雪!!!お前今、どこに居やがる!!』
怒声が響いて、眉間にしわを寄せた。
『返事しろ!!ったく、いい加減にしろよなあ?納期迫ってんだよ!!つうか、電話にもでねぇ!!いきなり逃げやがって音信不通ってのはプロとして終わってんだろ!ふざけんなよなあ!まじで!!』
「……、ごめん」
『はあ!?申し訳ありませんでしたってんだよそこは、ばっかじゃねえの?やっぱ頭わりぃなお前』
「……」
『はっ。気に入らねえことがあるとすぐに黙りやがって!!小学生かよぉ!!お前は!!』
怒涛の罵りに、喉がきゅうっとしまって声が出ない。言い返したいけれど、ボクがバカなのも社会に出たことがない世間知らずなのも事実で、ミノルに言い返せない。
ボクが黙っていると、スマホの向こう側から盛大な溜息が聞こえてくる。
『……それで?やっと戻る気になったんだろ?どこにいる?お前位置情報共有切っただろ、スマホの充電はあるな?ラインですぐ居場所、送れ』
……位置情報?ああ、やっぱり、そういうのしてたのか。
ここから不用意にでなくて正解だった。きっとミノルはボクがこんな場所に住めるわけないから、この付近でその位置情報をミノルに伝えているサービスに気が付いて切ったと思っているのだろう。
『ったくなぁ、お前の癇癪に付き合わされる、俺の身にもなれよ。俺はお前の親じゃねえんだよ、っこの、愚図っ!!』
「……、帰らない。って、いうか、依頼の絵ももう、仕上がってる」
『……あ?……は?』
ミノルは理解できないとばかりに、少し黙り込んで、それから、舌打ちする。
『マジで言ってんの、お前?』
「言ってる。お金もかえ、返してほしい。ヤギさんは、依頼さえこなせば、自由にしていいって、言ってくれ、たし、ボクは……ミノルに頼らなくても、絵が描ける……から」
『……そーいう話かよ。恩義も何もねえのなお前。何が絵が描けるだよ、そもそも、俺がいなきゃ今のお前がないだろ。頭、わりいな』
「……」
『つうか、なんだ?どっかの慈善団体にでも拾われてんの?それとも、あのバカ高そうなマンションの女にでも拾われた?』
ほぼ正解なことを言い当てられて、なんとも言えない嫌な気分になる。身分証も印鑑もお金もない人間がまともな生活を手に入れる選択肢は多くないので、簡単に予想はあたるのだと思うが、見透かされているようで怖い。
『それで?お前こっから先、そうやってなんかに寄生して生きてくのか?生き方考えた方がいいぞ?その場所もどうせ嫌になって、また後先考えずに逃げ出すだろ』
「そんなことっない!」
『無いわけねえだろ。実家からも家出して、八木さんとこもダメで、お前いい加減、自分が社会不適合者のクズだって認めろよ。普通は一回だって、家出して宿無しになんてなんねえよっ!!ばぁか』
……そんなの、わかってる。でも、仕方ないんだ。そうする以外、考えつかなかった!
頭の中で言い訳するが、当然口になんて出せない。
『どーせ、言い訳ばっか頭ん中めぐってんじゃねえの?でも、俺に言い負かされんのが嫌で、黙ってんだろ、情けねぇ』
「っ。……とにかく、戻らない。から」
『……そうかよ。まあいいや。どうせ、俺に会いに来なきゃ、金も身分証もねえもんなお前』
ボクが宣言すると、今ここで言いくるめるのは諦めたらしく、ミノルは少し黙ってそれから、スマホが、ピロンっと通知の音を告げる。
『明日、ここに来い。逃げんなよ』
「……わかった」
答えると、通話はぶつりと切れた。送られてきた場所を見てみると、そこはこのマンションからほど近い、カフェだった。逃げるなと言われても納品しなければいけない絵がある。ボクがどれほどミノルに会いたくなくても、行かなければならないだろう。
……っ~!!
どうしようもなく苛立って、スマホを床にたたきつけようと振り上げるが結局、ベットの方に強めに放り投げる。
それから、絵を描くときに何となく気に入ってそばに置いている、白いタオルに手を伸ばして、顔をうずめる。そうすると、少しだけ安心できて、涙が滲んでくる。こんなに涙もろい方ではなかったはずなのに、セージに泣かされたせいで、タガが外れてしまっているのかもしれない。
なににせよ、ろくに言い返せなかったことにも、今まさしく情けなく泣いてしまってることにもむしゃくしゃして、声を殺して涙を流し続けた。
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