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 もう声をあげたくなくて、セージの手から逃れるために、マットレスを蹴って、逃げようとするも、足首をつかまれて、元の位置に戻される。それから尾骶骨あたりに手をのせられて、押さえつけられれば逃げられない。

「ひっ、ああ、う。……、」

 まるで逃げようとしたことを咎められるように一層強く責められれば、涙腺が決壊して、ぽろぽろ涙がこぼれた。

 指を根元まで埋められて、奥の辛いところを突かれる。

「あ、っ゛、ン゛……ッ、ンん!」

 咄嗟にこらえようと、下唇をぐっと噛むと、口の中に、鉄の味が広がって、自分の想定より強く噛んでしまったのだとわかる。痛いけれど、口を開けばまた、聞くに堪えない自分の声が漏れ出てしまうと思うと、どうにもならずに、また強く噛む。

「くぅっ、ん!」

 すると、急に指が引き抜かれて、背後から、髪を鷲掴みにされて、ぐっと引かれる。

「っあ!」

 口を閉じていられなくなって、ガクッと頭が上を向く。急に乱暴にされて、理解ができずに硬直すると、セージはボクの背に馬乗りになって上からのぞき込んでくる。

「……ユキ。今なにしてた?」
「っつ!、く、は、?」
「声我慢するのはいいけどね。それは俺、やめてほしいな」
「な、ん。なにっ」

 ……やめるって、?なに、なんか、怒ってる?ボク、怒らせるようなこと、したの。

 咄嗟のことに、頭が回らず、上手い返答が考え付かない。引かれている髪が痛くて、限界まで上を向かされているのも辛い。

「……わからない?これだよ、ここ」

 彼の手が伸びてきて、ボクの唇に触れる。指でなぞられると、びりびりと痛い。

「っつ、い、ひゃい」
「だよね。触っただけで、こんなに痛そうなのに、ユキが痛くないわけないよね」
「ぁ、ぅ、うう」

 そこまでされて、ようやく彼が何に怒っているのかわかる。これほど優しい男なのだ、ボクが意図的に自分を傷つけたとなれば、怒るのだって理解できる。

 ただ、そうはいっても、それが理解できたとして、怒られているという事実は、まごうことなくそこにあるわけで、今組み敷かれているという、立場的な優位性は完全に彼の方にあるのだ。

「俺、そういうのだけは許せないんだ。わかる?ユキ、君に言ってるんだよ」
「っ、……」

 低い声は怒気を孕んでボクの事を呼ぶ。それだけで、強がりたいのに身が縮みあがって声も出ない。

「やめてくれる?約束できない?それとも、痛いのが好きだからやったの?」
「、ち、がっ」
「そうだよね。ユキはそんな感じじゃない。君は優しくされる方が好きだって俺は思ってるよ。でも、いくら、声我慢したいからってこんなことしちゃだめだよね」

 ……い、たいのは、嫌だ。怒られるのはもっといやだ。セージ、怒んないで、もうしないから。

 心の中ではすでに許しを乞うているのに、どれから言っていいのかわからない。

「……そもそも、どうして、声なんか我慢しようとするの?聞いてる、ゆーき。……はぁ、どうせ恥ずかしかったんだろうね」

 そうなのだ。仕方なかった、でも血が出るまで噛んじゃったのは、不慮の事故みたいなものだ。

「そんなこと、気にしなくていいように、いっそすごく酷くしようか?」

 一向に、返答を返さないボクに苛立ったのか彼はそんなことを言ってくる。その言葉を聞いて、ボクの中でガラガラと自尊心が崩壊していく音がした。

「あ、ゔっ。……ひっ、うぅ」

 ずびっと鼻水をすする。喉から、ひきつった声が漏れた。

「う、ゔぅ゛~、っく、ぅ、ご、め。ごめん、なさっい。っ!怒ん、ないで、せーじ……ご、ごめ、なさ」

 頬を涙が伝って、ぱたぱたと落ちていく。とんでもなく情けなくて、それこそ喘ぎ声なんかに比べ物にならないほどだったのに、そんなことも気にせず泣きじゃくった。



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