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真実の記憶 3
しおりを挟むそもそもフィーネは、どうやら人とは違うらしいのだ。特別な力と血筋を持っていて、それを認知することなく、その力をまるで自分が努力して開花させた力のように思いこんでいた。
そして、ローザリンデの言葉からして、アルノーもその力の餌食となって、フィーネにこんな暮らしまで与えているようなのだった。
フィーネはアルノーに力を使ったことはまったく覚えていなかったがローザリンデが言うのならそうなのだと思う。
それに今まで、彼の行動には違和感はあったけれどもそれなら、納得がいく、彼は自由意志の元ではなく、フィーネに操られてただ与えているのだ。
どうりで腑に落ちないわけだ。だって、常識的にはありえない力を使っているのだから、普通に好意的に思われているのと違って当然だ。
となればつまりは、フィーネはアルノーから奪っているも同じこと、居場所も権力もお金も彼の意思の自由も。
……たしかに、こんな状況で、わがままを言うなんて傲慢だわ。ローザリンデ様は正しいのよ。
それならただ静かに、自分の責任で望める最大のわがままである自分が生きることだけをまっとうして、アルノーには申し訳なく思いながらつつましく暮らしていくのが一番だ。
そんな結論を出すのもこれで十八回目だった。マリアンネの記憶を見せられたところから考え直して十八回。
すべてが同じ結末にたどり着く。
それに、自分自身が今は恥ずかしくてたまらないのだ。勘違いをして、勝手にやる気になって、出来ることがあるだなんて思いこんで。こんなにも誰一人の幸せも望めない、つまらない人間がなにをできるつもりでいたのだろうと。
……つまらない。確かにその通りだったわ。ハンス殿下。私は、きっとあなたの言う通り欠落しているのだわ。なにかをなせる人間じゃないのよ。
肯定して自虐してしまえば、その羞恥心は少しばかり薄まるような気がしたが、それもただの自己満足で決して意味はない。
それでもまたヒビの入ったガラスケースに祈りを込めながら、考え直そうとした。
納得ができるまで、何度でもいろいろな事を加味して、すべてを取りこぼさないように。
小さな光がケースの中にともる。
……お母さま……。
心の中で呼びかけた。
それでも、答えは返ってこない。こんな時にはどうしたらいいのか、と彼女に聞きたかった。しかし、それを問うことはできないし、それにフィーネの中には、このガラスケースに関するほんの少しの大切な記憶以外に母の事を覚えていなかった。
何か一つか二つぐらいは人生の指標になるエピソードぐらいはあってもいいはずなのに、絶対的な信頼を置いていた大切な人、ということ以外は中身のないがらんどうの気持ちだけしかない。
それはさながら、ケースだけしか形見として持つことができなかったこれと同じようであり、しかし明確に違った。
ガラスケースにはきちんとアクセサリー入れとは違った存在理由があり、きちんと祈りの為の道具としての役目をまっとうしている。しかしフィーネの母の記憶は、こんな時にすら、拠り所になるものがない。
そんなことを考えてから、ああ、と懐かしい気持ちになった。
……私は、心細く思っているのね。
昔はよくそのことを思い悩んでいたのだ。母の記憶があまりない事を。そういう時は大抵、自分が心細くて不安な時なのだ。
そして昔からつけているクローバーの髪飾りに触れる。これだけはベティーナに取られなかったのは、小さいころから肌身離さずつけているものだったからだ。
さすがに彼女とて身に着けている物をひったくっていったりはしない。だからこれだけは、身に着けていたのだ決して奪われないように。それがいつしか習慣になって、もう何も考えなくともずっと愛用するようになっていったのだ
……それに、これはとっても素敵な物なのよ。クローバー、それも四葉のクローバーのモチーフなの。幸せを運ぶ、縁起のいいもの。それに、素敵な花言葉があるのよ。
だからこれを持っていれば誰かに必要とされているような気がして、少しだけ心細い気持ちがましになる。
指でその柄を撫でるように金具をさする。
それから、また考えを巡らせた。今度は違う結末になるといいと思いながら、考えた。なぜそれほどまでに考え直すのか、フィーネは気が付くことができないまま、時間が過ぎていくのだった。
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