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暴走 6

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「……どうかなさいましたか?」
「い、いいや。何でもない。し、しかしな、母上は、少々面倒な性格をしているだろう?父上も、あまり融通の利く方じゃない、無理をして合わせてるんじゃないか?」
「いいえ?お二人とも……好意的に思ってくださってるのが伝わってきますから」

『それに、人間、性格の欠点など誰にだってあるものだわ。私にもある。それらの問題が乗り越えられるかどうかは、相手に寄り添いたいと思う気持ちがあるかどうかよ。お二人にはそれがある、だから、無理なんてせずともこうして良好な関係を築くことができた』

 口に出すのの倍以上は心の中で話して、それにはアルノーも同意したかったし言ってもいいと思うのだが、フィーネは口をつぐんでアルノーの言葉を待った。

「なら、……良いんだ。フィーネ」
「はい」

『関係は築いた、ローベルト様とこれから仕事をしていく上での有用性も示すことができたし、調和師の能力についてもエリーゼ様にそれとなくこの家のために使うつもりがある事をほのめかしておいた。私にできることは今までですべてやっているし、これからも変わらず続けるつもりよ』

 アルノーはもういっそこの際だからとフィーネの考えの続きを促してしまおうと考える、いつか、思っていることまで素直に話してくれると良いのだが、それはきっとても先のことになると思うので、今回ばかりは彼女の考えを知っておかないと、距離は縮まらないと思う。だから仕方なく口を開く。

「君はこれから先、どうするつもりなのか、教えてくれないか」
「……精話師の家系であるアメルハウザー公爵家令嬢の、ローザリンデ様に一度お考えを聞きに行くつもりです」

『どういった方なのかはわからないけれど、アメルハウザー公爵家は、ディースブルクと同じく大きな力をもつ国一番の権力のある貴族だ。そんな彼女が魔物の襲撃事件を起こして、なおかつ、国王陛下はすでに倒れている。次の世代の王夫婦がベティーナとハンス殿下では……場合によっては現王家エーデルシュタインは王座を手放さなければならないかもしれない』

 ……フィーネはこんな情報どこから手に入れてるんだ?

 アルノーは疑問に思いつつもそれほど驚きはしなかった。たしかに王族派閥ではないディースブルクやアメルハウザーなどの大貴族はいよいよ王家にたいする不信感をごまかせない。

 特にアメルハウザーは、建国にも携わっていて王家と同じくらい古く尊い血筋をもつ、王家がすげ替わるのも無くなはい話なのだ。

 しかし、魔物の襲撃事件の犯人の方は初耳だ。彼女の思い込みなのか事実なのかもわからないし、それをはっきりさせる役目ではないのでアルノーはスルーすることにした。

「君の考えとして、これから先、国はどうなっていくと思う」
「……きっと数十年前のように戻るのが、平和な道だと思うわ」

『きっと、ヨーゼフ国王陛下から、少しずつ伝統的なことをないがしろにする風潮が生まれていったのだと思うわ。それがないがしろにして問題のないただの古めかしい因習であれば問題は無かった、しかし、精霊という力ある存在、それを借りて人間も生活をしている以上は、無視できない問題で昔のやり方に戻るのは自然であり、血が最も流れない方法だと思うわ』

 すべて聞いて、アルノーもその意見におおむね同意し、まだ続くフィーネの思考に耳を傾ける。

『だから、ローザリンデ様がもしも今の王家には希望はない、新しい王家を立てるつもりがあるのなら……私は……どうしようかしら。まあ、話を聞いていない状態で考えても仕方がないわ、分からないことだって多いし。だからこそ目の前にある出来ることからやるべきよ。安定した生活を手に入れるには、国が安定していなければならない、平穏を、命の保証を手に入れるためにも、私は立ち止まっていることは出来ない』

 フィーネの思考は、どんどんと加速していって、同時に理由をたくさん考えて自分を追い詰めているようにも思えた。

『大きなことや随分先の未来を考えるときには、きちんと足元を固めなければならないわ。価値は示した、できる限りの期待には答えたつもり、後は……』

 フィーネの心は冷たく冷え切っていて、しかし、そんなことを感じさせない瞳で、フィーネは、アルノーを見つめていた。

「争いになるかもしれない、でもきっとそれほど、大変な事態にはならないと思うの。バランスが大分傾いているから」
「そうだな」

 言葉だけ聞けば、彼女自体が何かをしようとしているのではなく、あくまで、未来に起こりうることを話しているだけのように聞こえるが、実際は、彼女はどうあってもそれを自分の問題としてとらえている当事者であり、それが今まで王妃となるべく過ごしてきたフィーネの思考なのだと思う。

 国の事を考え、その地位にたどりつかないのだとしても国全体を見るための広い視点を持っている。

 そして今、その視点や思考は、彼女自身を追い詰めるために存分に使われていた。

「不安なことは多いけれど、私は、アルノー様のおそばにいることができるから安心できるわ」

『後は、私の持っているもので、渡していない価値はあとはこれだけ。私は、この人から見放されるわけにはいかないの』

 フィーネは手を伸ばしてテーブルの上に置いてあったアルノーの手の甲へと触れた。表情は先程と変わっていないが、フィーネの思考は悪い方へと悪化していた。

「アルノー様、今日はこの屋敷に帰ってきてくださってありがとう」

『この人に見放されればすべてが瓦解する。先の安定も重要だけど、きちんと今の出来ることをやり遂げなければ、大丈夫よ。フィーネ。きっとできるわ』

「ずっと会いたかった」

『ずっと早く会って、こう言ってしまいたかった。いくら怖がったって、取り返しがつかなくなってしまえば、きっと私は私を差し出せる。そうなれば、誠実そうなアルノー様は私のこと見捨てたりできない……そうよね。そうであってほしいわ』

「……今日、貴方のものになりたいの」

『これでいいのよ。まだまだやることがたくさんあるし、こんなのは通過点にしか過ぎないのよ、だから大丈夫。魔物に襲われた時と一緒よ、過ぎ去ってしまえば、あとはどんな感情が残ろうとも、現在のやらなければならない事で頭をいっぱいにできる』

 すり、とアルノーの手の甲をフィーネの人差し指が撫でて、あまりに煽るものだから、アルノーはアルノーでどう考えても正常な判断をできていない彼女を抱いてしまいたいなんて思った。

 が、しかし、どう解釈しても、フィーネはアルノーのことを信頼して受け入れたいと思っているから、誘い文句を口にしたのではない。



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