56 / 137
初恋 6
しおりを挟む何故、距離を置かれているかというと、彼女は窓から中を見るだけの身長が足りないにも関わらず、どうしても親の顔を見たいのか、そちらに行きたいのかわからないが、大人のパーティー会場をのぞこうと窓枠に手をかけて、躍起になっていた。
普通は、このくらいの年頃なら親に執着しなくとも、子供同士で楽しむことができるはずだし、それができないと精神年齢の幼い子供として、周りから距離を置かれる。
幼くとも貴族であり人の上に立つ人間が甘えてばかりではいけない、多くの貴族の子供がそう言われて育てられる。親に会いたいというわがままは許されない。その貴族としての立ち居振る舞いを全く無視した子供っぽい行動に、彼女に関わろうとする子供はいなかった。
それをじっと見てアルノーも、壁を挟んで至近距離に親はいるのに、こんなに寂しがりでは、日常生活でも大変だろうと、どこか冷めた気持ちで最初は彼女を見ていた。しかし次第にその意味もない必死さが、どこか可哀想に思えてきて、その子のそばへと寄った。
「……どれほど背伸びしても身長は伸びないぞ」
背後から声を掛けると、彼女はピタッと動きを止めて、ゆっくりと振り返る。その顔は、先程の金髪の令嬢とは違いどこか不安げでおどおどしているような、気弱な夕日の瞳を持った少女だった。
……この子がフィーネか。小さいな。
窓ものぞけない幼い令嬢は、同年代でもやや大柄なアルノーと比べると、半分くらいの大きさしかないのだった。そんな彼女は一生懸命に、上を向いて、あまり好意的ではない表情をしているアルノーのことを見上げる。
その瞳には、涙が堪っていて、あ、まずいと思った。こんなパーティーの席でなりふり構わずに、自分の親に会いに行こうとするようなお子様である。もしかしたら、アルノーのことを怖がって泣きわめいたり、もしくは癇癪を起こすかもしれない。
そうなっては面倒だと考えたのもつかの間、フィーネは、アルノーの手を取って、懇願するように言う。
「その、ええと、それはわかっています。でも、どうしても心配なのです。お母さまが見えませんか、私とよく似ている人なのですよ」
「!……ここからでは主催者席は見えないな」
「……そうですか……そうなのですね」
存外、きちんとしゃべりだした少女にアルノーは若干面喰いながらも手を離して、離れて行く少女のことが気になった。もちろん調和師の家系であることも起因しているが、その力を得るための本命は彼女の母親だ。それにこんなに小さくては、力を使うなど到底無理だろう。
「君の母上には何か心配するような問題があるのか?」
「お母さまは、体が弱いのです。今日も無理をなさっている様子で……」
「だから、あちらの状況を確認しようとしていたのか」
「ええ」
頷き、彼女は恥ずかしそうに微笑んだ。言葉使いも子供にしては綺麗で、どこか大人びた印象のある子なのに、やっていたことは必死に背伸びをして、窓をのぞき込んでいたというギャップがなんとも年相応で可愛らしく思えた。
先程の金髪の令嬢が来ていたドレスとは違い、落ち着いた色のドレスを着ているのも早く大人になろうと背伸びをしているからなのかと考えを巡らせた。
「ここからでは君の母上は確認できないようだから、君もあちらに行って皆の会話に参加してきたらどうだ?ここにいてもつまらないだろう」
一人だけ違った行動をとっている彼女を諭すようにそう言うと、フィーネは、ニコッと笑みを浮かべて、ゆるゆると頭を振った。
「いいえ、私はいいの。母が心配というのもあるけど、あの子の邪魔になってしまうから」
大人びた表情でそう言う彼女の瞳の先には、先程の金髪の令嬢がおり、皆に囲まれてまるで姫君のように美しい笑みを浮かべている。
「主役は君だ、邪魔になるなんてことないだろ」
当たり前にそう返すアルノーに、フィーネは、やっぱりにっこりとほほ笑みを浮かべてフルフルと頭を振るのだった。
「それに、私には、花がないもの。つまらないわ」
自らのことをそんな風に形容して、フィーネは力なく笑顔を見せるのだった。
10
お気に入りに追加
169
あなたにおすすめの小説
いらないと言ったのはあなたの方なのに
水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。
セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。
エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。
ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。
しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。
◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬
◇いいね、エールありがとうございます!
誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。
二人の公爵令嬢 どうやら愛されるのはひとりだけのようです
矢野りと
恋愛
ある日、マーコック公爵家の屋敷から一歳になったばかりの娘の姿が忽然と消えた。
それから十六年後、リディアは自分が公爵令嬢だと知る。
本当の家族と感動の再会を果たし、温かく迎え入れられたリディア。
しかし、公爵家には自分と同じ年齢、同じ髪の色、同じ瞳の子がすでにいた。その子はリディアの身代わりとして縁戚から引き取られた養女だった。
『シャロンと申します、お姉様』
彼女が口にしたのは、両親が生まれたばかりのリディアに贈ったはずの名だった。
家族の愛情も本当の名前も婚約者も、すでにその子のものだと気づくのに時間は掛からなかった。
自分の居場所を見つけられず、葛藤するリディア。
『……今更見つかるなんて……』
ある晩、母である公爵夫人の本音を聞いてしまい、リディアは家族と距離を置こうと決意する。
これ以上、傷つくのは嫌だから……。
けれども、公爵家を出たリディアを家族はそっとしておいてはくれず……。
――どうして誘拐されたのか、誰にひとりだけ愛されるのか。それぞれの事情が絡み合っていく。
◇家族との関係に悩みながらも、自分らしく生きようと奮闘するリディア。そんな彼女が自分の居場所を見つけるお話です。
※この作品の設定は架空のものです。
※作品の内容が合わない時は、そっと閉じていただければ幸いです(_ _)
※感想欄のネタバレ配慮はありません。
※執筆中は余裕がないため、感想への返信はお礼のみになっておりますm(_ _;)m
私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。
彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。
それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。
そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。
公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。
そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。
「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」
こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。
彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。
同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。
【R18】傾国の姫、異世界へ行く
やまだ
恋愛
美しさを武器にチヤホヤされて生きてきた凛。
ところがある日異世界に落ちちゃったからさあ大変!
異世界で快適な環境をゲットするため、凛はとりあえず助けてくれた獣人を籠絡することにした。
性格の悪い女が身体使って良いようにしようとしたら、ちょっと深く落としすぎてそのまま狩られてしまう話。
茶番には付き合っていられません
わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。
婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。
これではまるで私の方が邪魔者だ。
苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。
どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。
彼が何をしたいのかさっぱり分からない。
もうこんな茶番に付き合っていられない。
そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。
拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら
みおな
恋愛
子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。
公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。
クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。
クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。
「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」
「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」
「ファンティーヌが」
「ファンティーヌが」
だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。
「私のことはお気になさらず」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる